後日談:昼の理科はバズる(でも涼しい顔で)
午後一時、事務所。
公開ボタンを押して十秒、ブラウザの隅のベルが1 → 37 → 112と跳ね上がった。ダッシュボードの線は坂道みたいに持ち上がり、リアルタイムの閲覧が二桁から三桁へ。エアコンの風とキーボードの音だけが静かだ。
「通知の山、久々だね」
「数字の山は、ブログのご褒美だ」
画面に最初のコメントが差し込まれた。
「勉強になりました。動画から切り出すって、目からウロコ(◯◯中/写真部)」
続けて、同じ学校の保護者から。
「家でもやってみました。自動だと消え、夜景モードで復活。子どもが理科ノートに貼りました」
数分後、メールの受信音が重なる。件名だけでにやける。
——文化祭の廊下、今年いちばんの人だかりでした。比較三枚で「自分もできそう」が伝わったようです(理科・◯◯先生)
——来訪者が増えました。駅前の案内掲示を見て、“撮れました”報告が窓口にも届いています。説明が短くて済むようになり、助かっています(熊谷市 観光・交流課)
「よし、冒頭に“やってみた報告が来ている”を追記しよう」
「『怪談を観察に変える』の一行を、見出しの近くに置くのはどう?」
「いいね。スパイスは最初に、長い解説は後ろに」
コメント欄の速度は落ちない。
「文化部の展示で、初めて立ち止まって読む人が出た(PTA)」
「“写らない=不具合”じゃないのがわかって救われた(市内カメラ店)」
「夏の自由研究に使います(小6)」
短い言葉ほど強い。丁寧な言葉ほど遠くまで届く。
「固定の案内ページ、1枚にまとめ直そう」
「“三枚セット”の雛形と、“来場者の一言ガイド”を置くやつだね」
「そう。30秒で要点が掴める紙にする」
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超要約カード(A6・30秒でわかる)
・昼に数字が消えたら:写真を1/30〜1/60秒に → 戻ることが多い
・動画30/60fpsで撮って静止画を切り出す → さらに安定
・暑さ対策/通路を空ける/人物は写さない
・設備側は日中だけ周波数↑で改善可
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相沢がプリンターからA6のカードを抜きながら、ちらりとこちらを見る。
「『映らない』より『写せた』が広がるの、気持ちいいね。方法は残るから」
「証拠より先に手順。推理は記事の後半でいい」
また一通、長めのメール。
——『8が細くなる』の比較が最高でした。“弱点っぽい”話題が検証に落ちる瞬間が気持ちよかった(高2)
——三枚並べると友だちに説明しやすいです。文化部の展示が人だかりになるなんて初めて見ました(先生)
短い返事を打ち、明日発送分の封筒を用意する。三枚セットの雛形と30秒カードを紙で欲しい人が、もう何人もいる。
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配布パック目録(A4)
□ 三枚セット(写真A/B/C・露出欄つき)
□ 超要約カード(A6・30秒版)
□ 文化祭パネル・小型テンプレ(A3×2)
□ 学校・施設向け掲示(A5/暑熱・安全)
送付先:________ 部数:__枚
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「役場から追加の統計、来たよ」
「どれどれ」
交流課から届いたPDFには、週末の駅前にできた小さな波が描かれていた。来訪者+12%。救護ゼロ。滞留時間は短い。自由記述の欄には「“昼の理科”を子と試しに」という文が並ぶ。
「短く並ぶ数字は、長い安心に化ける」
「それ、見出しに使える」
ふと、SNSで回ってきたショート動画が目に留まる。
「“数字が消えるのは呪い”」という煽り文句で、設定いじりをしないまま検証と称していた。
相沢が肩をすくめる。
「こういうのも来るよね」
「否定合戦はしない。やり方を手前に置く」
記事の中ほどに、静かな箱を一つ差し込む。
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撮り方の順番(貼って使える)
1)写真:自動 → 2)写真:1/30〜1/60 → 3)動画:30/60fps→切り出し
※いずれも人物は写さない。暑い日は短時間で。
※写らないときは現地掲示の手順を確認。
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「OK、公開反映」
「公開」
更新を押した瞬間、コメントに新しい声。
「“勉強になった”の列、できてます(文化祭会場から)」
「父に仕組みを説明できました。父、カメラを嫌わなくなりました(中3)」
「役場の窓口で“動画から切る”って言われて、撮れました(観光客)」
受信箱の隅で、写真部からの一通が跳ねる。
——“昼の心霊”が“昼の理科”になりました。
——展示の前で、知らない人同士が手順を教え合っていました。
——ありがとうございました。
読み終える前に、相沢が軽く笑った。
「いい後味」
「冷蔵庫で一晩寝かせたゼリーみたいに、ぷるっと落ち着いた感じ」
「例えが急に甘い」
「甘い後日談、嫌いじゃないだろ」
ふたりで笑って、機材箱を整える。
次の取材候補がホワイトボードに三つ。反転階段の二枚切符、無音放送のアーケード、映らない時計(地方版の派生)。
電話のコール音。熊谷からだ。交流課の担当者の声は明るい。
「駅前の掲示、評判です。“短くて助かる”が合言葉になってます」
「掲示は一等地の付箋ですからね」
「あと、来訪者の写真に地名と温湿度がちゃんと残るようになって、SNSの検索もしやすいって声が。観光情報的にもありがたいです」
「それはなにより。写るは記憶になる」
通話を切って、短い追記を書く。
——“写らない問題”は、“写せる方法”に置き換わりつつある。
——“怖い”のかわりに、“できた”が増えている。
コメントがもう一つ。先生からだ。
「文化部の展示なのに、廊下で立ち止まる人が途切れませんでした。来年も一緒にやりましょう」
「来年の枠、予約入った」
「来年は紙芝居版の“撮り方”を作ろうか」
「いいね。一枚一秒でめくれるやつ」
時計を見ると、夕方。窓の外で風鈴が鳴る。
記事の末尾に編集後記を書き足す。
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編集後記(今日のメモ)
・“写らない”は事件、“写せた”は手順。手順は共有できる。
・三枚並べると、説明はいらなくなる。
・プリント一束は、いい感じの群衆より頼もしい。
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「締める?」
「締めよう」
投稿を確定、電気スタンドを落とす。
最後に、玄関の掲示板へA6のカードを一枚だけ貼った。誰でも持っていける高さに、誰でもわかる言葉で。
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持ち帰りカード(A6)
“数字が消えたら、やり方を足す”
——写真は1/30〜1/60/動画→切り出し——
今日のあなたの一枚目が、誰かの最初の三枚になる。
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ドアを閉めると、廊下の空気は少し涼しい。
スマホが一度震えた。短い通知。
「勉強になった」
それだけの五文字で、今日の稿は報われた。
うしろでプリンターが静かに眠る。机の上の紙束は、朝よりわずかに厚くなっている。
いい厚みだ。次にめくるまで、ちょうどいい。
今回の稿は、現場で起きた“写らない”を、**表示の駆動(PWM/走査)×カメラの読み取り(ローリングシャッター)×大気の屈折(陽炎)**という三層で検証し、情報サイトや現象サイトの知見を束ねて整理しました。
実際に起こる現象を情報サイトや現象サイトをまとめて仕上げました。みなさんは心霊写真を信じますか?
僕の答えはいつも同じです。説明できる怪は手順に落とす。説明の外に残った怪は、否定せず棚に置く。——その棚は高すぎず、でも簡単には届かないくらいの高さに。そこに残る“わずかな余白”が、人の想像を健やかにゆらすのだと思っています。
もしあなたの街にも「写らない」「溶ける」「欠ける」写真があるなら、三枚の手順を試してください。
A:自動で一枚。B:1/30〜1/60秒で一枚。C:動画30/60fpsから静止画を一枚。
そして、通行を邪魔しない・人物を写さない・暑熱に気をつける。それだけ守れば、噂はいつでも“観察”に変わります。
それでもなお、手順をすり抜ける何かに出会ったら——その話を、ぜひ市影譚へ。
説明の届くところは一緒に明るくし、届かないところはそっと尊重する。次の一枚も、その間から始まります。