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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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24話 契約を破ってはいけません

「理由は……端的に言えば、現在のルディアは危機的状況にある。その原因のひとつがあのクソ野郎だからってわけ」

「ルディアの危機だって? 私の記憶だと、あの国は太古から続く、現代では珍しい魔道国家だ。いくらゼダと言っても、簡単にどうこうできるとは思えないが」


 所長によれば、ルディアは建国者、つまり初代王の血を引き継いできた由緒ある国家で、その王族が世界でも有数の魔法に秀でた才を持つことで有名らしい。


 俺も詳しく知らないが、一人の人間がそんな国に大幅なダメージを与えたのかと思うとゾッとした。他のみんなも信じられないといった顔だが、実際に国から出てきた王女が居ることで、事態を重く受け止めている。


「事件が始まったのは父様、先王が亡くなってから始まった」

「……あいつはどうやったか知らないけど、国の内政官に人形を潜り込ませていたんだ。そして、内側からどんどんと、毒が蝕むように国は崩れていった。文書の改ざん、国の重鎮の殺害、重要インフラの破壊……これらが、瞬く間に起こった。水道に大量の睡眠薬を流されたり、町一つを一晩の間に壊滅させられた時には、怒りで我を忘れてしまいそうだったわ」


「……今でも、あの町の人々の様子が目から離れない、あんなに幼い子供もいたというのに……!」


 少し声が震えている。険しい表情からも凄惨な事件が多発したのだと見てとれる。


「しまいには、あいつ自身が手紙を送ってきた。王族の血を継ぐものの人形を作りたい。素材を提供しろってね」


 シャスティの言葉の節々から怒りが滲み出ている。ゼダ・カルプス……!あいつは根本的に人間とわかり合えないようだ。本人がこの世の生物は素材でしかないと言っていたのは本心だった!


 ゼダは、魔法に秀でた王族を素材に人形を作る、そのために、一国を敵に回したのだ。やはり、俺には到底理解できないし許せない、何とかしたいと、そう思う。しかし、そうは言っても、ただの便利屋である俺にできることなんてあるのだろうか。ただの事件と思っていた出来事が予想以上に大きな事柄になっているのを感じる。


「あぁ、でもそんな心配しないで。危機とは言ったけど、うちには優秀な魔道士が多くいるからね、被害は出たけど、ゼダの人形自体はもう討伐済み。王位について不在だったのもゼダどうこうよりも前からだったし、単純に色んな対応に追われているって言った方が正しいかも、私にもう継承権はないしね」

「でもまぁ、あいつには散々国をぶっ壊された挙句、人形と対面したことだってあったのに、顔すら覚えてないんだからね。絶対にぶっ殺すわ」


「好き勝手やられたからやり返すってことね……なるほど、じゃあ、あなたはどうやってゼダを追うことになったのかしら、仮にも王女なのでしょう?」


 美玲の質問に対して、さっきとは打って変わってシャスティはどこか恥ずかしそうに目が泳ぎ始める。


「……えっと、あの、こっそり……」


 声が小さかったが、こっそりって言ったか?え、それじゃ、まさか……


「あなた……国をほったらかして出てきたってこと!?」

「いや、そうなんだけど! そこはアルトが何とかしてくれるって言ったから!」

「そこで、アルトさんが出てくるのね」

「そうだよぉ、権限使ってちょちょいとねぇ」


 国の王女が外国に人探しに行くのを補助できる程のアルトの立場に改めて、リエンドの影響力の高さを思い知らされる。そのうえ、その上司だったという所長も底が知れなくなっていく。


「私は彼に協力、特務班としてゼダの対処に参加することと引き換えにして国を出たの。その協力の内容の一つが貴方たち、便利屋への潜入、私の素性は混乱を招くから隠すことも条件に契約を結んだってわけ」


 そういうことだったのか。確かに突然、自分は王女だなんて話を聞いてもまともにとりあうとは思えない。


「つまり、君はゼダを追うためにアルトと契約を結んだ。そして便利屋に協力することでゼダに近づこうとしていたってことかい?」


 所長が補足する。


「うん、で、契約内容に関してはこの通り、代償に関してはゆるゆるだったけど」

「そういやさ、契約ってなんだっけ? 俺まだ名前しか知らないんだけど」


 まだ、俺は魔道の授業を実際に受けたわけじゃない。美玲に基礎知識を叩き込まれている最中だが、契約はそういうものがある程度にしか知らないのだ。


「あぁ、そうね、契約についてはまだやっていなかったわね」

「契約とは人同士に条件を付与する手段ね。そもそもそれを破れないようにする世界契約、破っても構わないけれど、相応の代償が伴う個人契約があるわ」

「世界契約は義務、個人契約は任意みたいなもんか」

「そうね、個人契約の場合、代償を受けるけれど、条件を破ること自体はできるわ」


 美玲はゼダが言っていた契約がどちらかは、まだ分からないけどね、とつけ足した。


「私とアルトのは個人契約だったから、ちょっとボロが出ても平気だったってこと……そこまで、重い代償、でもなかった、し」

「ゼダを殺すためなら、どんな契約だってしてやるわ」


 その瞳には強い執念が見えた。彼女の今までの行動の芯はゼダ経の怒りなんだ。


「そうそう、まぁ、ボクとの契約は特に難しい代償でもないけどねぇ」


 アルトは普段以上にニマニマしている。


 契約か……なんか、引っかかるというか、覚えがある気もする……俺はどこかで契約を結んだことがある……?契約という言葉にどこか懐かしさを感じるが……どうも思い出せないな。

 しかし、彼女の背負ってきたものの重さというものが少しだけ理解できた気がする。あとは……


「契約についてはわかったけど、シャスティの代償ってなんだったんだ? 特に難しい訳でもない代償ってなに?」

「あー、まぁ気になるよね、えっと、その……これも言わなきゃだめ?」


 これまでで一番歯切れが悪い。そこまでの事じゃないと言っていたが、もしかして、重い代償を支払っていたんじゃ……シャスティは言いにくそうに口をつぐんでいる。目を伏せ、感情が見えない。部屋の空気はだんだんと重くなっていく。静けさで耳鳴りがする。


 誰もが口を開かない。美玲や所長はともかく、陽樹やあの月城ですら、誰も何も言わなかった。

 シーンとみんなが静まり返った中、男が口を開き、その長い沈黙を破った。男のニヤニヤした笑顔が割増でウザく見える。


「………………コスプレさぁ」


 さっきまでの空気をぶち壊すように、アルトは自信満々に答えた。


「はい?」


 コスプレ……?聞き間違い?


「ボクは彼女が契約を破ったら、その都度かわいいコスプレをノリノリで動画に残すという代償をつけたのさぁ! あ、エッチなのじゃないから安心してね」


 またもや誰もが沈黙する。しかし、約一名、みるみるうちに顔が赤くなっている。体も震え始めた。


「ッッッ! あああああ! もうやめて! 思い出させないで!」


 シャスティは赤面した顔を隠すように地面に項垂れている。


「いやぁ、メイドとか可愛かったよぉ、あ、でも個人的にはもっとみんなの前で素を出してもらってぇ、契約ビリビリにぶちやぶっちゃうレベルまでいってもらってもよかったんだよぉ? もっと色んな衣装で動画撮れたし」

「は? 代償ってそんな変なもんでもいいのかよ!」


 思わず口に出た。本当に意味わかんないこの人!


「最低……それにしても、契約内容をそこまで自由にできるなんて、無駄な事に実力を発揮しているのが気に食わないわ……」


 美玲はゴミを見る目でアルトを見ている。


「おい! ちなみにメイド以外にどんなコスプレをさせられたんだ……!」

「うるさい稲垣! しゃべんな! バカ!」

「いや、気になるじゃんか! あとバカ言うな!」

「なーんか、シャスたんが、すっごい気になるくらい顔真っ赤なんですけど! なんも聞こえなくてつまんないー!」

「うぅ、代償なら払うって言ったけどさぁ、なんで、なんでコスプレなのよぉ、あと足痺れたぁ」


 月城が、この会話の内容を聞いていないのは不幸中の幸いか!てかうるせえ!


「えー、コスプレがどんなだったかは置いておいて、私が言うのもなんだが、次の話に進まないかい?」


 所長は縄で縛られ、正座しながら、申し訳なさそうな顔で荒れた場を収めた。

 ……それにしてもほんと情けない姿ですね所長、口には出さないけど。


・契約……様々な条件の元に誓いを立てることが出来る儀式的行為。

世界契約は決して破ることは出来ず、個人契約は破ることは可能だが、契約時に設定した代償が発生する。契約用の特殊な用紙を、用いたものの他に、口頭で行うことなどもできる。契約書の場合、用紙の破壊で契約を強制的に破棄することは可能だが、破壊できた事例はない。

・シャスティの代償……契約内での禁止事項に、正体の隠蔽があった。素の状態が出てしまったり、相手に勘づかれるような行動をすると、代償が伴ってしまう。アルトの謎技術によって代償はコスプレなりきり動画の撮影となった。


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