第二章(一)
「司、おめでとう。お前の友達第一号だな」
肩に肘を乗せられ耳元で言われると、くすぐったくなって思わず首を竦めた。
見上げると亮が嬉しそうに見下ろしている。
「少しは人生変わんじゃないの?」
「え?」
「お前も人らしくなれるって事だよ」
「人らしく?」
「そう、自分以外の他人の事も考えられるって事」
「オレ以外って、 ・・ 兄ちゃんの事想ってるよ」
「そうじゃないよ。 だいたいこの俺は他人じゃないだろ。俺以外だよ。それに、お前に友達が出来たなんて、これ程嬉しい事はないよ」
亮は目を細めると、少し先にいる晃一に手を上げて合図した。
司がその手を辿るように視線を動かすと、少しはにかんで笑う晃一と目が合った。
思わず微笑み返していた。
晃一とは先週、ライブハウスで初めて会ったばかりだ。何気に声を掛けられたが、何の警戒もせず受け答えをしていた。
初めてかもしれない、血の繋がらない他人と何気ない会話を普通にしたのは。それに、笑っていた。
笑顔で話をするのは、亮以外に有り得なかった。今までは。
しかし、今日からは違う。
「司ぁ、この前お前が言ってたモーリス・ルブランって、あれ、怪盗ルパンの作者だろ? 俺が言いてぇのは」
「分かったよ。モンキーパンチのルパン三世。 マンガだろ?」
「そうそう、わかりゃいーんだよ。 ・・・ しっかしお前も今時珍しいヤツだな。 なぁんも知らねぇの?」
「興味ねぇからな」
「はっ」
司のつまらなそうに応える態度に思わず呆気に取られたが、次の瞬間晃一は吹き出していた。
「あはは・・・ お前、おもしろすぎっ。 すっげー 素直なのな。 あははっ 」
司の肩をバシバシ叩きながら腹を抱えて笑う晃一に少しムッとなりかけたが、余りにも楽しそうに笑う晃一につられて司も笑い出してしまった。
「あれあれ、ずいぶん楽しそうだねぇ」
コーラの入ったグラスを二つ手にしながら、亮は目を細めて交互に二人を見るとグラスを手渡した。
「だぁって亮さん、こいつおもしろすぎっ。 今時珍しいよ、こんなに素直なヤツって」
「でしょー。 見かけに寄らずホント可愛いとこあるからな、司は」
「はは・・、亮さんもおもしろいっスねーっ。 いいのぉ、そんな風に言っちゃってぇ。 シスコンとか言われんじゃないのぉ?」
「いいのいいの、ホントの事なんだから。 晃一、お前になら司の事、預けられるよ。俺の大事な妹なんだぜ、よろしくな」
「妹ねぇ、・・、弟のような気もするけど、任せてちょうーだいよっ」
まるで冗談のようなやり取りだったが、気前よく返事をする晃一に、何となく照れてしまった司の肩に亮の優しく大きな手が乗った。
良かったなと言わんばかりに微笑むその目はまるで自分の事のように、いやそれ以上に嬉しそうだったのが今でも忘れられない。
あれから晃一とは互いに言いたい事は隠さず何でもぶち撒けていた。その度に何度喧嘩をしたか分からない。が、常に晃一は司のわがままを上手く受け止めていた。