32話 魔道学校!(1)
今日は魔道学校編入の手続きのために、学校に行く日だ。
だというのに、体がすごくだるい。先日陽樹が『課題が終わらない! 助けてくれ!』と、まだ編入すらしていない俺に助けを求めてきたのだ。
美玲も後から手伝ってくれたが、魔道の歴史や、術式の作成などの課題はとても量が多く、かなり疲れた。
まぁ、編入前にある程度の知識をつけられたと前向きに考えよう。
「ついたぞ、ここが国立魔道第一学校だ!」
手続きについてきた所長が言う。
彼の指す先を見ると、なんとも近代的な建物があった。めっちゃでかい!この前シャスティといったショッピングモールぐらいはある。
「でっか……生徒少ないんじゃないでしたっけ?」
「ここは研究所も敷地内にあるから大きいんだ。卒業後にそのまま進んでいくことも多いし、一貫していると言っていいな」
「なるほど……なんか、大学みたいですね」
しかし、かなり近代的だ。もっと古風というか、歴史あるところを想像していたが、あてが外れた。
「じゃあ、校長に会いに行こうか」
巨大な門をくぐり抜けると、中には生徒がチラホラ見えた。部活動だろうか。校庭の方では普通にサッカーや、野球をしている。
吹奏楽の楽器の音も校舎から響いている。
「思ったより普通の学校みたいな雰囲気ですね」
「あくまで魔道も教えるってだけだからね。普通の高校生と比べたらかなり忙しいけど、根本的にはただの高校生と変わらないのさ」
なんだか、とにかく楽しそうな雰囲気だ。高校に行くつもりはなかったが、この時期特有の青い空気感というものには、少し憧れていた。
自分で捨てたと思っていたが、こんな風に体感することになるとは予想外だ。
行き交う生徒たちは笑顔で会話している。教室をちらりと見ると、なにかの術式を構築していたり、魔法を扱って何かをしているような生徒もいて、魔道学校であることを再確認した。
◆
学内を歩いていると、校長室に着いた。
「失礼するよ」
ノックして、所長がドアを開ける。中はそこまで広くないが、応接用のテーブルとソファー、壁棚には何かの本がずらりと並び、歴代校長の肖像画が上の方に飾られていた。
「久しぶりだね、勝己くんそれと、君がレイジくんだね?」
部屋の奥の校長用の机、そこに座っていたのは眼鏡をかけた白髪にショートヘアの女性だった。吸い込まれるような瞳に、只者では無いオーラを纏っている。
「は、はい」
「久しぶりだな、ミラ」
ミラと呼ばれた女性はソファの方に手招くと、紅茶を用意してくれた。
「よし、じゃあ自己紹介ね、わたしはミラ。ミラ・クーリア、ここの校長をやっています。よろしくね」
「よろしくお願いします」
そう言って握手をすると、手が冷たい。まるで人の体温とは思えない。
「ミラ、早速で悪いが、説明頼んだ。授業とか研究所の話はしといた」
「了解、じゃあレイジくん、私がこの学校について説明しよう」
淡々とした口調の人だ。クールな女性って感じ。
「そう言っても、説明することは多くは無い。まずは、勝己くんが話してくれたようだけど、名前の通りこの学校では魔道を学ぶ。その他に、一般的な高校で勉強することも、軽くだがやる」
「そして研究所も敷地内にある。進路として多くの生徒が進んでいくことになる」
「君は聞いたところ事前に色々と学んでいるようだし、授業内容は入ってからのお楽しみにしておこうかな。私からはあと、部活などについて話そう」
「部活……」
部活か、普通の高校としての要素があるのだし、来る途中で活動している生徒も見たから不思議ではない。
「この学校では原則として、部活を強制してはいない。代わりに、研究室の手伝いとかをする生徒も少なくないが、きみは勝己くんの所で働いているらしいからね。経験としては充分なものだろう」
「ただ、高校生の本分は勉強だが、部活動に全力で取り組めるのも高校生のうちだ。気になるものがあればやってみるといい。見学したいといえばどこでも歓迎してくれるはずさ」
やりたいことと言ったら、魔道の勉強なんだよな。となると、研究室の手伝いというのが気になる……
「分かりました」
「学校まで来てもらってなんだけど、このくらいしか言うことないんだよね。あとはちょっと書類に名前を書くくらいで試験ももうないし、単純に顔が見たかったから私としては全然満足なんだけど、何か見ていくかい?」
あれ、確かに試験とかやってないな。そういうのないんだろうか。
まぁいっか、今は。
「それなら、研究室って見れますか?」
そう言うと、校長は凄く嬉しそうに笑った。
「研究に興味あるのかい!? おーおー! いいだろう! わたしの研究室へと案内してあげよう!」
「おいおい、いいのかミラ、機密情報とかあるんじゃないのか?」
「何を言う勝己くん、わたしは魔道に興味がある若者全ての味方だ。その為ならば、わたしの研究なんてどれだけでも公開できるとも!」
魔道のことになると凄い早口になるなこの人、さっきまでのクールさが別人のようだ。
「ならいいが、じゃあレイジ君、ミラの研究室を見てくるといい。私は少し用事があってね」
「はい!」
「よし、では行こう! レイジくん!」
魔道の研究を行っている所……どんな研究があるのか、期待に少し口角が上がっている。
書類を書いたあと、校長について行く俺の足取りは、体のだるさも忘れたように軽やかだった。




