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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第二章「日常に潜む影」

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42話 触れる

 美玲の質問攻めによって疲弊した内田先輩は、床に寝転び丸まっていた。


「も、もういいか綾崎……我に話せることはもうないぞ……」

「ええ! 大変参考になりました!」


 先輩は恐る恐るといった様子で美玲を見ていうと、もうこれ以上あの怒涛の勢いに晒されることは無いと安心したように息をつく。


「美玲のせいで俺たちまだ名乗ってないんだが! 自分だけちゃっかり名前名乗りやがって! どんだけ長引くんだよ!」

「うるさいわねバカ。……私だってほんの少し熱中しすぎたとは思っているわ」

「うそつけぇ!」


 堂々と言い放つ美玲にツッコむ陽樹だったが、美玲はそんな陽樹を無視した。


「まぁそれはもうよい……それで、そなたらの名は何という?」


 先輩は丸まりながらこちらを見ているようだ。


「俺は稲垣陽樹っす! よろしくおなしゃす!」


 陽樹は自身を親指で指しながら言った。


「俺は天野レイジです。よろしくお願いします。内田先輩」


 俺も続いて自己紹介すると、先輩は床に胡坐をかき、よろしいと腕を組んだ。

 ……まじまじと俺を見ていたような気がするが、丸まって目線がわからなかったので気のせいかもしれない。


「うむ、しかし、部活……便利部と言ったか。依頼は校内で募るのか?」

「そうですね。調べたところ、猫の手も借りたいというような部や人が多く見られました」


 美玲のやつ、いつの間に調べてたんだ?

 先輩はそれを聞くと唸る。


「うーむ、なるほどなぁ……」

「いいだろう。では我は補欠ということで……」

「ちゃんと活動しなさい。あなたがあちこちに実験みたいに刻印した術式、剥がすの苦労してるんだから!」


 さらっと逃げようとした先輩を来夜先生が捕まえる。

 さすがに観念にしたようでグッタリと項垂れるのだった。





 先輩が五人目となることはとりあえず決まったのだが、美玲が先輩の古代魔術に興味があるといい、無理やり……誠意をもってお願いしたところ、魔術を見せてくれるうえ、説明までしてくれるらしい。

 先生の方は仕事があるといって職員室へと帰っていった。あとで部活の申請書を持ってこいと言っていた。


「まず、古代魔術についてだが、魔導文字から異なる。機械王サトウの作った魔術の原型、それとほとんど同じものだ」


 そう言って先輩はさらっと紙に術式を刻印する。確かに俺の知る魔導文字とは違うもので、現代のものがアルファベットだとしたら、古代魔術の方は遠い国のなにやら線がぐにゃぐにゃしたような、そんな文字に見えた。でもどこかカタカナみたいにも見える。


「古代魔術はこの魔導文字の解読から難しくてな。我も全てを知る訳ではない。ここの校長などは趣味で魔道史の研究をしているからな。我と同程度には分かるはずだ」

「そういえば、校長が機械王サトウの遺物の研究をしてるとか言ってました」


 校長の研究室での出来事を思い出す。魔力測定で王核がバレないかヒヤヒヤしたのを思い出してすこし身震いした。


「うむ、校長は趣味で研究しておる。我の家ともよく交流しているのだ」


 先輩の家は凄い歴史ある名家ってことか……もしかしたら王核について何か分かるかもしれない。あとで聞いてみよう。


「そして、古代魔術だが、一つだけ、現代魔術と異なる点がある。それは魔法を扱える者にしか使えないということだ」

「ほとんど魔法みたいですね?」


 俺がそう言うと、先輩は頷き術式に触れる。魔力の流れに集中すると、先輩から魔力が流れ込んでいるのがみえる。紫色にぼやけて光っている。少し暗い教室内では綺麗な装飾のようだった。


「これはまぁ占いのような呪いのような魔術でな、手を触れると、大したものではないが、ほんの少し過去を覗ける。それより、我の魔力を使っているのが分かるな?」

「すげぇな! ぜんぜん魔術と違うわ!」

「術式の方の流れがほとんど見えないと思ったらそもそも源流が違ったのね……」


 陽樹と美玲が術式に釘付けになっている。だが俺は別のことを考えていた。ほんの少しの過去を覗ける……どの程度まで覗けるのだろう。


「ほんの少しってどのくらい見えるんですか?」

「程度に差はあるようだが、短くて数日、長くてひと月程だな。やってみるか?」

「やってみてもいいですか?」

「え、俺もやりたい!」


 陽樹が勢いよく手を挙げる。


「私は……遠慮しておくわ」


 美玲は少し間をおいてから、先輩の方を見る。絶対やりたがると思ったらそうでもないのか。


「じゃあ陽樹を先にお願いします」

「いいのかレイジ! うし、ドンと来いてぃあら先輩!」

「うむ、では行くぞ……」


 陽樹か術式に手をふれ、先輩がそれを発動させる。

 また術式が紫に光り出す。しばらくして光が収まったが、陽樹は何ともない。


「これって誰が過去を見るんだ?」

「我だ。おぬし、数日前に盛大に転けたようだな。これは……なにやら事務所のようだ。床に置いてあった魔道具に足元をすくわれておる。銀髪の女が爆笑しているな」

「おおー! そうだぜ! 美玲が魔道具を落としたのに気づかなかったから、俺が犠牲に……」

「そ、それは事務所に置きっぱなしだったやつを整頓してたら落としちゃったのよ! 悪かったわね!」


 確かにこれは真実だ。先輩は俺たちが便利屋というところで働いていることを知らない。そのうえ初対面だ。魔術は本物のようだ。


「でもすげーな! これ使えばめっちゃ稼げるんじゃ!」

「それは無理だ。我の魔術は金儲けに使うこと、みだらに人に見せることを禁じられておる。今見せてやっているのは研究意欲のあるものへのデモンストレーションみたいなものだ」


 先輩はハッキリと陽樹に答えた。今の俺たちはグレーゾーンってことか。


「そうだったんですか。だったら見せて欲しいなんて言わなかったのに」


 美玲は申し訳なさそうに眉を寄せる。


「いや、よい。この程度なら問題ない。それに、我も便利部とやらで何かせねば来夜先生に怒られてしまう……」

「そう、ですか」


 先輩は頭を抱えながら呟いた。しかし、すぐに姿勢を正すと、俺を見る。


「次はおぬしだ。手を触れるがよい」

「わかりました」


 ゆっくりと術式に手を触れる。じっくり見ると円形の模様の中に古代の魔導文字がびっしりと書き連なっているのが分かる。

 そして、やがて紫に光りだして……なんてことにはならなかった。


「な、なんだ? なぜ黒く光っている! 我はこんなこと知らないぞ! まさか……」

「レイジ!」

「手を離しなさい! レイジ――」


 反応するよりも先に、俺の意識は失われた。

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