表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第二章「日常に潜む影」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/69

48話 始動

 久我為幸をつかまえる。そのために俺は、便利屋に嘘をつく。

 心苦しい。でも、決意は変わらない。


 先輩の残した情報を手に入れた俺は、そのまま家へと帰った。紫は学校に行くと連絡が来ていた。あいつの能力についてや、所長がそれを知っているかについて今問いただすことはできない。


 家に帰ると、陽樹と所長がいた。美玲は学校にいるという。どうやら調査に一枚噛もうとしたらしいが、警察には断られたらしい。所長的にはリエンドが事態を重く見て警察に圧をかけているのではと言っていた。

 これによって、便利屋として合法的に調査することができなくなってしまった。


 俺は王核や久我については隠しつつ、先輩の家に飛び出して行ってしまったのだと説明した。


 美玲は今日朝早くから研究室の用事で出て行ったため、後からニュースを知ったらしい。


 学校で崩れ落ち、放心状態となった来夜先生によって。


『それでホームルームもまともにできなくて、あそこまで取り乱すなんて……。でも、付き合いが長かったようだし誰も責められないわ』


 美玲の送ってきたメッセージからは、何も感じ取れない。しかし、昨日出会ったばかりとはいえ、あんなにも楽しそうに質問していたのだ。その痛みは小さくないだろう。


「内田君といえば、古代魔術に通ずる名家の一人娘だろう? 私も何回か見かけた程度だが、それなりに名を知られているよ」

「……正直、魔道学校でもかなりの実力者だったはずの彼女が殺されたとなると、私としても傍観しているわけにはいかないんだけどね」


 一通りの説明を終えてから、所長がきつく腕を組んで言った。事務所の会議室に重い空気が漂う。


「俺らが勝手にやるってんじゃだめなのかよ!」


 陽樹が机を叩いた。こいつが怒るのはわかっていた。誰にでもいつでも優しいやつだから。


「だめだ。さっきも説明したが、おそらくリエンドが噛んでる。私のコネを上回るのなんてそれくらいだ。自信過剰かもしれないが」

「そうだろう。アルト」


 所長がそう言って扉を見る。

 すると、鍵を閉めたはずのドアがガチャリと開いた。


「今回は気づいていたんですかぁ先輩?」

「そんなことはいい。何か情報を持ってきたんだろう」


 所長は普段のようにアルトの言葉に乗せられない。それだけ内田先輩がやられたことに危機感をいだいているのだ。


「……そうですねぇ。まずは先ほどの会話を拝聴していたので、それに対するアンサーを」


「今回の調査にリエンドが絡んでいる。これはあたりです。詳しくは言えないですけど。で、ボクら特務第一は調査には参加していません」

「なにやらレイジ君たちが知り合いだったようなんで、これはサービスですからね。オフレコで頼みますよぉ」

「第一はあくまでゼダを追うわけか、だが、魔術の名家だろうとやはり動いていたんだな」


 所長は納得したように腕を組みなおす。たしかに、リエンドは魔法至上主義が強いらしいし、先輩の記憶からもその勢力のひとつに両親を殺されたことが分かっている。

 となると、一つの仮説の立証が難しくなった。


「これって、リエンドの魔法至上主義派閥がやった可能性はないんですか。身内がこっそりみたいな」


 久我の共犯と思われる()()()()()がどこの組織か、あるいは個人かということは先輩の記憶からは分からなかった。だが、先輩の両親を殺したことや、先輩の今際の記憶から、王核を引きずりだしたことは分かっている。

 王核の存在は魔道界でも限られた者しかいない。このことから、リエンドの魔法至上主義の中でもかなりの役職のひとが怪しいと思っていた。


 だが、それにしても、犯行件数や無関係な人間を襲うことに納得はできなかった。アルトの情報でさらにその線は薄くなった。

 だが、久我やそのおじいさんについて所長やアルトは知らない。なにか情報が出てくるかもしれない。


「私的にはその線はないかな。いくらなんでも大胆すぎる。リエンドの人間がやるならもっと狡猾でじめじめした感じだろう」

「ボクも先輩に同意ですねぇ。うちの上司がやるにしてはパッとしないというかぁ。衝動的って感じかなぁ」


 リエンドの上層を知る二人が口を揃えて言うということは、やはりリエンドが犯人に繋がっている訳では無いのか……


「ボクも何か教えられることがあれば話そうとは思うんでぇ、くれぐれも静かにひっそりとしておいて下さいねぇ」


 念を押すようにゆっくりと言うと、そのままアルトは部屋を出ていった。


「あいつ、絶対どっかで監視してるからな。うちは下手に動けないな……」

「マジかよ……」


 所長がドアを見つめながら言う。陽樹はそれを聞いて肩を落とす。

 便利屋の力を借りられないというのは困る。俺だけじゃ、恐らく久我には力が届かない。

 なんとかして月城だけでも協力を得たとしても、やっぱり戦力が足りない。


「調査はするなってことですか」

「……そうなるね」

「便利屋としてってことですよね」

「レイジ君、気持ちは分かるが、リエンドが動いている以上、個人で関与することは不可能だ」


 所長は普段見ないほどに厳しい目をしている。俺の目をその鋭い棘が刺している。


「わかってます。自分が何も出来ないのは悔しいです……でも、リエンドと警察が犯人を見つけてくれると信じます」


 嘘。俺はそれでも止まる訳には行かない。俺自身、この衝動を止めるつもりがない。


 とりあえずは月城に事件について聞くしかない。パン屋に久我が現れるとしても、そこで接敵しては危険すぎる。

 遺体には拷問された跡があった。それはつまり、拷問するための場所が必要ということだ。それを探して特定する。そこをあいつの懺悔する場所にしてやる。


「ならいいんだ。私にもう少し力があれば、君たちの願いを叶えられたろうに、申し訳ないな……」


 所長が悲しそうに笑う。

 それを見ると、心臓が痛かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ