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エピローグ(一)


 来週には退院出来るだろう。

そう雅に告げられ、秀也の病室に向かう司の足取りは軽かった。

思ったより秀也自身の持っている治癒力が強かったようだ。

能力者でなければ、あれだけの中毒から快復する事はそう容易ではないだろうと思っていた自分が少し馬鹿馬鹿しくなる。

人間本来の持っているものは意外と未知なるもので、それが発揮された時には、もしかしたら能力者より遥かに大きいのかもしれない。


 途中の花屋で見かけた太陽のように明るいひまわりの花束を抱え、病室の前まで来た時、ドアのノブに手を掛けようとして、思わず息を呑むと中を視てしまった。

見知らぬ女性が一人、ベッドの傍らに座り、秀也と向き合っていた。

少し思い詰めたような秀也の表情に、立ち止まったまま動く事が出来ないでいた。


「ごめん、もう二人で会う事は出来ないよ」

秀也がそう言うと、ストレートのロングヘアが少し揺れて彼女は俯いてしまった。

「住む世界が違うからなの? 恋人が居ると迷惑なの?」

「違うよ。そんなんじゃない。それに、そんな事は関係ないって、前にも言ったろ」

「じゃあ、何でなの?」

顔を上げると秀也と目が合う。

「前にも言ったろ。俺には好きな人がいるって」

「でも、その人とは終わったって、言ってたじゃない」

「終わってはいないし、別れてもいない。 ただ考えたかったんだ。 でも、やっと分かったよ。俺の勘違いだったんだって」

「須賀君、やっぱり私じゃダメなの?」

「あいつはね、俺が居ないと何も出来ないって、そう言ったんだ。だから・・・ 」

「ねえっ、何でいつもそうなの!? そんなの同情じゃないっ。 優しすぎるのよ。 だから周りの子はみんな勘違いして須賀君の事、好きになっちゃうのよ。 彼女だってそうなんでしょ? だったら彼女の事も、もう忘れてよ、お願い」

「ごめん。 ・・・、 でも、同情なんかで付き合ってないよ、あいつとは。 それに、俺もアイツじゃなきゃダメなんだ。俺もね・・」

「もういいっ。もういいよ、須賀君。 須賀君が私に同情して付き合ってくれてた事くらい分かってた。 ・・・ それに、私も同情して欲しかったのよ、須賀君に。だから、ごめんね」

「陽子・・・」

「ありがとう須賀君。短い間だったけど楽しかった。それに、私たち、仲間じゃない。だから、これからは仲間として、ファンとしてあなたの事応援するわ。じゃあ・・」 

涙ぐんでいた目をそっと拭くと陽子は立ち上がった。

「陽子」

秀也は見上げながら右手をそっと差し出した。

その手を少し見つめていたが、陽子はその手に自分の手を重ね、二人はしっかり握り合った。

「頑張れよ」

秀也の温かく見守るような優しい瞳に司は息を呑むと、思わず背を向けてしまった。


 自分にだけ特別なのではない。誰に対してもそうなのだ。それは異性に限らず同性にでも同じ事が言えた。

秀也の優しさに甘えたいと思うのは誰もが同じだ。

亮ではなく秀也でないと何も出来ないと思ったのは、秀也のふところの深さが、司だけでなく他をも包んでくれているからだろうか。

司のジュリエットに秀也が欠かせないのはそのせいかもしれない。

ジュリエットの為に生きていると言ってもいい司にとって、秀也は本当に全ての支えだった。


 カチャ


突然開いたドアに驚いて司は振り向くと、陽子と目が合った。


「あ・・・」


見覚えのある顔だった。

以前秀也が二日酔いの時に会った彼女ではない。もっと、ずっと以前に会った事がある。


「司くん・・・なんだ」

「え?」

けちゃうな」

「え?」

それ以上何も言わずに陽子は去って行った。

訳が分からず茫然と陽子を見送ったが、その姿が見えなくなると、自分の抱えているひまわりの花束を見つめた。

 ふうっと一息吐いたが、思い切ったように扉をノックするとノブを廻した。



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