表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/36

第六章(二)


 空港にあるラウンジの一室に、数人の外国人男性が、奥のソファで深々と腰掛けて葉巻をふかしている中年男性と、彼より幾分年若のスマートな男性と一人の日本人男性を警護するように立っていた。

「まあ、収穫がなかった訳ではない。そうがっかりするな」

葉巻を口から外すと男は日本人男性に向かって言った。

「申し訳ありません。また別のルートを探します」

「いや、その必要もないだろう。実験は成功した。イルファンの能力は大したものだった。タランチュラも噂程ではない事も分かった。そうだな?」

満足そうな笑みを浮かべると、反対側に座っているイルファンと呼ばれた男に向いた。

「そうですね。ヤツの能力は封印するだけ。直接会う事がなければ何も出来ない。本国に戻ってしまえばヤツにはもう二度と会う事はなくなりますからね。我々の勝ちですよ」

「ウハハハハ・・・、 そうか、我々の勝ちか。 しかし、タランチュラとは一度くらい食事を共にしたかったが、残念だな」

ていよく断られました。あれはかなりの紳士でしたよ。敵でなければもう一度会いたいとは思いますが・・」

イルファンが静かに言った時、入口付近のソファから新聞を折りたたむ音が聴こえた。

「敵だったら会いたくはない、か?」

物静かだったが、どこか冷たい声が、流れるようなロシア語で響いた。


 !?


そこに居た全員が瞬間息を呑んだ。

今まで人の気配がなかったのだ。

部屋に入った時には誰一人としていなかった。

途中誰かが入れ替わりのようにドアを開けたが、他の客が入って来たとは思えない。

新聞を広げてソファに座っている人物が居たとしても、別に気に留めるような事ではなかった。

本来ならば気付いていたかもしれない。しかし、そこに居た全員の視界には入っていなかった。


「タ・・・ランチュラ・・・」


近づいて来たその人物に、イルファンと中年男は目を見張った。

背後にいる護衛のような男達は動くことすら出来ずにいる。まるで金縛りにでもあってしまったかのようだ。

「このまま黙って貴様達を帰す訳には行かない。せめて丁重に見送りだけでもさせてもらわないと。・・・差し詰め、差し入れのお礼とでも言っておこうか」

そう言って、一人の日本人男性の目を、その冷酷な琥珀色の瞳が刺すように見つめた。

怯えきったその男の体が、小刻みに震えたかと思うと、一瞬ビクっとして目を見開いたまま固まってしまったかのように、動かなくなってしまった。

それを見ていたイルファンは両手を大きく広げた。

まるで何かを包み込むようだ。

辺りの空気が徐々に重くなっていく。

誰かが入口の扉のノブを引っ張るが、吸い付いてしまったように扉が閉まったまま動かない。

その内、体格のいい男達の顔が引きつり始め、呼吸が幾分激しくなって来ている。

「同士討ちか。 見苦しいな」

司が冷たく言い放つと、イルファンはハッとしたように気を緩めた。

隣に居た中年男も、しかるに同じように苦しそうだったからだ。

 一瞬の隙を見逃さなかった。

すっと差し出された右手を広げた瞬間に、イルファンの動きが止まる。

まるで、大きな渦に吸い込まれて行くかのようにその能力が弱まって行く。

っくと、イルファンが顔をしかめた瞬間、司は右手を下ろしてしまった。

直後に激しい痛みが頭に走ったのだ。

それは、脳を鋭利な刃物で傷つけられたような鋭い痛みだった。が、次の瞬間、司の右手から放たれた金色のチェーンが、背後にいた何者かを襲った。

「サラエコフっ!」

イルファンが叫ぶと同時に扉が開かれ、バタバタっと男達は逃げるように出て行った。

余りの激痛に耐え切れず、床に片膝を付いてしまった司の横を通り抜けようとした時、イルファンは片方の足を掴まれた。

見下ろすと、苦痛に歪んだその瞳の奥に、一瞬にして凍り付いてしまいそうになる程の冷酷な色を見て息を呑んだが、それを振り解き、輪を描くように右手を振ると、何かが司の首に巻きついた。

司の手が離れた瞬間、外へ飛び出し扉が閉じられた。


「 ・・・っく・・・、 ふざけやがって・・・ 」

ようやくの事で、首に巻きついた空気の輪を解くと、静まり返った部屋の中央で、肩で息をしながら閉じられた扉を悔しそうに見つめた。

だが、その瞳の色には、何かやり切れないもどかしさが映し出されていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ