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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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28話 追うもの探るもの / 黄昏時

追うもの探るもの



 今日は先輩の職場での質問会があったおかげで、仕事以外の時間(休憩)が多く取れたなぁ。なのに、今日に限ってあの人たちに会わなきゃいけないんだんだよねぇ。まったく、面倒くさいなぁ……


 憂鬱な気持ちを押し込んで、部屋へと入る。真っ白な部屋に、シャンデリアが光り輝いている。なんでこんな内装にしたんだか。

 長机を囲むようにある椅子には、数人が座っている。今日は空席が多いようだ。


「失礼します」

「遅いぞ、三鷹」


 がっしりとした体つきの中年……リエンド幹部の一人、木寺が、低い声で言う。


「すいませんねぇ、ゼダの件で色々あったもんで」

「天草の職場と協力したのだろう? 口外せぬよう、契約はしっかりとしてきたのだろうな?」


 やってないわけないでしょぉ?そんな当たり前のこと、などと言ったらボクの首から先は彼によって粉微塵になってしまうだろう。だから面倒くさいけど、ちゃんと答えてあげる。


「はい、しっかりと、特務班などの情報が外部に漏れることはないですよ」

「ふん、ならいい」


 ちゃんと言ってやればあの人は納得する。まだ扱いやすいし、マシな方の人だ。


「あと、悪魔式に使われた点の周辺住民、ラーメン屋での騒動に巻き込まれた残りの人にも今日記憶処理を行っておいた。まったく、もっと事前に対処していれば、こうも記憶処理に人員を割かずにすむんだがな?」


 うわぁだるぅ、うるさぁ……ラーメン屋といえば、質問式にしたせいでラーメン屋が圏外だった理由話し忘れたな。

 ボクが周辺機器ジャックしてたせいで、連絡取れなかったって知ったら先輩怒るだろうしなぁ……あ、そもそも監視してたのバレる方がやばいか。


「いやぁすいません。まぁ一旦ゼダの計画はストップしたんですし、いいじゃないですかぁ」

「まぁまぁ、そうですよ。三鷹くんも頑張ってるんですから、そう怒ってばっかりじゃ、渋くて素敵なお顔が台無しですよ?」


 そう言って木寺を宥めるのは近衛さん、綺麗な黒髪が特徴の品格ある女性だ。


「むぅ! そうか、そうだな。すまないな三鷹」

「いいですよぉ、ボクも事前に対処できなかったですし」


 まったくこの人弱みを握られているのかってくらい近衛さんに弱いなぁ。たしかに、おっとりとして誰にでもやさしいけど、この人も裏で何考えてるか分かりやしない。


「それよりも、三鷹アルト、時の一族の長との交渉はどうなっている?」


 荘厳ながら落ち着いた声で質問してきたのは、真っ白な髪に、長い髭をこしらえた老齢の男性だ。彼はこのリエンドのトップ、ボクが尊敬する少ない上司の一人だ。


神無(かんな)さん、その件についてですが、おそらくゼダがすでに時の一族と契約していたと思われます」

「ほう、なぜそう思う?」

「なぜ、契約したかまではわかっていませんが、ゼダが明らかに便利屋の先を読んだ行動をしています。生贄を空き地に移動させるために、便利屋の一人に魔術を忍ばせたようですが、彼らがラーメン屋に行くということ、そのあと空き地まで生贄を誘導することは、あまりに運頼みで、それまでの動きからは考えられません。不確定要素が多すぎます」


 色々な不明点について、便利屋の彼らはあまりに多くのことがあったせいで忘れていたようだ。


 どうやって空き地にマンイーターを呼び寄せたのか、その行動を先読みしたような計画は一体どうなっていたのか。

 先輩がそのあたりを知っているか確かめたかったのだが、こちらから質問するのは怪しすぎる。質問形式にしたのは失敗だったかなぁ。


「ゼダは未来視を借りた、ということだな。有り得なくは無い」


 神無さんは、ボクの考えには肯定的らしい。


「はい、ボクはそう考えています。そのうえ、時の一族は我々の提示したどの条件でも契約に応じなかったため、ゼダが何か制約のようなものを付け加えたのかもしれません」


 時の一族は魔道のどこの組織にもつかない一族……善悪関係なく契約を結べば力を貸すが、提示した報酬などによって一つの契約のみに絞ることも有り得なくは無い。困ったことに、ゼダと彼らが組んでいた場合だいぶこちらが不利になる。


「まだ、確信に至った訳ではないので、引き続き調べていきます」

「ひとまず悪魔式を潰せたことはでかい。人形もあらかた無効化したことで、しばらく奴も動きを制限されるはずだ。今のうちに時の一族については解決してくれると助かる」

「了解しました。神無さん」


 レイジ君の王核については……先輩の目的が分からない以上どっちにつくか決められないし、内緒にしちゃおう。そうしよう。


「では、失礼します」


 重圧で息苦しい部屋を後にする。今日はなんかもう、書類仕事とかしなくていいや。シャスティちゃんもいなくなっちゃって、レイジ君のスカウトも失敗しちゃったし、特務班は人手不足のままだ。


「……やっぱ、三人って少ないよねぇ……」


 いくら裏の組織とはいえ、もっと人手が欲しいものだ。そんなことを考えながら、家に帰って寝た。



黄昏時



 事務所の屋上、夕焼けも見えるその場所は、案外良い場所で、考え事をするにはうってつけのお気に入りの場所でもあった。

 秘密暴露会の後、そんな場所で天草はぼーっと町を眺めていた。



 波乱続きだった魔石事件、悪魔による被害を防ぎ、人形を破壊したことでゼダもしばらくは現界することはないだろう。


「……あー、ダメだダメだ」


 タバコを吸おうと手を伸ばしたが、あの子との約束を思い出してすぐにしまった。

 事件はひとまず解決したとはいえ、様々な問題も浮き彫りになっている。


 レイジ君の王核について、ゼダの口ぶりから禁忌であることは確実、他の王核が具体的にどんな力を持っているか分からない以上、まだ確定は出来ないが、おそらく()()()……彼のものだろう。

 シャスティについてもそうだ。ひとまず便利屋で保護することに成功したが、第一王女が他国に護衛なしでいられる事情とは一体なんなんだ。


「あー……そもそも、俺の絞り込んだ犯人だってあんまし意味なかったからなー」


 召喚魔術を扱える人間、そこに限って調べた結果、犯人としてかなり有力な人物が見つかったのだが……依頼主がゼダと判明する前、裏を取りに行くとなんと、全くの無関係が判明した。


 今回の事件解決はみんなの活躍によるところが大きい。

 便利屋所長として、ここまで大きな事件を子供たちに任せるしかなかった自分が嫌になる。


「そうだ、金森……」


 かつての後輩金森みなせ、アルトがシャスティを便利屋に潜り込ませる際、彼女に協力してもらい弟子としての嘘の身分を設定していたのだ。


 わざとかは知らないが、シャスティ・テリムという戸籍を作っておかなかったのは、金森なりのヒントのようなものだろうか。


 シャスティ君について今度話がある、とメッセージを送っておく。彼女は頼まれごとに弱い。

 そのためアルトに協力したのだろうが、元上司の職場にスパイのような者を送り込む手助け、それをしたのだから軽く小言くらい言わせて欲しい。


 あと、単純に最近会っていないから話したい。


 景色を眺め考えていると、声が聞こえてきた。


『あら、また考え事をしてるようね?』

「そうだな、また悩みが増えてしまったよ」

『ふふ、でも楽しそうよ?』

「うそ、そんな風に見えるかい?」


 左手の薬指、すでに何の後も残っていないその指を無意識に触っている。頭の中では幻聴が響いている。

 また、戻れなくなる。やめなくては、


「なんだか、久しぶりだな」

『ええ、もっと呼んでくれてもいいのよ?』

「バカを言うな」


 心地いい幻聴、しかしもう潮時だ。日が落ちる、家に帰ろう。

 今日の事務所の鍵当番を引き受けたことを思い出し、屋内へ続くドアへと向かう。


『もう終わり?』

「……ああ、終わりだ。もう寝ていてくれ」


 幻聴は止んだ。もう昔の俺ではない。

 私は便利屋の所長、天草勝己だ。


 日常へと戻ろう……。





 ベルディオの悪魔式による悪魔召喚……その一連の事件はひとまず収束した。しかしこれは、より大きな事件の序章にすぎない。

 その中心にレイジ、そして便利屋がいることは、まだ誰も知らない。

 第一章「始まり――魔道のある日常」[完]


 第二章「日常に潜む影」へ続く……ということで、どうも、立木です。これにて第一章が終わりとなりますが、ここまで読んでくださった方、大変感謝致します。


 第一章を投稿し終えたのもつかの間、7月から書いていた話を編集して投稿していましたが、使い切っちゃいました!


 しかし!第二章の大枠は考えており、なんなら書いてます!もし、先が気になる!という方がいましたら、どうか、気ままにお待ちください。ブックマークや感想で応援してもらえると狂喜乱舞します。


 ーー『オルトレイジ』はまだまだ続きます。立木ヌエ

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