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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第二章「日常に潜む影」

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40話 ため息の出る昼休み

「はああああ」

「どうしたのレイちゃん、ながーいため息なんてついちゃって」


 学校の昼休み、俺は机に顔面をこすりつけていた。

 授業中もマンイーター、ゼダの契約先などのことが頭から離れず集中できなかったからだ。部活の五人目を探そうとしていたのにそれどころではない厄介ごとが舞い込んできてしまった……

 月城は横の席に座ると、俺の真似をして目線を合わせてきた。


「あー、なんでもねぇよ」

「うっそだー」

「アタシに嘘は通用しませーん。どうせこの前のやつでしょ? 紫ちゃんもすごい静かだったし……教えらんないらしーけどさ!」


 月城もアルトによる契約こそしたが、ほとんどの情報を聞いていない。アルトの話した内容の口外禁止というものなんて意味を成していないといってもいい。


「さあな……てか所長、すごい慌ててたな。あんなになるなんて想像つかなかったわ」


 マンイーター捕縛後、所長の乗った車は逮捕されないんじゃないかと思うスピードを出していた。そのあとも、紫に大丈夫かとしつこく聞くもんだから、怯え切っていた紫がうざいと一蹴するくらいだ。


 そういや紫の記憶処理ってどうなったんだろう。なんか昨日は処理できる人員がいないとやらで何もなかったらしい。あんな怖い記憶はとっとと忘れたほうがいいだろう。


「そうだね、アタシも見た事ないくらい……ってちがーう! そうやってはぐらかして! いいよ! もう聞かないしー!」


 そう言うと、月城は上体を起こし、スマホをいじり始めた。


「あ、また死んじゃったのか、今月何人目かな……」

「あ? なんの話?」

「んー? ニュースだよー、ほらこれ」


 そう言って月城がスマホの画面を見せてくる。

 それはネットニュースだった。内容は殺人事件か。


「なんだこれ」

「知らないの? あー、レイちゃんニュースとか見ないもんね。これは最近話題の殺人事件、新聞部のトピックのひとつなんだー」

「ふーん……行方不明だった男性が河原で発見されるも、心臓を何度も突き刺された状態で発見、死亡を確認――死亡した後に刺されたと思われる痕跡も見られ……うわぁ」


 月城は、他にも様々な場所から悲惨な状態の死体が見つかっているといって様々なページを見せてくる。どれもナイフを使った犯行と見られ、事件同士の関連は不明だという。惨い事件だ。


「こういうのって、魔法とか魔術で何とかならねぇの? 捜査とか」

「なるものはなるけど、犯罪っていうのは常に先を行くからねー、今回もなんか裏技でもあったんじゃない? 魔道はどんな方向にも発展するものだし」

「というか! それこそ、アタシの目をつけたポイントだよ!」


 やたらテンションの高い月城は、腰に手をあて語り始めた。


「確かに殺人事件っていうのは減るもんじゃないし、最初はアタシも特に目をつけてなかったよ……でも、最近は少し多めなんだよね! あとさっき見せた事件たち、警察は関連不明って言ってるけど、絶対同一犯!」

「同じナイフという凶器、死体は全て隠すことなく雑に捨てられている、そしてアタシが手に入れた情報では、死体には拷問されたような跡があったという! これはもう連続殺人でしょ!」

「どこで手に入れた情報なんだよ」

「秘密!」


 その謎情報の信ぴょう性はともかく、事実だとして、この町には人を拷問してから殺害し、その後は難なく捨てている人間がいることになる。物騒なことが多すぎるな。


「アタシの勘が魔道関係だって言ってるし、もしかしたら警察から便利屋に依頼が来るかなー? アタシも参加出来ないかなー」

「そういうのは所長が対応するんじゃねえの? あの人のコネっつーか、縁みたいなもんなんだろ?」

「前はみれがしょちょーと一緒に探偵みたいなことしてたっぽいよ? 魔眼あるし、優秀だからかなー……」


 確かにあいつなら捜査に混ざっていてもおかしくなさそうだ。

 月城は……正直底が知れないというか、なにができるのか知らないから何とも言えないな。


「まー、最悪勝手に捜査しちゃえばいいやー」

「いやだめだろ」


 いつになっても適当な奴だなこいつは。だが、殺人事件か、気を付けておこう。

 そういえば、夏祭りのときに聞こえた声とかあのやばそうな気配、あれはもしかしたらその殺人鬼のものだったりして、いや、そしたら声がよくわかんないな。違うか。


「レイちゃんも、なんかこの事件に繋がりそうなことあったら言ってねー! アタシも五人目とか探しといてあげるよ!」


 そう言いながら月城は教室を出て行く。


「おーう」

「はあ、五人目なー」

「おうレイジー飯食おうぜー!」


 入れ替わりで陽樹が教室に入ってくる。学食で日替わり弁当を買ってきたようだ。遅れてガレスもやってきた。


「稲垣! 廊下を走るな! 先生に見つかったら怒られるぞ」

「近衛先生なら平気だし大丈夫だって! 来夜(くるや)先生じゃなけりゃ……」


 俺はその瞬間を見ていた。ガレスのさらに後ろから気配もなく教室に入り込んだその女性を。

 そしてあっという間に陽樹の後ろへと忍び込んだ。ガレスもここにきてようやく気が付いたようだ。顔が青ざめている。


「来夜先生でなくてはなんなのでしょう?」

「だからー来夜先生じゃなければ怒られ、な、い?」


 陽樹が違和感に後ろへと振り返る。するとそこには黒い髪をハーフアップにセットした若い女性教諭――魔道科一年二組担当、来夜水月(くるやみつき)が静かに微笑んでいた。


「あ」

「稲垣くん! もう高校生なんだから廊下を走らない!」

「ご、ごめんなさい!」


 なぜか陽樹は来夜先生に弱い。特に怖いというわけでもなく、真面目な先生なのだが……


「もう、次は課題倍じゃすまないからね」

「それだけはやめてください!」


 そういうことかよ。

 ……てか、先生見て思い出したけど、部活って顧問が必要なんじゃ?美玲は特になんも言ってなかったけど、そこのところはどうなんだろう。


「来夜先生、ちょっといいですか?」

「ん? 何かな、天野くん」

「部活作る時って顧問いりますか?」


 横で聞いていた陽樹たちも、あっと声を出した。やっぱり必要なのか。俺たちも忘れていたが、美玲もすっかり忘れていたんだな多分。


「そうだね。部活には顧問がいないと……何か新しく作るの?」

「まぁ、はい。まだ四人しかいないし、顧問になる人も見つかってないんですけど……」

「一応聞くけど、何部?」

「えっと、便利部って名前で、俺の仕事……バイト先でやってることに似たことをしようと思ってて……」


 それを聞くと来夜先生は顎に人差し指をあて、小さく『あー、便利屋かー』と呟いた。


「天野くんもシャスティちゃんも便利屋にいるんだっけ。近衛先生のお姉さんと便利屋の所長さんが昔同じ職場だったから知り合いなんだって言ってたなー」


 そういう事だったのか。元の職場となると、リエンドか?近衛先生のお姉さんってリエンドにいるのか……すげぇ。


「便利部、いい考えだと思うよ。部活となると、みんなのお悩み解決に近いのかな? よければだけど顧問、やってもいいよ」

「え、本当ですか?」


 予想外の発言に驚いて聞き返した。なんというか、こんなあっさり顧問って見つかるもんか?


「ほんとほんと、今私なんの顧問もやってないのよ。思ったより顧問が必要になる場面がなくてね」

「じゃあ、五人目見つかったらお願いしてもいいですか」


 陽樹が先生の後ろでなにやら首を振っているが無視する。


「あー、それなんだけど、私が顧問する代わりに一人その便利部に入れてあげて欲しいんだよね」

「入れてあげる……? 五人目ってことなら俺は特に気にしない、というか歓迎ですよ」


 思わぬ所で一石二鳥だ。顧問と五人目が同時に見つかったなんて!後で美玲にも連絡を入れなければ。


「そ、そう? ちょっと気難しい子、なんだけど」

「まだ、会ったこと無さそうでなんとも言えないですけど、多分大丈夫だと思いますよ?」

「本当? えっと、じゃあ今日の放課後、絶対連れてくるから、職員室来れる?」


 歯切れが悪い先生だが、そんな問題のある生徒なのだろうか……しかし、貴重な五人目と顧問をここで逃す訳にはいかない。

 一応覚悟を決めておこう。


「わかりました。放課後ですね」

「そう、じゃあ放課後ね! 私仕事あるの忘れてたから早く行かなきゃ! 稲垣くんはさっき言った通り次は倍じゃすまさないからね!」

「はい!」


 そう言って先生はやや早歩き気味に出ていった。

 何やら気になる感じではあるが、俺たちは便利部結成への大きな一歩を踏み出したのだった。

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