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第四章(二)


 コンコン 


軽くドアがノックされ、ドアの外から声が聞こえた。

「一条様がお見えになりました」

「通して」

そう応えると、手にしていた書類をテーブルに放り投げ、ソファの背にもたれた。

同時にドアが開き、紀伊也が入って来た。

「悪いな」

「いや、構わないけど、珍しいな。 この家に呼び出すなんて」

一旦、司の部屋を見渡し、中央に置かれた真っ白なピアノに目が留まると、ホッとしたように一瞬目を細め、司の向かい側に腰を下ろした。

「よくわからないけど、この部屋の結界が一番強いらしい」

「結界?」

騎士ナイトって、聞いた事あるだろ?」

紀伊也の問いには答えず、テーブルの上の書類を指した。

「ちょっと厄介なヤツに絡まれたんだ。お前も上杉から何か聞いてたんだろ?」

「え? あ、ああ。 何でも極東からの客人が司に興味を持ってるらしいという情報が入ったから、それとなく気を付けてくれって。詳しい事は調べないと判らないと言っていた」

書類を手にしながら応えた紀伊也はふと視線を止めた。

どこか見覚えのある顔に思い出そうと、その下の経歴を目で追っていた。

「イルファン助教授・・・」

騎士ナイトだ」

紀伊也の呟きに応えるように司が言うと、少し驚いたように顔を上げた。

「彼が?」

「そんなに驚いたわけでもなさそうだな。 知っていたのか?」

「彼が能力者だとは分かったけど、あの時の彼の能力はそう使えるものでもなかったんだ。 だから放っておいたけど、騎士ナイトといえば・・ 」

「そうさ、かなりの使い手だ。 現にオレ達はヤツの能力を目の当たりにしている。しかしヤツの能力が何なのかよく分からない。 ヤツの使令は何だ?」

少し苛付いたように言うと、テーブルの上の箱に手を伸ばし、タバコを一本抜くと火をつけた。

「彼は院に居たんだ。目立つ存在ではなかったけど、彼の研究の論文は何度か見た事があって、なかなかキレのあるものだったよ。けど、危険な匂いもしたな。彼は何かの目的を果す為に研究していた気もしていた」

「何をしていたんだ?」

「それが・・・、 よく分からないんだよ」

「分からない?」

「うん。 薬物の研究かと思えば、気体だったり。かと思えば物理学だったり。ただ、どれに対しても凄く熱心だった。 それと、全く打ち解けないような人だったのに、何故か女性にはウケが良かったな。彼女達に言わせると、どこか謎めいて紳士的なんだって言ってたな」

紀伊也の話に表情一つ変えずに聞いていた司だったが、最後の言葉に苦笑すると、天井に向かって流れて行く煙がフっと揺れ動いたのを見つめた。

「サンキュ。 それで分かったよ、ヤツの事が」

「え?」

「ヤツが大学院でやっていた事さ。 使令を得ないからヤツには殆んど能力がなかった。だから放っておけば普通の人間と何ら変わりはない。ヤツは自分が能力者である事を誰かに知らされていたんだ。だから使令が必要だった。 何かの目的とは、そいつを探す事だったんだ。お前の勘も間違っちゃいなかったな。けど、厄介な使令だな」

そう言って一服吸うと、天井に向かって煙を吐いた。

「使令を探す為か・・・。 俺には解らないな。何故そこまでして使令が欲しいのか。 でも、誰かに知らされていたって・・・ 」

「ふんっ、Rみたいのが居るんだろ」

皮肉を込めて言うと、どこか遠くを見つめるように視線を紀伊也から外した。

「で、司、騎士ナイトの事だけど」

「ああ。 ヤツはオレをユスりに来やがった。 Rを売れとな。だがそれは到底無理な相談というもんだ。ただ、ヤツらはオレの事を知って、表からも仕掛けて来ている。これが面倒な事になりそうでさ。お前にも気を使ってもらいたい」

「いいのか?」

「仕方がない。みんなを守る為だ。 で、更に厄介な事に、騎士ナイトと三鷹がお友達でね」

「えっ、三鷹君が?」

「そ、三鷹繁幸くん。 それに、三鷹とジャックが吊るんでいる」

「どういう事?」

「オレも知りたいくらいだね」

司は今まであった事のいきさつを全て紀伊也に話して聞かせた。

 騎士ナイトと三鷹が何処でどう知り合ったのかは皆目検討も付かないが、今はそれを追求しているヒマはない。

まず、騎士ナイトの能力を封印し、三鷹の身柄を確保しなければならない。 しかし、ジャックの動きも気になる。

つまらない事を仕掛けて来るのは分かっているが、その背後に騎士ナイトがいるとなれば、そのつまらない事もただで済むとは思えない。

司と紀伊也は今すぐにでも行動を起こしたかったが、現実にはそう容易たやすい事ではなかった。


「その前にまず、明日のライブを成功させる事が先決だな。 ヤツ等の事はその後だ」


司はそう言うと、灰皿にタバコを押し付けた。



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