35話 魔道学校!(4)
「なあなあ! どこ出身なんだ!」
「編入ってすごいよね、試験ってどうだった? 特別生ってホント?」
「月城さんとどんな関係なんだお前ェ!」
「出身は覚えてない。気づいたら孤児院にいたんだ。そんなに気にしたこともない」
「試験……? 試験は知らないけど、特別生だとは聞いた」
「月城はただの便利屋の同僚だ!」
「えー、アタシたちーそんな浅い関係なのー……?」
「月城! ややこしくするんじゃねぇ!」
月城の悪ノリと質問ラッシュがヤバい!編入生って思った以上に珍しいのか!
次から次へと、遠い昔の偉い人じゃないんだから、十人の話を同時には聞けねぇよ!
「はいはいー、レイちゃんに質問したい人はーこちらの列に並んでくださいねー」
月城がなにやら質問者を整列させている。ありがたいのだが……
「手数料は、まー、クラスメイト価格で百円でどう?」
全員が手数料を取るのかと総ツッコミした。そりゃそうだ。こんなことに金を払う奴がいるか。
「月城さん! 百円どうぞ!」
「え、ありがとう? ほんとーに払うの?」
「ええ、もちろん、貴方に貢ぐならばいくらでも!」
「はは……もらっとくねー……」
そう言って俺に近づいてきたのは……さっきから月城との関係について熱心に聞いてきた男だった。月城と同じ金色をしたゆるい七三分けで、横に髪を流している。眼鏡をかけたその男は、そのグラス越しに青色の目を見開いている。
「俺の名前はガレス・ヴァメルベルト、天野、お前と月城さんは本当にただの同僚か?」
「そう言ってるじゃん……」
なんだこいつ。もしかしなくても月城に気があるのか?
当の本人は金まで払って同じことを質問した様子に若干引いているようだが、言わないでおこう。
「そうか……ならよし! よろしくな、天野!」
「え、あ、おう……よろしく」
月城狂いはそう言うと満足したように席に戻っていった。
「じゃあ次! どぞ!」
次に来たのは黒い長髪の所々に紅色のアクセントが効いた女子だった。おっとりとした雰囲気だ。
「うちは真鶴由香、よろしくね。それでさ、試験なかったってホント?」
「はーいほんとーです! と言っても実際にはレイちゃんは編入試験的なのは普段の生活で、こーっそり出されたんでー、実力がない訳ではないのです!」
「え、どういうこと? ゆらちゃん」
俺じゃなくて月城が勝手に答えた。というか、初耳なんだが…………まさか!ひとつ思い当たる節があった。
「たまに美玲が出してきた試験問題みたいなやつ、あれか!」
魔道について美玲に教わっていた時、たまに『抜き打ちテストよ、かなりの難易度だから覚悟しなさい』と言って突然プリントを渡してきていたのだ。難しいとは思っていたが、あれが試験……!
「てか、なんでお前知ってんの!」
「んふ、内緒」
こいつ……!どこから情報仕入れてきたんだ!
「へぇー! 美玲って綾崎さんだよね! そんな事してたんだー!」
「そうだよー、みれはレイちゃんの師匠、だからね!」
さっきからこいつが答えてる気もするが、まぁいいや。
「はい次俺な! なんでレイジは魔道科に入ったんだ!」
なんでお前も質問してんだよ陽樹、まぁ答えるけど。
「魔法も魔術も両方できた方が今の便利屋では便利だからな」
「へへ! やっぱり便利屋か! 俺もかつきの役に立ちてぇんだ!」
何となくわかっていたらしい。俺の言葉を聞くと嬉しそうに笑った。
便利屋については既にいる便利屋メンバーに色々聞いてるらしく、全然聞かれなかった。
この後も、好きな食べ物だの、趣味だの、彼女がいるのかだの、質問は止まらなかった。変な奴がいたりするが、なんとなく、みんないいやつっぽくてよかった。仲良くやっていけるような気がする。
そうこうしていると、始業式の時間が迫っている。
「おー、そろそろ体育館いこうぜー!」
陽樹がそう言うとそれぞれが歩いて体育館へと向かっていく。
月城は真鶴やほかの女子と先に出ていった。
「レイジ行こうぜ!」
「おう」
「稲垣、天野お前らに聞きたいことがある」
ガレスを含め、なんとなく三人で移動していると、突然何か言いたそうな様子になる。
「稲垣、月城さんも便利屋のビルにいるんだよな」
「そうだぜ!」
「天野、あいつはよくお前に絡んできているな」
「お、おう」
「つまり……俺も便利屋に入れば月城さんに、『ガレちゃん』と呼んで貰える可能性があるってことか!」
こいつ…………どこまで月城に脳を焼かれているんだ。
しかし、陽樹は幼なじみ、俺はなぜこうも絡まれるのか謎、同じようになるとは思えない。
「ガレス! 残念だけど、多分無理だな! レイジとの距離感がなんであんななのか、俺らもわかんねぇしな!」
「嘘……だろ?」
ガレスは目に見えて落ち込んでいる。
てか、本当になんであいつは俺にだる絡みしてくるんだろうか。
体育館まではそう遠くなく、結論が出る前に着いた。
◆
体育館につくと少ないながらもクラスごとに分かれて整列していた。
隣の二組の様子をちらりとみると、美玲に……うわ、ガチでシャスティもいる。
俺の視線に気づいたのかシャスティが軽く手を振っている。美玲はこちらをチラリと見ると、少し手をあげて前方を指さすと、すぐに前へ向き直った。前向いてろってことだな。
シャスティは周りの生徒ともう打ち解けているようで、女子と談笑している。
始業式が始まり、しばらくして校長の話が始まる。よく校長の話は長いと聞くが、うちの校長はあっさりしていた。当たり障りのない世間話に始まり、二学期も頑張るように言うと『あまり長く話をすると疲れちゃうので、わたしからはこれ位で』と言って早々に切り上げた。研究以外のところでは頼りになる校長だと実感した……。




