25話 アルトさんに聞いてみよう(1/2)
「それで、次はどっちが白状するのかしら?」
「白状って! 別に罪を犯したわけじゃないんだけど! あと、足が痺れたので、せめて姿勢だけでも何とかならないかなーって、綾崎さん?」
「ボクは正直自分から話すというか聞かれたことに答える形の方がやりやすいですねぇ」
アルトは全く動じずに、自分のペースを保っている。所長の方はといえば、だいぶ限界そうで、足をぴくぴくさせている。これが現役との差というものなのだろうか。
「仕方ないわね、じゃあ椅子に拘束する形にしましょうか。目も隠した方がいいかしらね」
「え、私もしかして拷問されるの?」
今日の美玲はキレッキレである。いつにも増して所長にキツイ。別に止めやしないが、なんだか可哀想とも、ほんの少しだけ、心の隅では思う。
「まぁ、そんな冗談はさておき、所長の話は最後にまわしましょう。先にアルトさん、あなたへの質問から」
そう言って三人の拘束を解き、椅子に座らせる。
「おいしょ、それじゃあどうぞぉ」
美玲は顎に手を当て、考える素振りを見せた。そして、すぐに最初の質問を出す。
「ではまず、ゼダ・カルプスについて、彼の素性、界域者とは何か、なぜ貴方たちリエンドが彼を追うシャスティに協力したのかについて話してもらおうかしら」
「うーん、そうだねぇ、じゃあまずは界域者について話そうかな」
アルトが真剣な目をしている。それほどの重要情報なのだろう。
「界域者、リエンドでも知ってるものは限られるほどの、シークレット……この世界の外側にあるとされる異界、通称外界へ単独で移動することが出来る者の事を我々は界域者と呼ぶ」
「これに関しては、外界に移動できることに重点を置いた基準だからね、戦闘能力だとか、そういうのは関係ない。でも、外界に移動できる時点で只者じゃないからね。界域者ってなったら全員が化け物じみた魔道の才、そして戦闘力を持っていると考えてもいい」
規格外、ということか、この世界の別の世界に干渉できるほどの実力者……魔道が現象や物質に干渉するものであることから、その究極の一つってことか。それと……
「第六ってことは、やっぱ一から五もいるってことだよな?」
やはりここが気になった。一人しかいないのに第六なんてつけないだろう。しかしそうなると、あのような規格外の人間が複数存在するということにもなるのが恐ろしい。
「その通り、しかしここで問題なのが、あくまでもこの界域者はリエンドが知る者だけだということ。現状、第九まで確認しているが、それで全てとも限らない」
「敵対したら基本的に死ぬ。関わり合いにならないが吉、だね」
最低八人、ゼダに並びうる実力者がいる……その事実が恐ろしい。
「ヤベェやつがまだいるのか! すげぇな!」
「あんなのがまだいるのね……」
陽樹はもう話を受けいれたようで、好奇心のフェーズに入っている。一方美玲は対照的で、どこか恐れているような険しい表情だ。
「界域者については以上、次にゼダ個人についてね」
「彼は少なくとも千年前から存在する魔術師だ。人形を操ることに長けていて、界域者であることからもわかるように、過去何度も外界に渡っている。これは記録にもあるから間違いないね」
「千年!」
それは、人間と呼べるのか……?あの時見たゼダは老人どころか若い男の姿だったというのに?
「彼が未だ生き長らえている理由は不明だが、かつて、彼自身の魔術のために国を滅ぼしたという記録がある。特徴的にゼダで間違いない。あんな黒白頭他にいないしね」
「で、シャスティちゃんに協力した理由なんだけど、彼はリエンドによる粛清対象、つまり賞金首的存在なんだよね」
アルトは首を切るジェスチャーをしながら言った。
「リエンド自体が魔法至上主義的な面を持っていること、あと単純にリエンド自体と何回も大きな争いを起こしていたってことが原因でね。常にうちらは彼の命を狙ってるってわけ」
「で、しばらく音沙汰がなかったところに、エルディア国の話が舞い込んできた。つまり、元々我々もゼダを追う理由があったから、シャスティちゃんに協力したのさ」
リエンドはかなり大きい組織のはずだが、それと単騎で争いを起こせるゼダという人間があの時、どれ程の手加減をしていたのか分からない。魔道の奥行……際限ない世界像が広がっていくのを感じる。
「そうね、とりあえず納得したわ。みんなはどう?」
「ひとついいか!」
陽樹がまっすぐに手をあげて質問する。
「外界ってなんだ!」
それは俺も質問しようとしていた。外側の世界などと言われても、イメージがつかない。普通の召喚魔術では、そこからなにかを呼び寄せると聞いた気がする。
「そうね、確かに私も外界に関しては知らないことばかりね……ここ最近は非現実的な事が多すぎて、何となくで納得してしまっていたわ」
「あぁ、確かに前提が抜け落ちてしまっていたね、外界について、実の所我々も分かっていることは少ない。分かっていることと言えば、多くの魔法生物の存在、この世界に似ているが、違った魔法体系を持つといったまぁ、信じられないような世界だよ。魔法生物を引っ張り出してくるのが召喚魔術だね」
待てよ、召喚魔術は外界とこちらの世界を繋げている……ということは……
「じゃあ召喚魔術を使える人も界域者だったりするんですか?」
召喚魔術か外界から生物を呼び寄せるものだとは聞いていた。扱える人が少ないということは、界域者であっても不思議では無いんじゃないか。
「いや、そこは違うんだよねぇ、召喚魔術は対象と何かしらの縁を結んで呼び寄せるけど、界域者はちょっと隣町に行ってくるみたいな軽いノリで世界を越えてるからね」
「なるほど……! よくわかんねぇな!」
「質問者がそれで、どうするのよ……しかし、気になることばかりだけれど、今重要になるような事ではなさそうね」
俺も新しいことだらけで、頭の整理がつかないが、美玲がそういうなら頭の隅に残しておく程度でよさそうだ。
「じゃあ次の質問、どうぞぉ?」
ゼダの話が終わると、アルトはいつものふわっとした雰囲気に戻った。
「では、リエンド第一特務処理班、と言ったかしら、この詳細に関しては話すことはできるの?」
「無理だねぇ、首が飛んじゃうから」
即答だった。正体を明かすのはOKだけど、詳細は話せない……やっぱり裏の組織的なこともあって怪しさ全開だな。でも情報の線引きが分からないな。
「所属に関しては緊急であったこととぉ、先輩がいたってことでまぁいいかなぁって思ったからつい言っちゃったんだぁ」
「話せることって言ったら前に先輩が居たってことだけ、あ、先輩もこれ以上話せないから後で質問しても意味ないからねぇ」
秘密裏に動いてるような人の口の緩さじゃねぇ!うっかり機密とか漏らしてクビになりそうだな。
「そう、何となく予想はできていたし、いいわ、それじゃ次の質問」
「悪魔や、天使に関しては話すことはできるのかしら? その正体、あと天使を即興で悪魔式に便乗する形で召喚できた理由、あぁあと階位とやらについてもね」
「あぁ、彼らについてね、大方予想はついてるんじゃない? 悪魔も天使も外界に存在するものだ。階位というのは、リエンドがある界域者の協力を経た調査で得た、彼らの序列のことさぁ。あとは、彼らが向こうの生命の中でも異質なもののようだ、ということしか分からないけどねぇ」
「伝承にあることの大方はリエンドが伏せているが、事実なのは確かだねぇ、んで、事前に天使召喚があった事を知っていたからできると思ってたんだ。悪魔式自体も異質なプロセスがあるけど、結果的には外界から呼び寄せることをしているだけだからね、根本は同じってことさぁ」
「あと、彼らの知性に関しても、どの程度なものかは分からない。行動原理もさっき言ったみたいな、悪魔と天使は対立しているくらいのことしか分からないんだよねぇ」
世界一と言われる魔道研究機関でも解明出来ていないとなると、そこらの人間が真実を知るのは難しそうだ。
「そうね、とりあえずこれでいいかしら、他に質問ある人は?」
「俺質問あるんだけど、してもいいか?」
「うん、いいよぉ」
正直病院での件もあるし、答えてくれるか微妙なところだが、ゼダが言っていた言葉が気になった。
「ゼダは俺が魔法を使うふりをしたら、『禁忌』って言ったんだけど、一体なんなんだ? ベルディオの悪魔式も禁忌なんだろ?」
・階位……悪魔や、天使には階位と呼ばれる序列が存在する。どのような分類がされているかはリエンドによって決められているらしい。




