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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第二章「日常に潜む影」

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49話 いち被害者

 事件を知った翌日、俺たちは変わらず登校している。


 内田先輩には近い親戚もいなかったため、葬儀などをどうするかは来夜先生があれこれと頑張っているらしい。


 便利部に関しても保留、気分が上がるわけもないが、それでも日々は続いている。

 どんな授業も頭に入らない。そんな中、昼休みがやってきた。


「月城」

「ん、どしたのレイちゃん」


 部活の活動のためか、すぐに教室を出ようとする月城を呼び止める。

 俺から話しかけることが珍しかったからか、その目は興味で見開いていた。


「この前言ってたさ、殺人事件って犯人捕まったのか?」


 俺が質問すると、月城はいつもの少し笑った表情のまま固まった。そして、頭を掻くとこちらにずいずいと近づいてくる。


「それは、まだだけどー、なんで知りたいの」

「別にいいだろ。単純に気になったんだよ」

「そ……実はあたし被害者に話を聞けることになったんだよね」


 嘘だろ。なんでもない部活に所属してるだけの奴がどうやってそんなことを可能にしたんだ。


「それでさ、今日お話聞きに行くんだけどー、ついてくる?」

「……! ああ、迷惑じゃないなら」

「おっけー! じゃあ放課後部活の方の仕事してから行くから学校のどっかで待っててー!」


 そう言って月城は教室を走り去っていった。

 だが、どこか嘘を見抜かれていたように思える。それに、月城の情報収集というか、調査に繋げる能力の得体の知れなさが怖い。


 それでも久我に繋がるような手がかりがある可能性がある以上、俺はその船に乗り続ける。



「レイジ! メシ食おうぜ!」

「天野、まだ気持ちに整理がついていないかもしれないが、こいつみたいにとまではいかん。もう少し元気を出せ」


 陽樹とガレスだった。ガレスは内田先輩と面識があった訳ではないが、朝のニュースやホームルームで話があったことでなんとなくは知っている。


 二人とも俺に気を使っているのだろう。陽樹は自分も知り合った人が死んで辛いだろうに明るくふるまっている。ガレスはそんな俺たちを察してなるべく普段の空気でいられるようにしてくれている。


 全てを話せないことが辛い。





「どうも、アタシが月城ゆらですー」

「三好です。今日は主人について聞きに来たんですよね……」


 月城についてやってきたのは至って普通の一軒家だった。


 中から現れたのは若い奥さんで、随分とやつれ、目元には隈があった。月城と俺を見ると、よろよろと家にあげてくれた。


「それでー、事前に話したと思うんですけどー、あたしらもこっそり動いてるんで、少しずつの進展にはなると思うんですけど、大丈夫ですかね?」

「はい。もう、主人の死の真相を知るには他に宛がないんです。警察も突然なにも話してくれなくなって……」

「あー、やっぱりですか。大丈夫ですよ。()()()()便()()()は、警察権力に縛られないんで! ただ、再三になりますけどー、外部に情報が漏れると危ないんで、契約とかも最後に結ぶのを了承してくださいねー」


 ……こいつ、便利屋騙ってたのか。警察に縛られないとか言ってるけど、今リエンドが裏で動いている以上動けないことは昨日の朝所長が言っていたことだ。

 かなり黒に近い、というか黒い方法で調査してんのか。


 てか、警察が突然何も話さなくなったって言ってるけど、やっぱりリエンドの情報統制のせいだよな。被害者親族にすら何も教えられないのか。


「じゃあ、お辛いとは思いますが、ご主人か居なくなってから見つかるまでの経緯、お話頂けますか?」

「はい……」


 三好さんは言葉に詰まりながらも、少しずつ状況を話し始めた。


「居なくなった日は、本当に何かあったとかではなく突然で……共働きだったのですが、その日は遅くに帰ることになってしまって、先に帰る主人が夕飯を作る予定だったんです」


「でも、帰ってもどこにもいなくて、おかしいと思って連絡しても繋がらなくて……警察に通報して……しばらくして、河川敷で……」


「もう大丈夫ですよ。経緯に関してはほとんど知るところと同じということですねー……あの、爪を剥がされた後があったというのは」

「はい……確かにありました。ゆ、指の爪が全部なくて……胸の辺り、が……」


 三好さんの呼吸が荒くなる。俺は慌てて背中をさすりながら深呼吸を促す。


「大丈夫ですか! 息をゆっくり吸って、吐いてください」

「……はい……大丈夫です」


 落ち着いた様子の三好さんに安心してまた月城の横に座ると、月城は表情を変えずに三好さんを見つめている。


「なるほどー、それで、ご主人の遺体について魔力の痕跡ってありました?」

「えっと、まだ警察が調査について話してくれていた時は全くもってないって言ってました」


 魔力の痕跡……魔道による手段を用いた犯罪が起こった場合、そこには行使された魔力の漏れが生ずることがほとんどだ。ゼダのように完璧に痕跡を消すことが出来る様なやつは滅多にいない。


 今回の殺人に魔道が使われた。つまり凶器に魔力を帯びた何かがあれば痕跡が残るはずということだ。


 それがないということは、凶器自体はいたって普通の獲物を用いたということになる。

 先輩の記憶では、久我はただのナイフを使っていた。家の術式に傷を付けられなかったのもそのため……つまり、これは久我の犯行の可能性が高い。


「……うーん、なるほどですね。そういえば聞き忘れましたけど、旦那さんの職業って……」


「魔道研究者……です。私は詳しくないのですが、主人は魔術を扱えたので」

「ありがとうございます。ひとまず今日はこれくらいにして、あたしたちはちょっと調査に出るので失礼しますねー」

「え、はい」

「どういう事だよ月城、おい」


 月城は困惑する俺の手を引き家から出て行った。





 外に出ると、月城が小さく俺に囁いてきた。


「レイちゃん。やっぱりこれ魔道関係の事件だよ。ほぼ確だったけど、魔道の職についてて魔術使えるのに簡単に死ぬわけないじゃん」

「それはそうだけど、魔力の痕跡もないんだろ。魔術師って時点でまず捕えるのが難しいんじゃ」

「魔道なんて使わせなければただの人だよ? 殺した手段に魔道がないだけかも。気絶させて体周辺の術式を潰せばただの人間に逆戻りだし」


「他の事件もさー、調べた限り遺体に魔力の痕跡はなかったらしいんだし被害者は一般人だったんだよねー。だから繋がりがないかもって思ってて……」


 こいつはかなり勘がいい。久我に辿り着くまでにそう時間はかからないかもしれない。しかし、久我に関しての謎や、先輩の家に侵入した手段など、まだ謎が多い。特定させるには早いし、できない。


「ともかく、お前の勘の通りの同一犯かは、確信できないってことだな」

「うーん、そうだね……でも、被害者が魔術師だったから、魔道関連の何かを調べたらワンチャン何か見っかるかも! レイちゃん、次は潜入調査だー!」

「……は?」


 こいつ、次は何するつもりなんだ……。

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