30話 買い物行こ!
あの花火のあと、しばらくして落ち着いたのか、いつも通りの感覚に戻った。あれが一体なんだったのか分からないが、なんとなく相談してはいけない気がして誰にも話せていない。俺自身について調べてみたら声や、気配の主について分かるだろうか……
調べるって言ってもどう調べればいいのか……しばらくは、周りに気をつけようとは思うが、思っているよりも、自分の存在にはなにか不自然なところがあるように感じる。
「どうしたの? 考え事?」
ふと声をかけられる。振り向くとシャスティだった。そうだ、こいつも事務所の部屋を借りたんだ。
共有スペースでテレビを見ている最中に考え事にふけってしまったため、テレビをつけているのに見ていない変なやつになってしまった。
「あー、まあな……ん、どっか出かけんの?」
見ればお出かけって感じの装いだ。にしても、麦わらに白のワンピースって、なんかどっかで見たような夏の少女だな。
「うん、普段着を買おうと思って、前まではアルトから支給服があったけど、『あ、契約終わったしぃ、それ、カモフラージュ用の備品だからぁ、没収ねぇ』とか言ってほとんど持ってかれちゃったの」
アルトの間延びした喋り方を極端に誇張して真似している。恨みのオーラが見えるな……
「ん、じゃあその服は?」
「あー……これは、アルトが『でも服なくなっちゃうか……あ、コスプレの一個から持ってっていいよぉ☆』とか言うから……」
容易に想像できた。なんかテンプレみたいだと思ったが、そういうことか。
「ちなみに、動画ではどんな役をッ! 痛った!」
最後まで言いきる前に腹を殴られた。腹って!普通に暴力だよ!
「……分かった。聞かない」
「それでよし」
めっちゃ気になるが、今は良しとしてやろう……アルトに聞いたら教えてくれるかな……あ、考えてることバレてそう。顔が、怖いです、分かりました聞きません。
「……あ、てかさ、暇なら付き合ってよ」
「え? 買い物?」
女子の買い物って凄い長いって聞くが……!俺自身の経験がないから、真実が分からない……!
「そう、荷物持ちね」
聞いたことあるやつだぁ……
「まあ、暇なのは確かだし、分かった」
でも気になるので着いていくことにした。
「よし、決まりね。じゃあ今すぐ用意して、行くよ!」
「急かすなよ、わかったから」
こうして二人でショッピングモールに向かうことになった。
◆
事務所のある街のすぐ隣、電車で十五分そこらで着く街にある大型ショッピングモール、近辺では類を見ない大きさでいつ行っても人で賑わっているらしい。俺とシャスティは、電車とバスを駆使して、そこへ辿り着いた。
「着いたー!」
「おー! でけぇ」
俺も初めて来るが、なかなかでかいもんだな。駐車場がまずでかい。昔はこんなとこに来るとは思わなかったが、女子と来ることになるとは……
「じゃあまずは服! の前にご飯!」
そういえば、もう昼か……
「いいな、何食べたい?」
腹いっぱい食えたらなんでもいいな。そう思っていると、シャスティは真剣な面持ちになる。昼ごはんだぞ、そんなに真剣に悩まなくてもいいんだぞ。
「……うーーーーん、あーーーーー」
「まぁ、ゆっくり決めていいぞ、なんなら今後また来ることもあるかもしれないし」
「そうはいってもなー、どれも美味しそうだし!」
永遠に悩んでそうだなこいつ。
「んー……じゃあここ!」
これって……シャスティが指したのは、事務所の近所にもあるチェーンのファストフード店だ。
「うちの近くにもある店だけど、いいのか?」
俺がそう言うと、シャスティは微笑んだ。
「決めらんなかった! また今度みんなで来て、その時に他の食べよ!」
思わず笑ってしまう。あんなに悩んでいたのに、みんなで次にくることを考えて、そのときの楽しみにまわしたのだ。彼女も便利屋のみんなの輪の仲に馴染めたのだ。
少し前の自分を見ているようで、おかしくなってしまった。
「なんで笑ってんの!」
「いや、まぁいいんじゃね? ほら行こうぜ」
やいやい言ってくるシャスティだったが、笑いながらすぐにあとをついてきた。
◆
店に入ると、なにやら見なれた金髪で緩めな雰囲気の店員がいる……
「げ……」
シャスティは誰がどう見ても嫌そうに、眉をゆがめ、口角は下がり、頬がピクピクとしている。
「おやぁ! デートかい! シャスティちゃん! レイジ君!」
「レイジ、別のとこいこう」
シャスティが手を引いて別の店に行こうと催促してくる。
「いや、俺の腹はもうハンバーガーの気分だ。もう覆すことは出来ない」
「なにそれ!」
シャスティが大声をだす。店の中だから静かにしてくれ!
「まぁまぁ、とりあえず注文はどうしますかぁ?」
今更取り繕ったって店員には見えないぞ。
「……仕方ない……私チーズバーガーセット」
別の店に行くことは諦めたようで、注文を決めたようだ。顔が死んでる……!
「じゃあ俺も同じので……」
「おやぁ! メニューまで同じとはラブラぶぇぇ!」
こいつ相手が言いきる前に殴る癖があんのか!カウンター越しにアルトが吹っ飛んでいった。さすがに店員殴ったらだめだろ!
「おい……あれでも店員だって、やばいぞ」
「あー……ごめん、抑えらんなかった」
こいつ感情に流されやすすぎる。理性のストッパーがゆるゆるか、そもそも存在しない!
「ちょっと! 何があったんですか!」
中から別の店員がやってきた、まずい。
「あー、えっと……」
何をどう説明しようかと考えたが、弁明できない……
だって殴っちゃったもん……
「……三鷹さん? また何かやらかしたんですか?」
また?まさかこのリエンド第一特務処理班班長は、他の客にもだる絡みしてたんじゃあるまいな。
「大丈夫問題ないさ。いやぁ、いつもの事だから気にしないでいいよぉ、痛くないし」
シャスティがピクリと動いた。痛くないって言葉に反応したのか?なんか丸く収まりそうなんだから、頼むからじっとしててくれ!
「そうではなくて……いい加減にしないと店長が怒髪天ですよ?」
「ごめんごめん、それだけは勘弁してぇ」
この人本当になんなんだ。同僚の女の人にも呆れられているようだし、どうしようもないな。
「すいません、お客様、代わりに私が対応するので許してはいただけないでしょうか」
「あー、大丈夫ですよ! えっとチーズバーガーセット二つでお願いします!」
シャスティはすっかり棘を抜かれたようで、いつもの調子に戻った。いや、あれもいつもの調子か?
てか周りの視線が痛い……シャスティは気にしてないみたいだが、今度は俺が出たくなってきた。
注文してしまったので、移動したいという願いは霧散していった。ハンバーガーを頬張るシャスティは、先程までのことはすっかり忘れたようで、夢中のままにかぶりついている。一口が小さいから何回も何回もハンバーガーに食らいついている。小動物みてぇだな。
「……何見てんの」
「いや、美味そうに食うなぁって」
「そう?」
実際マジで美味そうだ。凄い上品とかではなく、CMに採用されてそうな感じ。
「食った後はどこ行くんだ?」
「んー、まずはここかなー」
そう言ってスマホで見ているマップを指さす、洋服の店だ。
「で、次ここ、その次はここ」
……俺は荷物持ちのロボットだ。心は無であり、王女サマの荷物を絶対に運び切る。
そう心を切り替えて彼女の買い物に付き従うことにした。
◆
「わぁ! この服かわいいー!」
ショッピングを続けていて気づいたことがある。
「これ二つちょうだい!」
こいつには金のストッパーがない。そして、やたらと同じ物を二つ買うのだ。
個人で扱えるお金が大量にあるらしいが、湯水のように溶けていく金を見ていると、ゲッソリとしてくる。
「なんで二つも買うんだよ? 予備的な?」
「何言ってんの、いい物は二つ買うものでしょ?」
なるほどわからん、しかし楽しそうに買い物をするのでこれ以上ツッコむ必要はないな。
しかし、気になったものを全て買っていくため、どちらがいいかと迷うことがない、判断が早すぎる。
「ほら、次いこ」
そう言ってまた荷物を増やしてくる。両手じゃもう支えきれないぞ。
「って思ったけど、さすがに買いすぎたか。今日はこのくらいで」
「レイジは行きたいとこある?」
買いすぎという自覚があってよかった。これ以上は荷物に押し潰されるところだった。
「あー、ちょっと本屋寄っていいか?」
「いいけど……何買うの?」
「魔道の参考書だな」
所長の計らいで、夏休み明けにでも魔道学校へと編入できるらしい。必要な教科書は別にあるが、魔道を学ぶものはもっと幼い頃から研鑽を積んでいると聞いたし、つい最近魔道に触れ始めた俺は、少しでも多く勉強しなくてはならない。
「なーんか攻撃魔法だけ上手くできないから、いい感じの本ないかなーって」
毎日練習しているが、俺はどうも、魔力をそのまま放出する事が苦手なようだ。
「この国は魔道の専門書とかが普通に売ってるんだ。私のとこは結構厳しめだったのに」
「魔道国家っていうくらいだし、もっと全体に普及してると思ってたわ」
「実は、ルディアってリエンドと同じくらい魔法至上主義なんだよね……」
「あー、そういうこと」
まぁ、優れた魔法使いが王族として治めていると考えるとおかしくは無いだろう。王の権威を保つため、とか。
「魔法はそもそも使える人が少ないけど、興味がある人は割といるからな。魔道具に関しても機械と同じくらい普及してるっぽいからなー、それ専門の本も多いぞ」
魔術、機械双方が同じくらいこの国では当たり前の技術となっており、生活で使うような魔道具などは、割とどこでも見かける。機械と魔術どちらかに偏らないのが何故かは知らないが、魔道具も機械もあるという家は多い。
魔法に関してはしっかりと知られている訳ではなく、一般人には、魔術に似た何かという面識だ。
アルトみたいな裏があるのを知った今となっては、魔法職を求める会社などが多いのに、その知識があまり広まっていないのが、リエンドの工作なんじゃないかと思っている。魔術もあんまり普及させたくはなさそうだけど、流石にそこまで社会に与える力は無いのだろうか。
まぁ邪推でしかないけど。
「ふーん、そうなんだ……あ、着いたよ」
話していると、目的の本屋へと到着していた。
本屋で、魔道関連コーナーを見つけると、結構な数の本があった。大きめの本屋だからか、棚を何個も占領している。
「……魔法物質化理論……気になる、買ってみよ」
そう言ってシャスティは本を二冊手に取った。いや、本も二冊買うの?
「今度こそ流石に保存用だよな」
「どっちも平等に使うよ?」
マジでどういうこと?シャスティは、さも当然といった様子で首をかしげてくる、もういいや、そういうもんなんだな。
「なるほど……あ、これいいかも」
『攻撃魔法の変遷』という本を見つけた。ページをパラパラとめくると、攻撃魔法の歴史とともに、どう扱うかまとめられた章があった。教科書ほどではないかもしれないが、イメージしやすそうな図解がある。
他にも良さげな本をいくつか購入し、俺たちは帰宅した。




