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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第二章「日常に潜む影」

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31話 魔法生物を探そう / 幸福追求行動

魔法生物を探そう



 今日は便利屋の依頼で隣町に俺と陽樹で来ている。依頼内容は逃げ出したペットの捜索らしい……ペットの捜索って、追跡の魔道具みたいなのがあるのか?ペット捜索はたまにある依頼だと陽樹は言うが、具体的なことは『やってみればわかる!』とか言って教えてくれない。

 うちは魔道専門だし、絶対普通のペット探しにはならないだろう。


「なあ、なんで何も教えてくれないんだ? ペットが猫とか犬なのか、みたいなことくらい教えてくれよ」

「まぁまぁ! サプライズだよ、サプライズ!」


 ずっとこんな感じで教えてくれないのだ。何回粘っても笑って教えてくれそうにない。いっつも口が軽いくせになんで今だけこんなに堅いんだ!


「ほら、ついたぜ。答え合わせの時間だ!」





 依頼主の家につき、大きめな部屋の中に案内された。天井は高く、ソファがふかふかだ。依頼主の女性はかなり落ち込んだ様子で、あまり眠れていないのか、目の下にクマがあった。


 か細い声で依頼主は話し始めた。


「今日はありがとうございます……事情が事情なので、何処に助けを求めればいいか分からなくて……」

「大丈夫だぜ、お姉さん! 早速なんだけど、探してる子の写真見せてくれますか!」


 女性は頷くと、彼女の後ろの棚の上にあった写真立てを持ってきた。


「こちらが、ネムちゃんです。一週間くらい前から開いていた窓から飛び出してしまって……」

「毎日家の周辺を探しているのですが、まるで見つからなくて……」


 差し出された写真を見……え、なにこれ。羽の生えた猫?


「これって……猫、ですか? ……俺、あんまり詳しくなくて」

「ネムちゃんは空猫です。日本に空猫はいませんし、知らないのも無理はないと思います」


 こんな目立つ動物今まで見た事ない。魔道に関わる以前に、こんな動物がいたら知らないわけが無いと思うんだが。


「こいつは魔法生物だな! 日本じゃ厳しい条件をクリアしてペットにできるんだよ」

「大陸の方にはめっちゃいるらしいし、見てみてぇよな!」

 

 外界から召喚する魔法生物とは違う……ということか?大陸にはたくさんいる、ということは、シャスティも結構そういうのを見てきてるかもな。今度聞いてみよう。


「このまま脱走させておくと原生生物保護の団体によって殺されてしまうかも……あぁ、どうしよう」

「では、急いでネムちゃんを見つけてきましょう!」

「はい、お願いします……」





 その後陽樹が『すぐに探しに行こう!』と言うので、家を飛び出してきたのだが、


「なぁ、結局その空猫って、どうやって見つけて連れて帰るんだよ」

「よくぞ聞いてくれた! つまり作戦はこうだ!」


 自信満々に言う陽樹を見て、少し不安になる。本当に作戦と言えるものが出てくるだろうか。


「お前が見つけて、俺が捕まえる! これしかない!」

「作戦!?」


 想像以上に雑な考えしてた!いつも美玲なんかと組んだ時のあの安心感、それは、こいつから引っこ抜いて付け足された物かもしれない。

 それくらい二人の差というものを感じた。


「レイジはもう基本的な魔法も、魔道具も使えるんだろ? ならできる!」


 確かに魔法はある程度扱えるようにはなったし、魔道具も暇な時に共用の物の説明は受けているが、そこじゃない。

 しかし、そんな事を言ってもどうにもならないので、とりあえず空猫を探す方法を考えることにした。


「空猫の捜索依頼って、これまでにもあったのか?」

「あったぜ! そんときは美玲が魔術で空猫の魔力の流れを辿ったとか言ってたけど、理屈はわかんねぇな!」


 魔眼で空猫の魔力を見て、魔術でその痕跡を辿る。俺らじゃできない方法だな。


「空猫になんか習性とか特徴はないのか?」

「そうだなー、水が怖いから水辺には行かないな! あと暗いとことか、涼しいところが好きだな!」


 普通の猫と似ているんだな、なら川の方には行かないか。

 この町と隣町を隔てる大きな川、一週間前に逃げ出したということで、そっちまで行っていた場合大分苦しいも思ったが、その心配は無さそうだ。

 ……橋を渡っていたらどうしようもないから、今は考えないでおく。


「あとは、あぁ、塩パンが好きだぞ」

「なんて?」


 塩パン……そんな物食って大丈夫なのか?


「塩パンって、どういうチョイスなんだそれ」

「いや! ガチだからな! 空猫って何故か塩パンが好きなんだよ!」


 必死の表情で訴えかけてくる。嘘は言っていないようだ……塩パンが好きってことはもしかしたら、


「塩パンが好きってことなら、パン屋の近くにいるかもな、美味しそうな匂いにつられて」


 それを聞いた陽樹はハッとした。


「レイジ……天才かお前! じゃあ行こう!」



 スマホで近くのパン屋を探してみる。しかし、割と数が多いな。


「パン屋めっちゃあるわ、絞りきれるかな」

「近くに住処になりそうなとこはねぇかな? 空猫って暗かったり、羽を伸ばして飛べるところが好きなんだよ」


 なるほど、それで依頼主の家は天井が広かったのか。


「この辺りに広くて隠れていられる場所なんてあるのか?」

「それは聞いて見りゃいい!」


 陽樹は近くにいたお兄さんに話しかけに行った。



「……そうか! ありがとうな、お兄さん!」


 話は終わったらしく、走って戻ってきた。


「そんなに広めなところはないって言ってたけど、ちょっと前に、このパン屋の近くで何か動物の鳴き声がしたって言ってたぜ!」

「ここか、でも家の周辺は探したって言ってたしな……お?」

「どうした?」

「羽猫って、暗いとこも好きなんだよな?」

「そうだぜ」


 パンの匂い、暗くて涼しい……この場所にいるかも!ひとつのパン屋の近くにある場所を見つけた。


「ここ、可能性あるかも」

「どれどれ……なるほど! 可能性ありだな、よし行こう!」





 こうして俺たちがやってきたのは地下駐車場。彼女は家の周辺を探したと言っていたが、ここは盲点かもしれない。

 パン屋のすぐ側に、その駐車場の出入口があった。パンの美味しそうな匂いがする。


「パンの匂いが少しするし暗い……しかも涼しいし、隠れることはできそうだな!」

「止めっぱなしの車の下とか入り込んでるかもな、猫って名前についてるし」

「よし任せろ!」


 そう言うと、陽樹は強化魔法を使い、低い姿勢で素早く車の下を確認している。なんか動きがおもしろい。カサカサしてる。


「あ! いた!」


 すると、陽樹が覗いていた車の下から空猫が飛び出した!

 本当に羽が生えてるし飛んでる猫だ!羽がきらきらしてる!

 

「うおおおお!」


 陽樹は周囲の車を傷つけないように空猫を追いかけ、駐車場の角へと追い込む。


「レイジ! 頼んだ!」

「おう!」


 魔道具を取り出す。取り出したのは四番。かなりの強度を持つ縄で、魔力を込めて捕縛されたものはリラックス効果を得るらしい……

 なんでも、あまりにリラックスしてしまうことで、力が抜けてしまうとのこと。ラーメン屋のマンイーターを拘束していたのはこれだ。


 しかし、縄のリラックス効果は捕縛後にしか発動しない。縦横無尽に空を飛ぶ相手にカウボーイみたいに縄を当てるなんて不可能だ。先に無力化する必要がある。


「水が苦手って言ってたもんな!」


 魔法で水を作りだす。空猫の飛ぶ周囲を薄い水の膜で覆い隠す。

 空猫は水に囲まれ動きが制限される。


 だが、飛んでいるため、俺では縄が届かない。


「陽樹! 縄!」


 四番を陽樹にぶん投げる。陽樹はそれをキャッチすると、そのままジャンプして水の膜に飛び込んだ。


「ネムちゃん! 帰るぞ!」


 一瞬にして近くに飛んできた陽樹に驚いた空猫だったが、あっという間に縄で拘束され、リラックス効果で眠ってしまったようだ。


「ナイスだぜ! レイジ!」

「そっちもな! 陽樹!」


 ハイタッチすると、達成感が溢れてきた。四番も魔力量を少なすぎず多すぎずな量に調整出来ていた。俺は成長している。


 依頼主に預かっていたペットキャリーの中で眠らせると、パン屋で塩パンを購入してから、依頼主の元へと戻った。





「ありがとうございます! ネムちゃん……! 良かったぁ」

「見つけられてよかったぜ!」


 依頼主は顔が明るくなったように見える。


「でも、魔法生物はしっかりと管理しないとマジで危ないからな! お姉さんも気をつけるんだぜ!」

「はい、分かりました……! 本当にありがとうございます!」

「よし、じゃあなネムちゃん! これやるぜ!」


 塩パンを空猫に与えると、恐ろしい速度で貪っている。かわいい。


 家を出ると、余分に買っておいた塩パンを二人で頬張る。


「お、うまいなこれ塩味がちょうどいい……」

「だな! だからあそこの近くに居たんだろうな!」


 そんなことを話しながら帰るために駅へ向かっていると、スーツの男性が同じパン屋の袋を持って歩いている。


「お! お兄さんそのパン! 初めて食ってるんだけど美味いよな!」


 陽樹はいつもの如く話しかけに行った。誰にでもフレンドリーだなこいつは。


「……ああ、これかい? そうだね、僕もここのパンが好きなんだ。特に塩パンがね」

「僕はパンが好きでね。色々なパン屋を巡っていたんだが、ここのパンは特にいい。こうして仕事帰りについつい買ってしまうんだ」

「おお! そんなお兄さんのお墨付きってことは、やっぱ相当美味いんだな!」

「ああ、そういった目利きの自信はあるね」


 なんだか、よく話す人だな。悪い人ではなさそうだけど、こだわりが強そう。あと少し目が怖いかも?いや、失礼か。


「あ! ごめんな、お兄さん! 引き止めちまって、仕事帰りなんだよな!」

「いや、大丈夫だよ。このパンの良さを知っている人に悪い人はいないとも」

「へへ! ありがとな! それじゃあ!」


 そう言って、また駅へと歩き出す。穏やかな喋り方で、感じがいい人だったな。

 ただ、目つきなど、どことなく異様な雰囲気を感じたが、きっと気のせいだろう。


「今度事務所にあそこのパン買ってこうぜ! 色々あったし、リクエスト聞いてさ!」

「いいな、それ!」


 他愛のない会話をしつつ、俺たちは帰っていった……。



幸福追求行動



「やはり、この店は塩パンが美味しいね」


 スーツの男は部屋でパンを食べている。美味しさに鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気だ。


「なぁ、君もそう思うだろう?」

「――――!」


 スーツの男の目の前には口を塞がれ、椅子に拘束された別の男がいる。

 爪は剥がされ、痛々しい指先は見るに堪えない。


「ああ、すまない。口を塞がれていては食べることも、その食への感謝も、私と感想を語らうこともできないね」


 口の拘束を解かれると、縛られた男はすぐに懇願し始めた。


「もうやめてくれ! 俺とあんたに何かあったか! 俺はあんたなんか知らないし、そもそも恨まれるようなこともしていない!」


 必死の言葉に、スーツの男は少しも表情を変えない。


「それはそうだ、実際、君と僕にはなんの関連性もない」

「………………は?」

「君はただ、僕が人を殺したいと思った時に、そこにいた。それだけだからね」


 そう言ってスーツの男はナイフを取りだした。


「…………なんで、なんでだよ! うわぁぁぁぁ! もうやめてくれ! 助けて! な、なんでも、なんでもする!」

「なんでも……そうか、ならば」

「うぐぇ」


 縛られた男は心臓を突き刺される。なんども、なんども。

 男の断末魔、スーツの男はそれに一切興味を持っていないようだ。


 正確に、一突きで殺せる一撃だった。それにも関わらず、スーツの男は突き刺すのをやめない。ナイフを抜く度に溢れる血は、普通に生きていれば見ることは無いであろう、恐ろしい量だった。

 鮮血は床を満たしていく。


「僕の幸福のため、死んではくれないか?」


 男のスーツは元の色を覆い隠し、赤く染まっていた。

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