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第三章(三の2)

 

 大きなビニル袋を4つ、ドンドンとテーブルに叩き付けるように置くと、司は何も言わずに手を洗いに洗面所へと行った。

「おおっ、悪いねぇ司くん。こ~んなに沢山。 これはさぞ重かったでしょう」

リビングから聞こえる嫌味っぽい晃一のセリフにカチンと来ながら蛇口を思い切り捻った。

両手を勢いよく流れ落ちて来る水の中に入れた瞬間、ビリっと全身に電流でも走ったかのような衝撃を受けた。

「うわっっ!!」

思わず悲鳴を上げ、手を引っ込めると、一気に全身の力が抜けてその場に座り込んでしまった。

「あー、びっくりした」

全身には何の痛みも感じられずホッとすると、両手を見つめた。

 

 何だ?


「どうした?」

司の悲鳴を聞いたのか、秀也が心配そうに座り込んでいる司を覗きに来た。

「え? あ、ああ、何でもない」

立ち上がると、再び手を洗おうと両手を流れる水に近づけてみるが、思わず躊躇してしまった。

「何?」

今度は不思議そうに、司の指先と蛇口から流れ落ちる水を交互に見ながら秀也が言う。

「え? あ・・・、ちょっと・・」

「は?」

「何でもない」

観念したように思い切って両手を水の中に突っ込んだ。

ビリっと来るかと思ったが、ただの思い過ごしだった事に気付いてそのまま何事もなかったように手を洗った。

ふと秀也に視線を送ると、呆れたように首をかしげて去って行くところだった。

司は蛇口を捻って水を止めると、タオルで手を拭きながら首をかしげて蛇口を見つめた。

 リビングに戻ると、既に皆ビールの缶を手にくつろぎながらテレビを見ている。 その傍らでは紀伊也が一人、散らかったビニル袋を片付けているところだった。

「司も飲む?」

入って来た司に気付いて紀伊也が缶を一つ掲げた。

「いらない」

首を横に振って断ると、紀伊也は「そ」と言ってその缶のタブを引くと自分で飲んだ。

司はそれを横目にキッチンへ向かうと冷蔵庫から飲みかけのワインを出し、グラスを一つ出すと、それらを無造作にダイニングテーブルに置いた。

そして、リビングには行かずにそのまま椅子に座るとワインを注ぎ、ぐいっと飲んだ。

紀伊也がビールを片手に買って来たスナック菓子を一つ持って隣の椅子に腰掛けた。

 向方では三人がテレビのバラエティー番組を見ながら笑い転げている。

司と紀伊也は別に興味をそそられる事なく、黙ってそれを遠目に見ていた。

「紀伊也はああいうの見ないの?」

テレビを顎で指しながら聞いてみる。

「あんまし、・・ 司は?」

「 ・・・、 気分じゃない」

二人共に分かりきった答えに半ば苦笑してしまう。

司がタバコを取り出したので、紀伊也はスナック菓子の袋を開けようと手にした。

ライターの火をつけるのと、袋の開く音が同時だった。


「うわっっ!!」


今度は二人共に悲鳴を上げると、司は口に銜えていたタバコを落とし、紀伊也は両手に力を入れ過ぎて袋が破け、中のポテトチップスが飛び出してしまった。

二人共に目を大きく見開き、黙ったまま見つめ合っていた。

「お前はマジシャンか?」

遠くから呆れたような晃一の声が聞こえ、ハッと我に返ると、マジマジと司の手にしたライターに視線を移す。

ライターの火をつけたとたん、ボっと勢いよく燃え上がるように炎が上がったのだ。

「ああ、びっくりした」

司はライターをテーブルに置くと、落ちたタバコを銜え直す。

「紀伊也、ライターある?」

「あ、うん」

言われるまま司にライターを差し出すと、散らばったポテトチップスを拾い集めてゴミ箱に捨てに行った。

「あれ? 点かないよ。 ガス欠?」

後ろでカチカチ、ライターの音と司の呟きが聞こえる。

「そんな筈ないだろ。来る前に入れて来たから」

そう答えると、シンクの蛇口を捻って手を洗った。

戻ると司がライターを振ったり叩いたりして、カチカチやっている。

「どれ」

司からライターを受け取り火をつけてみると、オイルの匂いと共に火が灯る。

「ほら」

再び司に渡すと、司は首をかしげながらライターのスイッチを入れた。


 ボウっっ


燃え上がるような音と共に、手の平に収まる程の小さなライターから大きな炎が勢いよく飛び出した。

「おわっっ」

司は驚いて思わずライターを放り投げてしまった。今度はそれに慌てた紀伊也がライターを掴もうと両手を伸ばす。


 ガタっ  ガッシャーーンっっ


ライターを掴んだ紀伊也がバランスを崩してそのまま司に覆いかぶさるように倒れると、司と紀伊也はそのまま椅子ごと引っくり返ってしまった。


 アテテ・・・・


「何やってんだ、お前ら」

テレビを見ながらソファでくつろいでいた三人は物凄い音に呆れ返ってしまっている。

「ああ、びっくりした」

「何だよ、今の」

司と紀伊也は打ちつけた体を摩りながら起き上がると、椅子を戻して座り直し、一息ついた。

それと同時に呆れながら三人が近づいて来る。そして、晃一は不思議そうにライターを見ている紀伊也の手の平からそのライターを取上げた。

「何だよ。 ライターがどうかしたのか? ・・ 別に大した事ないじゃん」

カチッと音がして、ライターの火が晃一の指先で灯る。 そして、火を消すと司に投げた。

「おっかしいなぁ。 さっき、すっげェ 火だったんだぜ。 なぁ」

紀伊也に同意を求めるように言いながら晃一に向けてライターの火をつけた。


 ボウっっ


再び炎の燃え上がる音と共に勢いよく火が出ると、今度はチリチリ・・・と、何かの焦げる匂いがする。と、同時に悲鳴が上がった。

「うわーーっっ、ばかやろっ」

突然、晃一がバタバタと足踏みしながら手で自分の前髪を払っている。

「何すんだっ!? 見ろーーっ、 髪が焼けちゃったじゃねーかっっ!!」

「ごめん ・・・ でも、これ」

司もどうしていいか分からず、手にしたライターと晃一の焼け焦げてちりじりになった前髪を交互に見つめた。

紀伊也も司と同じように呆然としていたが、晃一の後ろではナオと秀也が今にも吹き出しそうな勢いでそれを必死に堪えている。

それに気付いた司と紀伊也もとうとう笑い出してしまった。

が、しかし、その司と紀伊也の瞳の奥深くには、冷たく妖しい光が放たれていた。






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