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第五章(一)



「もう絶対、晃一とはエレベーターに乗らないっ」

「冷てぇ事言うなよ。 息も詰まるあの暗闇の中で生死を共に分かち合った仲じゃねぇかよ」

「だぁかーらーっ、抱きつくなっ つってんだろーがっ!」

司は再び晃一を突き放すと、片方の足で晃一を抑えた。

「秀也となら心中してもいいんだとよ」

チェっと、しかしニヤつきながら晃一は秀也の頭をはたいた。

「へぇ~、司がそんな事言うんだ」

軽く口笛を鳴らすとナオは、照れたようにそっぽを向いた司の顔を覗き込んだ。

「可愛いなぁ」

「つまんねぇ事言ってんなよっ。 大事なライブ前なんだからっ」

司はそう言ってソファから立ち上がると、テーブルに置かれたペットボトルを取上げた。

「それにしても、あん時って、地震でもあったか?」

秀也が司の隣に立つと、同じようにペットボトルを取上げる。

「地震?」

飲みかけた手が一瞬止まり、秀也を見上げると、頷きながらくるりと皆の方に振り向いた。

「だってあれ、ブレーカーは仕方ないとしても、あの傾き方は地震でもない限りあり得ないって、業者の人言ってたろ。あんだけおっきな地震ってあったっけ?」

「うーん、なかったと思う。だって、ニュースにもならなかったろ ・・・。 お前らあん中でプロレスでもしてた? なワケねぇか」

ナオが晃一と司を交互に見る。

瞬間司は思い出してゴクンと一口水を飲むと、視線を宙に浮かせた。

確かにあの時、晃一を思い切り蹴飛ばした時、イヤな音を聴いたのだ。 救い出された後、誰かが何か言っていたが覚えていない。

さすがに司も故障の原因などどうでもいい程、バテていた。

「ま、俺達も運が悪かったんだ。 なっ 司」

横目で晃一を見れば、もうこれ以上あの話はしたくないようだ。

 実は晃一は、あの時本当に怖かったようで、それを誤魔化すかのようにふざけて司に抱きついたのだと、その時司に指摘されていた。

バツが悪そうに目が合った二人は互いに苦笑するしかなかった。



 扉がノックされ、スタッフの宮内が声を掛ける。

それに対して司は軽く手を上げて応えると、メンバーに振り向いた。

「では、行きますか」

ニッと口の端を上げて笑うと、メンバーも頷いたが誰もが真剣な目付きだ。

 司が右腕を軽く上げると、まず晃一が自分の右腕を司のそれに軽くぶつけ、扉を開けて出て行った。 

次にナオが紀伊也が後に続く。

 そして、秀也とぶつけ合った後、二人で楽屋を後にした。

三人の後を追って二人で肩を並べて歩いている時、ふと秀也が司の耳元で囁くように何か言うと、一瞬司はドキッとしたように秀也を見たが、その後少し照れたように俯くと、一歩先を行く秀也の後姿を目で追った。


 ステージへ続く暗がりの通路でふと司に何かの気配を感じた。

振り向いて気配を追ったが、会場からの熱気に気圧けおされ、その気配もすぐに何処かへ消えてしまった。

会場の灯りが消え、紀伊也の指がキーボードに触れると、メンバーを呼ぶファンの声が一瞬消え、静寂に包まれた。

 が、晃一のスティックと共にナオのベース、秀也のギターが弾けると、一瞬にして歓声に包まれる。 そして、一筋の光の中から司が現れると、更に歓声が大きくなり会場が揺れた。

司の歌声と共にその興は頂点に達し、誰彼となくその視線はただ一点に集中する。

彼等の中に溜まっていた怒り・哀しみが溢れ出し、高揚する欲情・願望となって湧き上がって来ると、それらが一気に噴出し、歓声へと変わっていた。

司はそれら全てをまとも受け止めながら、それを跳ね返すように歌い踊った。

まるでそれは、自分の中にある全てのしがらみという名の鎖を引きちぎっているかのようだった。

今は能力者である前に、一人の人間としての光月司がそのステージにいた。






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