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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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27話 しょちょーは元エリート

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てていると、あっという間に時間が過ぎていたようだ。美玲の、『そろそろ再開しましょうか』という一言でみんな席につき、最後の秘密を持つ人物……天草勝己へと視線が向けられる。


「では、所長、色々と答えてもらいましょうか」


「あぁ、まずは元リエンドってことから話そうかな」

「アルトと同じく、私も話せることは少ないが、私は元リエンド筆頭監査官兼、リエンド第一特務処理班、班長だった。監査官はリエンド内で、禁忌に触れたものなどが居ないかを調査、処罰する他、様々なことの監視をする役職だ」


「これ自体は隠された情報ではない、特務班については世界契約でこれ以上は話せない。正体をばらすことは別に大丈夫だなんて、この前アルトが口を滑らせた時に初めて知ったけどね」


「監査官はぁ、結構偉ーい役職なんですよぉ。ねえ先輩」

「んー……まぁ、な」

「すげぇ! かつきってマジエリートだって本当だったんだな!」


 魔道研究機関として、世界一とされるリエンド、その中で重要な役職をもっていた……この前は方向性の違いでやめたと言っていたけど、そんな人が辞めるほどの事とはなんなのだろう。


「私がリエンドをやめた理由だが、前にも言ったように方向性の違いだ。魔道研究機関として存在するリエンド、しかしその内部には多くの魔法至上主義者が溢れている。魔法を扱えないものを下にみるその態度にだんだん耐えられなくなってね」


 前に美玲が言っていた魔道秘匿派閥……それらは魔法を使えることに大きなプライドを持っている。限られた才能であることは確かだが、それが他の人を見下す理由にはならない。俺がもしリエンドに拾われたとして、あまり居心地が良さそうには見えないな。


「嫌になって飛び出してきたんだ。そこで便利屋を作ったってところかな」

「それで、色々と解決してくうちに、警察やらなんやらとのコネもできた。魔道学校とも昔、色々あったんだ」


 職を捨てるほどの差別があったとなると、リエンドはかなり凝り固まった組織のように感じる。アルトという問題児がどうして重要そうな特務班のトップなのか、全く分からない……


「気になってたことその一は解決したわ。悪魔式などの話もある程度アルトさんから聞いたし……所長の情報の元はリエンド時代のもののようだし、これ以上は詮索しないでおくわ」


 所長は美玲の言葉を聞いてから続ける。


「私の魔法について、あの後陽樹に聞かれたんだが、ある契約があってね、あまり詳しくは話せない。言えることがあるとすれば、私は今力の一部しか扱えず、制限された状態にあるということくらいかな」


 そういえば、所長が魔法を使う時、必ず限定解除という言葉に続けて、魔法ごとに別の名前を唱えていたな。前に呪文は古代魔法の特徴だって言っていたが、あれも古代魔法なのか?


「契約ねぇ」


 美玲は不服そうだが、所長の目に嘘は無いとみたのか、諦めたようだ。


「あと、これは私の話ではないが、ゼダの言っていたレイジ君の排除命令、これも謎だが……まるで情報がない。これ以上考えようがないね」

「私が話そうと思っていたことはこれくらいだね。他にアルトの話について補足することもできるが、なにかあるかい?」


 ……アルトの言っていた、王核とかいうものについては話してくれないか。なんとなく質問しても答えは帰ってこない気がして聞けそうにない。


「他に、今話すべき隠し事はないのよね?」


 美玲は腕を組んで所長を見つめる。所長は静かにああ、と頷いた。


「じゃあ質問、いい?」


 シャスティが小さく手を挙げる。そして月城に遮音の耳あてを付けた。


「アルトの話の時聞きそびれたけど、ゼダ以外の界域者って私たちの敵なの? そんなヤバいの隠し通せるの?」


 第九までいるという界域者、さっき協力者によって外界の情報を得たと言っていたし、全員が敵ではないと思うが、どうなのだろう。


「敵か味方か……そうだね、正直なところ彼らがどちらに着くかはメリット次第なんじゃないかな? 一人だけ確実に我々人類の味方と言えるのがいるが、他はどこか狂っているからね」

「隠し通せるのかという話だが、絶対に隠し通せるとは言いきれない。現在はゼダが大幅に目立ってしまっていることが問題になりそうだけどね」


 他に質問もなく、時間を置いた割にはあっさりと話は終わりそうだ。

 シャスティも答えを聞いて、月城から耳あてを外した。


「あなた自身については、契約とやらがあるそうだし、まだまだ秘密がありそうね」


 綾崎は今は納得しているようだが、まだ所長の全てが明らかになったとは思っていないようだ。


「いや、そうは言ってもね、綾崎、これでも結構話すのに悩んだんだよ」

「ふーん、そう」


 綾崎は素っ気ない返事をした。


「アタシはだいぶびっくりしたし、全然満足だよ! しょちょーって地味にっていうか、かなりやる人だったんだね!」

「月城……お前はいいやつだ。ボーナスあげたくなってきた」


 おい、ダメだろ職権乱用は。


「他のメンバーにも私の前職場については伝えておく。一応経歴が普通ではないことは分かっているからね」


 会は終わりそうだ。……あ、そういえば、


「そもそもなんで隠してたんですか?」


 混乱を防ぐためとかだろうか?


「あー、それはね、ケジメみたいに考えてたんだよね」

「ケジメ?」


「元々リエンドには魔道を研究して人の役に立てたいという考えで入ったんだ。魔道秘匿派閥についても、元々聞いてはいたがそこまで大したことは無いだろうと考えていたからね」

「でも、中に入ってみればすぐに分かるレベルの魔法至上主義でね。せっかく入ったんだから続けなきゃって思ってたんだけど、我慢行かなくなっちゃったんだよ」

「それで、魔法で人の役に立つにはどうしたらいいかなって考えた時に、便利屋を思いついたのさ」


 なんというか所長らしい。この人は、人のために何かをすることが、普通の人より遥かに多い。便利屋というものもその人となりから生まれたものだと知れたのが嬉しい。


「なるほど、いい考えですね」

「そう言って貰えると嬉しいよ、レイジ君」

「じゃあもう終わりでいいかなぁ? ボク、一応多忙なんですよねぇ」


 アルトが言う。かなり仕事が溜まっているのか、今すぐにでも帰りたいようだ。足がドアの方に向いている。


「ああ、そうだな、今日は解散かな」

「ええ! まだしょちょーの秘密暴露したいー!」


 月城がだだをこねる。ただ面白い秘密を明かすための会じゃないってニュアンスは伝わっていなかったのか?


「ゆら、それは今度にしなさい。私たちはもう今日だけで驚きばっかりなの。疲れたわ」

「みれがそういうなら……」


 月城の扱いなら美玲が一番だな。あいつ、美玲の言うことだけ素直に聞けるし。

 終わりになると聞くと、アルトは契約書を取りだした。


「はい、これ世界契約ね。世界契約は簡単には出来ない分、効力は絶対だからぁ、しっかり守ってね。内容はこの会でボクが話した内容に関することの口外禁止。先輩がリエンドの監査官だった事くらいまでは言えるけど、特務班とかのことは話せないからねぇ」

「破ろうとしても破れないってやつか!」


 陽樹はそう言って素早く名前を書いた。刻印液のペンで書かれた名前が赤く光る。これで契約完了ってことか。


「そうそう! これにはシャスティちゃんのみたいに小さい文字でなにか書いてあるとかはないから、安心してねぇ」

「私のやつやっぱり、悪意あったんじゃない!」


 シャスティがアルトの胸ぐらを掴むが、当の本人はまるで動じない。内容を確認した所長も大丈夫そうだと言っているので、所長以外のその場の全員が名前を書いた。


「私は元々口外できないから、意味ないし書かないぞ?」

「いいですよぉ、わかってますからぁ」


 全員が書き終わると、所長が立ち上がった。


「今度こそ解散ってことで、各自ゆっくり休むように!」


 そして質問の会も終わり、各々が自室や家に帰っていく。俺も自室に戻ってベッドに横になる。陽樹はランニングしに行くらしい。夕方なら日中よりも涼しいから最近走っているとのことだ。


 目をつぶって考える。アルトは俺には王核とやらがあると言っていた。所長にはやっぱり聞くべきだったか?でも、どんな理由で隠しているのか分からない。少し疑念はあるが、リエンドをやめて便利屋を作った理由、そこに嘘はなさそうだった、いい人ではあると信じられそうだ。今は話せないだけなんだ。様々な考えが浮かぶが、所長に関しては今はいいや。しばらくはあんな事件みたいなのも起きないだろうし、仕事と夏休み明けの学校について考えることにしよう。


 かなり疲れていたのか、すぐに眠気がやってきた。まずい、夕飯食べてないのに……。

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