そらの瞳
「冬童話2026」テーマ「きらきら」の応募作品です。
ある夜に少女が見たキラキラの正体は何だったのかー
「そらの瞳」
それは小さな星がまたたくある夜のことでした。
小さなベッドの上で、少女がぱちっと目を開きました。
「今日こそ、たしかめてみせるんだから」
少女はむくっと起き上がると、部屋の扉に目を向けました。扉の向こうにはだれもいないようです。しかし、耳をすませると少女の頭上からわずかな物音が聞こえてきました。
(やっぱり、きこえる・・・これは何の音かしら)
少女はリズラという名前の女の子です。リズラはいつも自分が寝ている時間に聞こえる音が気になっていました。家族に聞いても「風の音だよ」「リズラの気のせいだよ」とあしらわれてしまいましたが、どうにも納得することができません。
そして、今日こそはその正体を突き止めようと自分自身に約束したのです。
リズラはベッドからカタツムリのようにゆっくりと足を伸ばしました。一歩、二歩と音を立てないように歩き、扉の前までたどり着くと、扉に手をのばしかけて、動きを止めました。そして扉の前に来たときより早歩きでベッドに戻りました。
「あんたのことを忘れていたわ。しっかり私を守るのよ」
リズラはそういうと、ベッドの上にいた人形をむんずとつかみました。握りしめられた人形のおなかに仕込まれた袋から、ぷぴ~という間の抜けた音がします。
好奇心旺盛なリズラでしたが、やはり夜の廊下という見えない恐怖に立ち向かうには仲間が必要だったのです。
扉の前に戻ったリズラは人形を抱きかかえながら、ゆっくりと扉を開けました。
廊下は真っ暗。大人が飲んでいる黒くて苦い飲み物のようでいて、まるであたたくはなく、少しでも目をそらしたら、自分が暗闇に包まれてしまいそうで、とても不安な気持ちになりました。
「ここで引き返したらだめよ。」
リズラは自分に言い聞かせると、一歩、また一歩と空中に張られた細い縄の上を渡るように、2階へと続く階段に歩いていきました。
ようやく階段にたどり着いたリズラは、階段の先を見つめました。じつは以前もにもリズラは謎の音の正体をつかもうとしたのですが、この階段に阻まれて諦めたことがあったのです。
しかし、今日のリズラには作戦がありました。リズラは身をかがめると、しずかに階段に手を伸ばしました。
(これなら、暗い階段でもころばないはずよ)
足で上るのは難しいなら這うように進めばいい。そして恐怖で声を出さないよう、相棒の人形は口にくわえてしまえばいい。リズラの作戦はみごと成功し、ずんずんと階段を上っていきます。
端から見れば、魚をくわえた猫がどや顔で階段を上っている様にしか見えませんでしたが、少女はいさましく険しい山を登る冒険家のような気分になっていました。
ようやく階段を上り終えた彼女は、相棒の腕をぎゅっと握り、作戦の成功を祝福し合いました。
そして、もう一度目を閉じて耳をすませました。
2階にはいくつか部屋がありましたが、物音はいつも父親がつかっている部屋の方から聞こえてきます。
(お父さんが部屋で何かをしているのかしら・・・でも今日は、ずっと遅くなるって聞いていたわ)
リズラが階段を上れるようになった頃から、父親に「この部屋は子供は部屋に入ってはだめだ」と強く言われていました。じつは父のいない間に何度かこっそりと入ったことはありましたが、部屋の中には窓に向かって伸びる大きな筒と、ガラスがはめ込まれた四角い箱がいくつかあるだけなのを知っています。遊べるものがないと知ったリズラはその部屋に近づくことはありませんでしたが、なにか秘密があるということはうすうす感じていました。
「お父さんの部屋で、なにが起きているのだろう。」どんどん早くなっている自分の鼓動を押さえ込むように、息をとめてゆっくりと扉の前に近づきます。とうとう父親の部屋の前まで来たリズラでしたが、とっても怖くなって、部屋に引き返してしまおうかと思いました。ぎゅっと人形を抱きしめ、恐怖を抑えようとした瞬間。
締め落とされたような姿勢になった人形が「ぷぷぴぃ~」という間抜けな断末魔をあげました。
体中から血の気が引いたようになったリズラが、あわてて人形から手を話した途端、目の前の扉が勢いよく開かれ、光がリズラを包み込みました。
「ーリズラか?」
目にいっぱい涙をためて、へたり込んだリズラを見下ろすように立っていたのは、リズラの兄のスピラでした。
「・・・おにいちゃん、おにいちゃん!!」
暗闇から解放された恐怖と、見知った顔が出てきた安堵感から、リズラはわんわんと声を上げて泣きました。兄はあきれたような表情でその様子を見ながら、どうしたものかと困った表情をしていましたが、リズラに視線を合わせるようにしゃがむと、ニコッと笑って言いました。
「おまえにもおもしろいものを見せてやるよ、ほらこっちにおいで」
スピラは、リズラの手を引いて父の部屋に入ると、大きな筒の横にある椅子の上にリズラを座らせました。部屋は真っ白い壁に包まれており、なにもおもしろそうなものはないなぁとリズラは思いました。
そんなリズラの様子をきにもとめず、スピラはガラスの箱の前にある機械をいじりながら話し始めました。
「父さんはこれを掃除道具だといったり、子供の教育によくないなんて嘘をついていたけれど、これは星を見る道具なんだ。父さんがいない間にこっそりいじって、使い方を調べていたんだ」
リズラは兄のいっていることはよくわからず、まるで猫が自分の尻の匂いを嗅いだあとのような表情のまま固まっています。兄はあきれたように首をかしげていいました。
「説明するより、見せた方が早いな」
スピラは星を見る道具を操作すると、突然真っ白い部屋が、色とりどりの花に包まれました。
「きれい!!こんなのきれいな場所を見たことがないわ!」
リズラは体から切り離された魂が胸の中におさまったかのように、興奮すると、部屋の中を走り回ってその光景を見つめていました。
「いま、ずっと遠くにある星をこの筒が映しているんだ。ものすごく遠くの星だ!リズラがおばあさんになるまで歩いても、全然届かないくらい遠くにある星なんだよ。」
なんでそんなに遠くの場所が部屋に映し出されているのか、そんなことはリズラには理解できませんでしたが、自分がとても素敵なものを見ているということは感じることができました。
「ほかには、ほかにはないの?」リズラがきらきらした瞳で問いかけるので、スピラもうれしそうに機械をいじり出しました。
「そうだな、こんなのはどうだ」
花々が映し出されていた壁は、今度は草原を映し出しました。波のようにうねるって輝く草の上に、角の生えた四つ足の動物の群れが駆け抜けていきます。動物の頭にはふさふさとした絹糸のような髪が揺れており、日の光を反射して七色に輝いています。
「こんな動物見たことない!なんて力強いの。そしてとってもきれいだわ。きれいなんてことばじゃたりないくらいだわ」
リズラはもう興奮がとまりません。こんな世界があるなんて知らなかった。世界中にあるすべての美しいものを絞り出してジュースにしても、こんなにきれいな光景にはならないだろうと思いました。
その様子に満足したスピラはいいました。
「今度はとっておきを見せてあげるよ。僕が一番気に入ってるんだ」
そういって機械をいじると、今度は黒いスクリーンに、輝く球体が浮かび上がりました。その球体は全体が深い青色に包まれており、その上に緑や黄色い模様や、流れるような白い線が描かれていました。
リズラはこの球体をみていいました。
「これは、これは宝石ね。おばあさんから聞いたことがあるわ。あたしはもっていないけど、きっとこれが宝石なんだわ」
スピラはそれをきいて少し笑いました。
「リズラ、これ1つが星なんだよ。おまえにはまだわからないかもしれないけれど、ここにはいっぱいの動物や花がすんでいて、これ一つがおおきな命の塊なんだ」
リズラには、兄のいうことがまだはっきりとわかりませんでしたが、この宝石のような場所がこの世のどこかにあるということだけは理解することができました。
「もしかしたら、あたしがおおきくなったころには、この場所に行けるかしら」
リズラは少し困った顔をしましたが「それはわからないよ、でももしかしたら、いけるようになるかもしれないな」と答えました。
そして2人がうっとりと青い星を眺めながら話していると、とつぜんバンッという大きな音が響きました。
「おまえたち!こんな時間に何をしているんだ」
二人ははっとして扉を見つめると、そこには父親の姿がありました。あまりにも夢中になりすぎて、父親が帰ってきていることに気づかなかったのです。スピラはとてもばつが悪そうな顔をして、父親に謝りました。
「ごめんなさいお父さん。僕がこっそりこの機械をいじっちゃったんだ。リズラは何も悪くないよ。ぜんぶ僕が悪いんだ」
そういって頭を下げるスピラの様子を見て、リズラは兄に駆け寄りました。
「ちがうのおとうさん、わたしが音の正体をつきとめようとしちゃったのがいけなかったの。それにおにいちゃんはとてもきれいなものをみせてくれたの、だからおこらないで!」
兄妹がお互いをかばい合うように許しを求める姿を見ると、父親もなんだかきつく叱ることができなくなってしまいました。そして大きく一つため息をつくと、優しく二人に語りかけました。
「とりあえず今日はもう二人とももう寝なさい。お小言は明日になってからだ。ただ罰として明日は二人とも部屋の掃除を手伝ってもらうぞ」
そういうと、仲のよい兄妹は父親の足に抱きついて御礼を言って部屋を出ようとしました。そして、もう一度壁に映る青い宝石に目をやりました。
すると、青い星の表面から、何度か強い光を発しました。そして、地面から大きな白い煙が巻き起こり、みるみるうちに星を包んでしまいました。
リズラはその様子を見てくすくすと笑いました。
「見て、宝石もそろそろ眠ってしまうみたい。本当に生きているのね。あたしもいつか、あの場所にいけるようになるかしら」
父親は娘の方に振り、すこし切なそうに微笑みました。
パタンと閉じる扉の音と、パタパタとかけていく階段を降りる音をかすかに感じながら、父親はじっと青い星をみつめていました。
そして、小さな区黒い石の塊を筒の中に入れると、青い星に照準を合わせました。そして装置のボタンを押すと、大きな筒は静かに揺れて、石の塊を発射しました。
父親がしばらく青い星を見つめていると、光よりも早くキラキラと輝いた石の塊が青い星に命中し、星は大きな輝きにつつまれ、音もなく暗闇の中に消えていきました。
父親はその光景を見ながら、椅子に深く腰掛けて、天井を仰ぎながらため息交じりにいいました。
「あの星でなにがあったのか、子供達が知るには早すぎる。それに万が一まねでもされたら、教育によくないじゃらな」
そして父親は「そらの瞳」と呼ばれるライフルの電源を落とすと、静かに部屋を出て行きました。
初めて書いてみました。読んでもらえるだけで、まずはうれしいです。
きらきらひかる青い星は、地球をイメージしています。
なんか最近世間は物騒な話題ばかりで、もっと今生きてるキラキラした環境をだいじに考えたほうがいいんじゃないかな。そしてそれを小さなお子様に伝えるならどんな方法があるかな考えながら作りました。




