第十一話 あいつ…無茶しやがって…
閃光が消え去って一人玉座の間に佇む一つの影、いや、玉座の間と呼ばれていた場所、
今は天井の一部が崩れ、辺りは瓦礫が散乱し粉塵が舞い廃墟のようになっていた。
その影は魔神と呼ばれる少女だった。
見た目は10代前半の幼さを残す少女
髪は眩く輝く金色で腰までストレートに伸びており黒いゴシックドレスを着ている。
西洋人形のようなかわいらしい外見だがこの城の主であり半壊させたのは紛れも無く彼女である
『魔神アークリンデ』
不老の力で無限に近い寿命を持ち、永遠の刻を生きている魔神。
その魔力は限界が無いと言われている。
彼女は初めて一つの激情に支配されていた。
「ふ…ふふふ、つまりはあれか?妾は勇者の策略にまんまと嵌り自らの手で多数の魔族をこの手で殺め、且つ宝物庫の中身を丸ごと盗まれたということか…?」
彼女は俯きながら自嘲気味に笑っていた
そして突然顔を天に向け、
咆哮に近い笑い声が先程よりも大きく魔神城に響き渡った。
「面白い、実に面白いぞ! 召喚されたばかりの身でありながらここまでの手段を講じ、これだけの結果を出すとは!」
彼女は笑う、踊りながら
本当に楽しそうに嬉しそうに
「これからしばらくは久々に退屈せずにすみそうじゃ!
全く何時以来じゃろうなあ!こんなに楽しい気分は!
アルセーヌ・ヒデト・Dソン・サギヌマよ精々妾を楽しませてくれ!」
と、文字通り気づかないうちに魔神に認められたものの、間違った名前で覚えられてしまったとうの勇者サマはというと
「こ、これは一体どうしたというのじゃ!」
「ひ、ヒデト様!?」
あのままの状態で城に戻っていた
「くそっだからやめろとあれほど言ったのにっ!」
気絶させた張本人が両膝を地面に付け両手を石床に叩きつける。
見る人が見れば本当に悔しそうに見える
「い、一体何があったのですか?」
おそらく初めてであろう、エクレール姫が彼の背に向かって尋ねる
気になるのは当然だ、眉目秀麗で話をしても好印象しか抱かず周囲への受けもいい…そんな期待どうりの勇者がなぜか鼻に棒(3mくらい)を突っ込まれ気絶した状態で帰還したのだ、気にならないほうがおかしい。
「…俺達があちらに着いて、しばらくして運悪く奴らに見つかってしまったんだ。それでもこちらには手を出せないだろうからこのまま時間が経つのを待とうと考えていたんだ…」
鼻に棒(3mくらい)を突っ込んだ張本人は語る、まるで見てきたかのように
「だが奴らは卑劣にも捕らえていたという人間の子供を連れてきて人質にしだしたんだ!」
周囲の人々がざわめく
「俺は、言ったんだ!『絶対にこれは罠だ、何もしちゃいけない!』って。
だがこいつは『こんな小さな子を見捨てて勇者なんて名乗れない!』って自分から奴らに触れてしまったんだ…案の定子供は魔族が変身していて、やつらは時間が来るまでこいつをいたぶり続けていたんだ!…くそっ俺があの時もっと強く引きとめておけばこんなことにはならなかったのにっ!」
額に油性ペンで巨乳と書こうとしたが油性ペンが無く本気で悔しがった張本人は語る
周りの人々が魔族の非道に対して怒りの声をあげる
そんな中、その部屋で最も非道な"彼"は立ち上がり、部屋の出口に向かって歩き出す
「ど、どちらへ?」
「街に出て空気を吸ってくる…これ以上ここに居ると俺は自分の不甲斐なさと奴らへの怒りでどうにかなってしまいそうだ…」
彼は振り向く事無く答える。その両の拳と肩を震わせ、いかにも怒りが爆発寸前であることを見せ付けるかのように
だが何も知らない人々の中に彼を引き止めようとする者は居なかった
俺はさっさと召喚の間を出て街へやって来た
あちらに行く時はまだ日は中天にあったのに今は日が暮れ、既に真っ暗になっていた。時刻にすると21時過ぎというところだろうか?
恐らくあの移動魔道具が関係してるのだろう
「さて、この国ともオサラバするか」
いやだってさあ、城の奴ら明らかに俺のこと消そうとしてるんだよ?
10日の間に"たまたま"警備の厳しい大臣の部屋に"たまたま"入る機会があったから折角だからと色々漁ってたら裏帳簿と一緒に俺の処遇についての書類があったんだよ。
内容を簡単にまとめると、"あんなのいらねえからさっさと事故死に見せかけて殺っちまえ"ってことでした。
なのでぼくは城を出る前に裏帳簿をひげもじゃ王の部屋にまとめて置いてあげました。
ついでに大臣の部屋にあった金目の物も全て蔵書にしまっておきました。
どうやら俺が貰うべき金をピンはねしてたらしかったので利子付けて返してもらったんだ、決して泥棒じゃないよ
この世界の細かいことは取りあえず別の街で調べるとして、今はさっさとここからとんずらかますことを最優先しよう。
早くしないとうざったいことになりそうだからなあ
そう言いながら俺は宝物庫のおっさんがくれたマントを取り出し、それで身を隠しつつ街を出た。
相当大きかったのでローブみたいに使うことが出来た。
取りあえず北に向かおう、ここからそう遠くない距離に街があるらしい。
こことそちらを行き来してる商人に教えてもらった。
人もここより多いらしいし、そこで今後のことを考えていこう。
ちなみにイケメン君は記憶を無くすように調整して蹴っといたのでめんどいことにはならないと思う
昔殺った杵柄ってやつですね。
こうして、魔族と人間の戦闘が今まで以上に激化する原因を作ったとうの本人は、その辺りを散歩するかのような足取りで街を出た