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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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23話 正体

「じゃあ……私が話さなくてはいけないこと、ですね」

「まず、分かりきっていると思うんですけど、私はシャスティ・テリムではありません」

「私の本当の名前は、シャスティ・ルディアス」


 ルディアスという名を聞いて所長と美玲が反応した。


「ルディア王国第一王女……です」


 みんな一瞬理解するのに戸惑ったようで、少し間が空いた。テーブルの上のコップから、静かに水滴が流れ落ちる。


「お、王女? マジで!?」


 思わず声に出た。王族ってなんか、すげぇ偉くて気品に溢れた雲の上の存在って思ってたけど、身近にいたなんて!

 てか本当にいるんだ、言われても実感湧かねぇ!


「……あなた、王族だったの!? 第一王女!?」


 声がでかい。美玲は普段の冷静さの欠片も感じられない程に動揺しているようだ。


「あー、もう! そんな身分の人間がなんでこんな便利屋に来るのよ!」


 美玲はリミットオーバーして、目を見開いている。所長が元リエンド所属って聞いた時と同じ感じだ。

 しかし、王女が便利屋で一緒に任務をこなしていたと考えると、なんか自分もすごいやつになった気がする。


「王女って言うのは分かったけどよ、ルディアってどこにあんだ? 俺国の位置とか全然知らねぇんだよな!」


 驚いてはいたものの、陽樹は割といつも通りだ。元々違和感を強く感じていたようだし、意外ではなかったようだ。野生の勘的な感じか?そういう所を見抜くのが得意だからな、あいつ。


「ここからは西に進んだ方にあります。大陸の端の方ですね」


 地理とか苦手だから、あんましピンと来ないな……西ってなんか国があるとこと、危険地帯があるんだっけ……


「えっと、ルディアス王女殿下? 第一王女と仰いましたが、個人でこのように動き回っていてもいいんでしょうか?」

「シャスティと、名前で呼んでもらって結構です。所長さん。その件に関しても、事情と重なる部分があるので、そちらの話の際に」


 王が不在の国の第一王女?王政とか分からないけど、どう考えてもヤバい。そう思うと少し腹が痛くなってきた。


「そして、この喋り方ですが……これも、嘘。正体を隠すには性格も隠せって、この間抜け面が言うから……」

「間抜け面はないんじゃないかなぁ」


 アルトは意外にも少し落ち込んだ様子だ。にしても、王女っていうのに何とも砕けた感じの喋り方をしている。間抜け面だなんて、前のイメージじゃどう考えても出てこない言葉だ。

 なんというか、王女には見えない……本当に王女なんだよな?


「しかもさぁシャスティちゃん、君ぃ、素を隠しきれてなかったよねぇ? わりと、自信満々なとことか、感情一番で突っ走ったりしてなかったぁ?」

「……うるさいな、わかってるって」


 まぁ、違和感はあったな。てか王女に対してもこのアルトとかいう人は態度が変わらない。リエンドの裏に立つ者はこういうものなのだろうか。所長は普通に驚いてたっぽいけど。


「でも気にしなくてもいいよぉ? ボクも元々君が、隠しきれるとは思っていなかったし、先輩にはいずれバレるだろうと思ってたからねぇ」

「は、はあ!? 最初から信用してなかったってこと!? 契約までさせたのに!」


 また契約……まだ名前程度しか知らないが、何かの強制力を持つ縛りのようなものなんだろうか。


「……シャスティ、あなたが信用されていたかは置いておいて、どんな目的でうちに来たのか。それを説明してくれないかしら」


 先程の動揺はどこへやら、冷静さを取り戻した美玲が、脱線した話を元の位置に戻す。


「わかった。あまり話したくはないけど、貴方たちには話しておくべきだと思うから……ただ、月城さん、だっけ、王族であることは隠さなくて良くなったからいいけど、目的は貴方には話したくないわ」

「ま、そーだね、アタシが今回聞きたいのはしょちょーの秘密だけだしー……耳でも塞いどく?」


 月城はそう言って、耳を塞ぐジェスチャーをする。本当にこいつ所長の秘密とやらが、おもしろいと思っただけで行動してるのか?


「じゃあそうして。アルト、やって」

「はいはいー、美玲ちゃん、これ」


 そう言ってアルトは拘束された状態でなにか術式を刻印した耳あてのようなものを作り出した。魔法があるのにこう言うのも変だが、マジックを見せられた気分だ。

 音もなく、アルトの手に突然耳あてが現れてびっくりした。魔術の起こりのようなものが一切見えなかった。


「……なるほど、確かにこれなら遮音性能は十分そうね」


 美玲はそう言って月城の耳に装着する。


「え! すご! なんも聞こえないんだが! 陽樹のバーカ!」

「なんで俺にバカって言うんだ! 聞こえないのはお前だろ!」

「あはは! なーんも聞こえなーい!」


 月城は手を叩いて笑っている。こいつはマジでいつになってもブレないな……空気が読めないというか、読んだ上で無視しているというか、こいつならこう言っても仕方ないと思わされてしまう。


「聞こえなくなったみたいだし、私の目的について……それはゼダを殺す事」


 予想はできていたことだが、彼女はあの白黒頭の男に因縁があるようだ。シャスティは、ゆっくりと目的を話し始めた。

超有名作品とシャスティの国名が被っていることに気づき変更しました……。

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