43話 七人
白い髪の男が、俺を見つめている。青くて、海のように深い瞳が見つめている。
……違う、俺じゃない。レイジを見つめているのではない。
「オルト! あいつを直視するな! 俺様でもあれは敵わん!」
俺の意思か、「オルト」とやらの意思かは分からない。それでも声の方へと一瞬振り向く。
俺は今、オルトとやらの追体験をしているのか。
声の主は金色の髪と瞳を持つ輝かしい人だった。人というより、どこかの神様みたいなオーラだ。
なにやら体を変形させて、白く細長い腕と戦っている。
「すまない! 助かったギルシュ!」
ここで俺の意思で動いていたのではないと分かった。これは夢、いや……過去だ。内田先輩の術式が黒く光り出したことは覚えている。
「オルト様、今清らかにしてさしあげます」
「ありがとう。ラーティア」
ラーティアと呼ばれた緑髪の修道女が何かを呟くと俺の、いや、オルトの体を癒していく。
「シルバ! ガルドス! ちょっと頼んだ!」
「言われなくても分かっている」
「がってんだぁ!」
声に反応して、青髪の女と赤髪の男が飛び出していく。女が結界のようなものを展開すると、それを身にまとった男が陽樹の身体強化に似た魔法を発動させ、白髪の敵へと突撃する。
「サトウ! まだ穴の解析は終わらないのか!」
青髪の女が白い腕を凍らせながら叫ぶ。
「待ってよもう! こっちだって魔法苦手な中頑張ってんだから!」
サトウと呼ばれた黒髪にメガネをかけた男は、とてつもなく大量の術式を展開して、何かを解析しているようだ。
「――大丈夫だよ。みんな」
……その声に心が震えた。一切知らないはずの声、おそらくオルトとやらの心に呼応したんではないかと思う。
白髪の少女がオルトの横に並んだ。髪の所々が黒くなっている。
少女はこちらへ向くと、星のように綺麗なその瞳を輝かせる。
「トリト……お前の方こそ大丈夫なのか」
「そうですよトリト様、もうお体が……」
オルトとラーティアの言葉に微笑むと、トリトは決意の籠った眼差しを敵に向けた。
「外界の魔道士! これ以上あなたの好きにはさせない!」
「私が! 世界を救う!」
彼女はこれ以上ないほどに自信に満ちた笑顔だった。
◆
「――イジ! レイジ!」
意識が浮上する。俺は汗だくで倒れているようだ。
陽樹や美玲が俺の名前を呼んでいる。先輩も頭を抑えながら俺の方を見つめていた。
「……なにが、あった?」
「よかった! 意識が戻った!」
「あなた、術式が黒く光った瞬間倒れたのよ。眠っていたのは数分くらいかしら……なんにせよ意識が戻って良かったわ」
数分……俺が見たあの戦いは夢みたいなものなのか?いや、先輩の術式に触れたことでああなったんだ。おそらく過去の一場面なのだろう。それに、俺の魂が、心があれは現実だと告げている。
俺はすぐに体を起き上がらせて、頭を抑えた先輩へと質問する。
「先輩、見ましたか?」
「ああ」
「あそこまでの過去が見えるのは知っていましたか?」
「ああ」
「先輩は、始まりの七人について、何か知っていますか?」
「……ああ」
俺が淡々と質問するのに対し、美玲と陽樹は戸惑っている。
「どうしたんだよ、レイジ?」
「始まりの七人……レイジ、あなたは何を見たの?」
「ごめん、ちょっと待ってくれ」
申し訳ないが、今は二人の心配よりも、あの過去について知りたい。
「先輩が知っていること、教えてもらえませんか」
先輩はこうなることが分かっていたように、俺を見つめる。
「……初めの違和感が当たったようだな。いいだろう。すまないが、綾崎と稲垣には聞かせられん。場所もダメだ。我が家に行くぞ」
「わかりました」
すぐに返答すると、陽樹が目を見開いて俺に迫る。
「え! どういうことだよ! レイジ!」
「……仕方ないわ。陽樹、私たちは帰りましょう」
美玲は何かを察してくれたようで、陽樹を引きずり教室を先に出ていった。
「では行くぞ、天野」
この先、先輩の話に俺の謎が眠っているかもしれない。それを知ることが重要だと、そう思った。




