第三章(四)
その数日後の夜更け、都内の繁華街から少し外れたビルから司と晃一がタバコを銜えながら出て来た。
「全く、司には敵わねぇな。お前は何やってもすげーよ。お前には苦手なものとかってねぇのかよ」
晃一は少し口を尖らせると、煙を勢いよく吐いた。
「はんっ、このオレに勝負しようなんて言う方がそもそもの間違いだ」
鼻で笑うと、呆れた視線を晃一に投げた。
「チェっ」
晃一は伸ばしかけていた髪を短くカットし、金色に染めた頭に手をやると忌々しそうに掻き毟った。
「こんな夜更けでも眩しいのな、お前の頭は。 それで東京中を歩き回りゃ、電力消費量が少しは減るだろ。いいなぁ、そのエコ頭」
バカにしたような司のセリフにカチンと来たが、これで何度目だろう。怒る気にもなれなかったが、こんなヘアスタイルになったのも、そもそもの原因は司にあるのだ。思い切り横目で睨み付けると地面を蹴った。
角を曲がり、大通りに出ようとした所で二人の足が止まった。
数十メートル先で、三人の男達が、詰めるようにスーツに身を包んだ一人の男性と対面していたのだ。
「司、あれ」
晃一が顎でしゃくると司は片手で制し、瞬間二人共電柱の陰に隠れた。
その内、スーツの男性が手にしていたスーツケースから何やら取り出すとそれを中央の男に渡している。
遠目には何か恐喝されて渡しているとしか見えない。
「いいのかよ、司。 あいつらジャックだろ。またやベー事してんじゃねぇのか?」
晃一が耳元で言うが、司は黙ったままサングラスの奥からじっと男性を見つめていた。
が、晃一の心配をよそに男性は何事もなかったかのように彼等に背を向けると足早に去って行った。
三人の男達は、受け取った小さな紙袋から中の物を出すと小さな歓声を上げ、それらを三人で分け合っている。どうやら札束らしい。
「お前らまた悪い事してんのかよ」
呆れたように晃一が声を掛けた。
それにギョッとして三人は晃一を見上げ、隣に司がいる事を確認すると、慌てて手にしていた札束をポケットに押し込んだ。
「ひ、久しぶりだな矢神」
真ん中の男が目を浮つかせながら辺りをキョロキョロ伺う。
「ケっ、何が久しぶりだ、よ」
「今の男はお前らの知り合いか?」
落ち着いた司の冷たい声に、思わず晃一は息を呑んで司を見た。
「知り合いか?」
「まさか、あんな紳士的なヤツとお前らが知り合いだ、なんてなぁ」
司に圧倒されて応える事の出来ない三人に代わって晃一が答えていた。
「あ、当り前だろ。俺達にあんなお坊ちゃまな知り合いがいる訳ねぇじゃん」
晃一に助けられ真ん中の男が答えると、他の二人も慌てて同意するように頷いた。
「いつ知り合った?」
「い、1ヶ月くらい前だよ。 もういいだろ? それに、俺達みたいのと係わってるとお前らだってヤバイだろ。 じゃあなっ」
そう言って逃げるように三人は走って去って行った。
「やっぱりアイツらヤベぇ事してたんだ」
晃一は呆れると司に視線を送ったが、何かいつもと違う冷たい感覚を覚えると、それ以上何も言えなくなってしまった。