第十三話 初めてのフラグ、でもフラグはへし折るもの
くろごまを頭に乗せながら俺はまた蔵書を読みながら歩いている。
くろごまは丸くなって寝ている
さっきまでは俺が森で集めといた果物を食べていたが、腹が膨れたのかそのまま寝てしまった。
どうやら小さくなると胃袋も小さくなるようだ
一眼レフカメラで撮りまくりたいがこいつの眠りを妨げるわけにはいかん
仕方ないのでくろごまの寝息をBGMにコレを読んでいると言うわけだ
そう思っていると街道の横にウサギがいた
こっちに尻を向けもしゃもしゃ草を食っている
ふむ、ウサギって大型犬くらいあったっけ?
そう思っているとウサギがこっちを向いた
と思ったら突っ込んできた
ふむ、すまないなウサギよ、俺にはすでにくろごまがいるのだ
お前がどれだけ俺を想ってくれてもその気持ちには答えられない
何よりお前からは殺気を感じる
俺は自分に殺気を向けてくるなら動物でも容赦はしない
突っ込んでくるウサギは距離3mくらいのところで思いっきり俺の首目掛けて跳躍してきた。
そして首に噛み付いたと思った瞬間地面に叩きつけられていた
俺の顔の前には尻尾がぷらぷらしている
頭の上からぶら下がっている銀色の尻尾、
それは紛れも無くくろごまの尻尾だった
頭の上からは相変わらず寝息が聞こえる
寝ながらでも敵意には勝手に反応するんだろうか?
体型はそのままで尻尾だけ伸ばしてやったみたいだ
ちなみにくろごまがどういう風にしてるかは分からんが俺が頭を傾けてもずり落ちたりしない
磁石みたいな力で俺の頭に乗ってるようだ
ウサギは完全に気絶していた
ふむ、こいつは俗に言う魔物かな?
焼いて食えばうまそうだな
しゃがんで観察しながらそう考えていた
そういあ魔物と魔族の違いってなんだろう…知能かな?味かな?
今度魔族の味見でもしてみようかな
その後も動物に似てるがなんか違うのが何回か出てきた
さっきのウサギも良く見てみたらウサギじゃなかったし
こいつらが俗に言う魔物、もしくはモンスターなんだろう
そいつらの相手を(くろごまの尻尾が)していると地平線の先に建造物みたいなのがようやく見えてきた
「おおう、なかなか大きそうなとこだな」
まだ小さく見える程度だが規模が大きいというのはなんとなくわかる
このまま行けば昼過ぎくらいにはつくかなあと思っていたら
「ぎぅ」
とくろごまが鳴いた
いつの間にか目を覚ましていたのか
寝ぼけ眼を見損ねてしまった、悲しい
頭から伝わる重心の移動からなにやら一点を見つめているらしい
なんだ?と思ってそっちを見てみると街道から結構離れた所に人が集まっているのが見えた。
人数は20人くらいで激しい剣撃の音が聞こえる。
どうやら戦闘中らしい
殆どがごろつきや盗賊っぽいぼろい服に武器を持って一人の人間に攻撃しているように見える。
相手は女かな?一人であれだけの人数相手にやりあえてるとこ見るとそれなりの腕のようだ。
だが段々動きが鈍くなっている。
怪我してるのか妙に行動がぎこちない
まあこの世は理不尽で満ちてるんだしこういうこともあるだろう
正直者は損をする、狡賢い奴が得をする
思想は無くとも力があれば勝つことが出来る
弱者が強者に救われるなんて夢物語でしかない
金がない奴は治療もできんし飯も喰えん
美少女はイケメンの元に集まるようになっている
美少女は最終的にイケメンに惚れるようになっている
イケメンは最終的にハーレムを作るようになっている
俺もその理不尽のせいでこの世界にいるわけだしな
「くろごま」
俺が言うとくろごまは2mくらいの大きさになった
くろごまの背に乗る
「低空飛行でおもいっきり突っ込め、その後お前は高度を上げて空から回りに伏兵がいないか見張ってくれ。あいつらは俺が殺る」
「ぐるぅ」
くろごまはそう言って4枚の翼を羽ばたかせ、人の群れに向かって超高速の低空飛行で飛び出した
お前のせいで
なんであんなことを
やっぱりあいつが
世の中は理不尽で出来ている、それを否定する気は無い
人の作った世界に理不尽が無いなんてありえないからな
だからってそれを甘んじて受け入れるつもりも毛頭ねぇ
世の中が理不尽で出来ているなら
ジンならできるよ
くろごまは音を置き去りにして滑空する。
低空飛行のせいで地面に生えてる草は根こそぎ横たわる
そして通り過ぎた後に出来る一本の道
乗ってる俺は当然とんでもない空気抵抗やGを感じるはずなんだが一切それが無かった
くろごまが守ってくれてるんだろう…かわいいし出来る奴だ
結構な距離があったんだがくろごまに乗ってから数秒くらいでもう10mくらいのとこまで来ていた
俺は勢い良く飛び降り、着地点にいた盗賊風の男に跳び蹴りを放った。
首辺りから鈍い音を立てて倒れる男
返事が無い、ただのモブキャラのようだ
着地点は囲みの一角、くろごまはそのまま一気に急上昇した
その場に居た連中は突然の事態に混乱しているようだった
襲われてた女はかなり顔色が悪かった、あちこち傷がある
もう少し遅ければスリーアウトだったな
勝負は最終回ツーアウト2―3からなのだ
蹴っ飛ばしたモブAの所まで行き、顔を片足で踏みつけ言った
「廃品回収業者です、ゴミの回収に来ました。シール無いのは回収出来ないのでシール代(命)払ってください。あ、勿論回収費(命)も別途頂きますので」
そう言った後、くろごまが置き去りにした音と風が俺の真後ろから一気に追いついてきて
俺と囲みの中心にいる女との間に一本の道が出来た
ようやく我を取り戻したのか
「な、なんだテメェぶっ殺されてぇのか!」
「いきなり来て分けわかんねぇこと抜かしやがって!」
「死にたくなけりゃとっとと消えろ!」
と盗賊風の男達が喚き出した
いちいち盗賊風の男っていうのもめんどいな
上から順にモブBCDでいいか
全員かわいそうな服装してんな
服というより布切れみたいなのもいる
武器も錆びてボロボロの奴ばっかりだなぁと考えながら観察していると
「黙ってんじゃねぇよテメェなにもんだ!」
モブの一人が尋ねてきた
「だからさ」
近くに居たモブDに延髄蹴りをかました
モブDの糸の切れた人形のように崩れ落ちていく様を見ながら
「廃品回収業者って言ってるじゃん」
そう言った
「テ、テメッ…!卑怯な真似しやがって!」
何を言ってるんだろうこのモブEは
今のどこに卑怯要素があったのか教えて欲しい
「お前らアホか?確かに尋ねられたら答えてやるのが世の情けだけどな、シールも張ってない粗大ゴミにかける情けなんざこの世にゃ存在しねぇーよ」
シール代ケチるんじゃねぇよまったく
持ってってもらえねーぞ
そう言って
俺は"この世界で"初めての殺し合いを開始した