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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第二章「日常に潜む影」

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50話 ほんとよく分からない人だな

 月城は三好さんの家から出てすぐ、俺にあることを聞いてきた。


「レイちゃん、潜入するとは言ったけど、どこに潜入しよう」

「お前、なんでそう重要なことは考えてないんだ。てっきりあてがあるのかと思ってたわ!」


 こいつ、思いつきで行動してるのか?

 月城は髪をいじりながら、少し照れたように頬を赤らめた。


「いやー、アタシってばドジだね……」

「いいよ、そういうの……あんまり期待できないけど、情報になるかもしれない人なら知ってるぞ」

「えー! ほんと! その人んとこ今行こ、今!」


 正直本当に期待できないが、あの何を考えているかよく分からない性格なら、あるいは……そんな期待を持って、俺と月城は駅へと向かっていった。





「いらっしゃいませー、今日は別の女の子とデートかなぁ、レイジ君」

「え! アタシ以外の女! 誰よそれ!」

「アルトさん、ちょっと話がしたいんですけど、いいですかね」

「ガン無視かぁ……でも、いいよぉ、もう少しでシフトあがるからねぇ。ちょっと待っててくれれば」

「あたしもガン無視しないでよー!」


 俺たちがやってきたのは、隣町にあるショッピングモールだ。

 以前シャスティの買い物に付き合った時、アルトがファストフード店にいたため、もしかしたらと思って来てみると、本当にいた。

 マジでここで働いてんのかこの人……


 すいている店内で待っていると服をどこか緩いシャツとワイドパンツに着替えたアルトがやってきた。


「おまたせぇ、聞きたい事って言ったけど、多分外で話しづらいものだよねぇ。ここじゃなんだし……この近くに、ボクの隠れ家があるから、そこに行こうか」

「隠れ家! たのしそー!」

「はい。それでお願いします」


 アルトは割とあっさり話に承諾したが、どこまでの情報を持っているか、それを教えてくれるか……未知数だが、少し期待が持ててきた。





 アルトに連れてこられたのは、住宅街の小さな駄菓子屋だった。

 中に入ると、小さな店内の奥、低めのレジ台のあるところに、腰の曲がったおばあさんが座っていた。


「おばちゃーん。どもー」


 アルトはそう言うと、ガンガン奥へ進んでいく。俺たちも軽く挨拶しつつ、その後に続いた。


 おばあさんの背後にあった障子を開け、いかにも普通の古民家のような家の中を進む。


 くねくねと奥へと歩いていくアルト、それに続く俺たち……って、なんか長くね。この家どんだけでかいの?それにだんだん空気が冷たくなってきたような。


 やがて、なにやら近未来的な空間へとやってきた。扉を開けた途端中の明るさと真っ白な空間に驚いた。


「ロック開けるからまっててねぇ」


 アルトはそう言って魔術を発動させたようだ。なにかの認証だろう。

 すると、空間内に黒い扉が現れ、中へと案内される。


 中は前にアルトと出会った時と似たような事務所、ではなく、なにやら機械のようなものが見える。なにかカメラの映像が映ってもいる。


 そんな中、椅子を持ってきたアルトに促され、俺たちは座った。

 アルトは目の前に座ると、にやにやといつものように笑っている。


「で、何の話……とは聞かないよぉ、どうせ内田帝亜羅殺人に関する情報、魔道界側の情報が欲しいんでしょ?」

「レイちゃん、あの亡くなったとかいう先輩の事件も関係あると思ってたんだ……それであたしに聞いたのねー」

「……そうだよ」

「まぁ、なんとなーく分かってたからいいけどね!」


 まぁ、突然事件について聞いてこられたら変だとは思うか。月城はそんなの気にしないと言ったふうに、肩を叩いてくる。


「前も言ったけど、ボクからなにかを直接的には伝えられない。だから、君たちが自分で見つけることが重要かな」

「俺たちが直接……」

「間接的には教えてくれるんだー。思ったよりやさしーじゃーん」


 思ったよりことが上手く進んでいるが、アルトは一体何を考えているのか分からない。変わらずにニヤケながら、1つの情報を提示する。


「ボクが言えることはひとつ。この会社……魔道に関する研究も行っているんだけど、魔法至上主義者が深く関わっていてね。前にリエンドからも過激すぎる活動によって厳重注意をされていたんだ」


 そう言って会社の名前のメモを渡してくる。


「あ、そういえばー、最近ここの魔術師が一人変な死に方してたなぁ、物騒だねぇ」

「……! ありがとうございます。アルトさん」

「ありがとー!」


 お礼を言うと、よりニマニマと笑う。胡散臭いし、特務班は関係ないと言っていたが、この人個人はなにか知っているのかもしれない。

 こうして、俺たちは手に入れた情報を元に、会社を調べることにした。





 俺たちはアルトの隠れ家から出て便利屋へと帰っていた。

 会社を調べると言っても何をするのかと思っていた矢先、月城がまたもやその突拍子の無さを発揮した。


「よし、善は急げ! 深夜にこの会社に乗り込もー!」

「いやいや、待て待て! 急がば回れだ! 明らかに実行までが早すぎる!」


 何を考えているのか、アルトから情報を手に入れたばかりの今日、その会社の調査をしようというのだ。


「潜入だからね。レイちゃん、こっそり、バレないように忍者の如くいくよー!」


 しかも不法侵入しようとしているらしい。

 本当に勘がいいと思ったらこの調子だから困る。やっぱり何も考えてないのか?


「えー、でも、今日は月がいい感じだしなー……。あんまりこんな機会ないよー?」

「どういうことだよ」

「とにかく! 今日がいーの! ね! これより後は困るの!」


 俺の肩を掴んでグラグラと揺らしてくる。こいつ意地でも曲がらないつもりだな。


「……俺は潜入とか上手くできる気がしないぞ」

「大丈夫! アタシが何とかするから!」


 本当に大丈夫なのか?もし見つかったら……いや、そんな事を考えていては久我に繋がる可能性をみすみす逃すかもしれない。

 先輩の死へのこの怒りは、鎮火する素振りも見せずに増加している。そのうち抑えられなくなりそうだ。今はどんな手段でも使うべきだ。


 便利屋に嘘をつくと決めたんだから。

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