37話 どたばた
便利部について構想を固めてから時間は経ち、現在は便利屋でチーズフォンデュパーティー中である。普段はいない美玲や所長も、夕飯をここで一緒に食べるようだ。
俺は月城とシャスティにも部活の勧誘をしている。
「――それで、四人は集まったんだ」
「そーゆーことね、でもさすがのアタシも流石に三つ掛け持ちはムズいかなー」
「楽しそうだけど、私も最近は漫画研究部で毎日創作するのが楽しいから……作画もあるし」
「まあ、そうだよなー」
様々な食べ物がチーズの海を通り、そのヴェールを被る。
そして、皆の口へと運ばれていく。
「グラムー! このパンうめぇぞ!」
「そうか、さっき焼いたんだ。まだあるからもっと食え」
「うわ、ほんとに美味い」
陽樹はパンに無性に食らいついている。俺も食べてみるとすごい美味しい。焼きたてのフランスパンにチーズとガーリックがよく合う。
「チーズフォンデュなんて滅多に食べないから、新鮮ね」
「私もあまり食べないな、最近は時間なくて弁当とかしか食べてない」
「あなた、所長なんだし、ここで食事すれば良いのではないかしら?」
美玲と所長も美味しそうに食事しながら会話している。
普段少ししか話さないような事務員さんもいて、かなり賑やかだ。
「でも、グラムさんこんな量のチーズよく手に入りましたね」
「実家……いや、故郷から送られてきたんだ。料理にうるさいじいさんがいてな。経営の危機にあった牧場を援助して色々な商品を作ったうちの一つらしい」
グラムさんってお金持ちの家出身なのか……?いつか聞いてみよう。
それより、さっきから気になることがある。
食堂の机のひとつ、そこに見慣れない少女が座っている。藤色の長い髪に、同じ色の瞳は真っ直ぐに目の前の食事へと向いている。
その、どこか神秘的な雰囲気の少女は、熱いチーズに苦戦しながらも、頑張って頬ばっている。
事務員さん達に囲まれて可愛がられている。
「なあ陽樹、あの子だれ?」
「ん、あれ? 紫ちゃんだろ……って、あー! そっかお前まだ会ってなかったのか!」
紫ちゃん?マジで誰だ。俺が困惑していると、会話が聞こえたようで、美玲が所長を連れてこちらへやってきた。
「どうした、レイジ君、何かあったかな?」
「所長、タイミングが悪かったのもあるけど、紫ちゃんのこと、レイジにちゃんと話していなかったの?」
「え? …………あ」
所長は心当たりがないか頭を回転させる。結果自分が忘れていたことに気づいたようだ。
俺は、紫ちゃんという少女を見ながら所長に質問する。
「あの子誰なんですか? 俺見た事ないですよ?」
「あーっとね、紫は私の――」
「娘なんだ」
「え?」
娘?既婚者だったの?
「訳あって私が引き取ったんだが、実の娘みたいなものでね……あーそうか、最近は事務所にも顔を出してなかったから知らなかったのか」
頭を搔く所長は、シャスティのことを忘れていた時と同じような感じがする。所長はたまにこういうすっぽかしみたいなことするんだよな。
「紫ー、ちょっといいかー?」
所長がそう言って紫を呼び寄せる。
「なに? アマクサ、うち今チーズ食べるのに忙しいんだけど」
「すまんすまん、ほら、最近新人が入ったって言ったろ、彼がレイジ君だ、あと、あそこの銀髪の子がシャスティ君」
紫は俺をじっと見つめた後、離れたところで食事しているシャスティの方へと駆け寄り、これまたじっと見つめた。
「うぇ? なになに?」
「お? 紫ちゃーんおひさー!」
月城に対してぺこりとお辞儀、そして困惑するシャスティを引っ張ってきた。
「ちょっとちょっと、なんなの?」
紫は俺とシャスティを横に整列させた。いまだ状況を理解していないシャスティだが、紫の言うままに動いている。
「二人は新人、つまり……」
「「つまり?」」
「これからはうちの僕ってこと、うちの言うことは絶対だから。わかった?」
え、しもべ?突然の主従宣言に頭が追い付かない。
「手始めに、うちと便利屋の依頼を解決してもらう!」
隣のシャスティと顔を見合わせる。互いに目の前の少女の勢いに完全に持ってかれている。
しばらく静かな時間が流れた。
呆然とする皆の中で、最初に口を開いたのは所長だった。
「紫? 何をいってるんだい!?」
「うるさいアマクサ、これは決定事項」
どうやら所長の言うことは聞かないタイプらしい。何を考えているか分からないが、便利屋の依頼を一緒に解決……一個くらい依頼に同行させても大丈夫かな。
「よく分かんないけど、私はいいよ。依頼解決してみたいんでしょ? 私とレイジで何かやるのについてくるだけだし」
「うん、それでいい僕二号」
「まぁいいけど、なんで僕なんだ? 依頼解決したい理由って――」
「質問が多い男はモテない」
な、なんだとぉ!心に直に来るダメージを的確にぃ!年下の中学生くらいの子に言われるとマジで痛い!
「ぐっ……もう喋らないでおきますね……」
「レイちゃんが見たことない顔してるー!」
月城がめっちゃ笑ってる。覚えとけよ……!
陽樹も笑ってるし!美玲は苦笑いしてる……
「とにかく、うちを依頼に連れていくこと!」
「わかった?」
こうして俺たちは、神秘的な少女との依頼解決へと赴くことになった。




