22話 余韻
夜が明け、病院を出るとすぐ、事務所へ向かう。相変わらず夏の暑さはしんどいが、足取りは軽かった。
気がつけば事務所についている。所長に伝えられた時間よりも早くついてしまった……そうだ、昨日の事件、ニュースにでもなっているんじゃないか?そう思って、共有スペースのテレビのリモコンを探す。机の下に落ちている、だれだ、ちゃんと片付けなかったの……まぁ今はいい、電源ボタンを押して、チャンネルをニュースに切替える。
「……どこも、やってない?」
あれだけの事があったのにどこの局も報道していない。今度はスマホを取り出し、ネットニュースを見る。
どう検索しようと、昨日の駅の騒動は出てこなかった。アルトがなにか手を回したのだろうが、ここまで綺麗に痕跡を消せるものなのか。
「なーにやってーんの?」
後ろから声をかけられる。この声は……
「月城か……」
彼女は便利屋メンバーの一人、月城ゆら。
金髪にウルフカットのうるさいやつだ。
なんというか、こいつ苦手なんだよな、軽い感じで話してくるけどなんか、陽樹みたいに誰でも態度が変わらないって感じじゃないんだよな。
こいつは俺にだけダル絡みしてくる。この前なんか『ねぇねぇ! レイちゃん(俺の事)は好きな子とかいるのー?』だの、突然聞いてきてしつこいのなんの、根も葉もない話が突然湧いてでくるもんだからこいつには困ったもんだ。
同年代だからなのか知らないが、変な絡みがめんどい!
「あー! もしかして、なんか所長が追ってた事件のニュース探してるー? すごいよねー! アタシも詳細知りたいのに、なーんも情報ないの!」
後で本人に聞けばいいんじゃないか?と言いそうになったが、とどまった。悪魔式、ゼダ、リエンドといった情報……これらは結構な機密だ。変に話すことは出来ない。
「そうそう! それで、しょちょーのおもしろ秘密暴露会やるってホント!?」
「おもしろ秘密暴露会……?」
今日の話がそんなふうに言われているのか。一体誰が情報をもらした……いや、何となくわかった。
「一応聞くけど、誰がそんなことを?」
「ようきー!」
「だろうな」
あいつマジで、隠し事ができないのか。
「それの内容、多分お前には教えらんないぞ」
「えー! なんでぇー!」
「黙秘する。ちなみに別に所長の秘密を暴露するための会ではないぞ」
「なんだとー! いいから話せよー!」
「めんどいし、まず無理」
ソファの後ろから体をグラグラと揺らしてくる。そんなことされてもマジで話せないんだって!美玲に今回の件は他言するなって言われてたし、陽樹は後でガチめに叱られるだろう。
「マジで話せないんだよ、あきらめろ」
「ちぇー、まぁそれなら仕方ないかー……あ、しょちょーのおもしろーい秘密とか暴露しといて、後で聞くから。それならいいっしょ?」
「……検討しといてやる」
絶対ね!と言い残し、月城は共有スペースから出ていった。あいつもこのビルに住んでるし、部屋に帰ったんだろう。
すると、入れ替わるように美玲がやってきた。
「あら、もう来てたの」
「おう、てか今、会議室から出てきたけど準備でもしてたん?」
「そうね……準備、と言えば準備ね」
言葉に含みがあるような……?とりあえず準備は出来たらしいので、会議室の方へと向かった。しかしなんだか変な予感がする。
◆
「……なんですか? これ」
異様な光景だ。部屋の奥、ホワイトボードがあるあたり、その下で正座のシャスティ、そして横には正座……だけでなく、縄で縛られている所長とアルトがいた。
「……こんにちはレイジさん……」
「……やぁ、レイジ君」
「あ、レイジ君、元気そうでよかったねぇ」
アルトだけは全く動じていないというか、なんで普段通りなんですかね。
「何って、罰に決まっているでしょう? 大事な事を隠していたことや、対応策を出せる程の実力があるにもかかわらず、ギリギリまで姿を現さなかったりしたんだから、当然でしょ」
アルト以外はしょぼくれている。いや、まあ、美玲の言い分も分からなくもないが、なんというか、手心とかないんか。
「陽樹が遅いわね……」
そういえば、こういったイベントに一番乗り気になるであろう、あの陽樹が、今回に限ってまだ来ていない。
「わり! 遅れたー!」
話をすれば陽樹が入ってきた。
「ちょっと道に迷ってるばあちゃんが居たからさ、案内してたら遅れた!」
主人公かよ。こいつはいつでも善意の塊のようなやつだ。急いで来たようで、汗でぐっしょりだ。
「まぁいいわ、じゃあ、始めましょうか」
「題して! しょちょーの秘密を暴露しちゃおうの会ー!」
「そんな名前をつけた覚えはな……ゆら?」
月城が会議室にいる。いつの間に!
美玲はツッコミ終わる前に思考停止した。それもそうだ、こいつどうやって入ってきた。
「月城! お前、教えらんないって言ったろ!」
月城はとぼけた顔をしている。こいつ……!
「えぇー、だって面白そうだったしー? それにぃ、陽樹が話してくれたよ? そこのおにーさんってー、リエンドのすごい人なんでしょ? あとあと! アタシ今回任務頑張ったし! ごほーび的なの! ほしい!」
陽樹!口が軽すぎるぞ!
「あ、わりぃ、なんか気づいたら言っちまってたっぽいな!」
「機密事項だって言ったでしょう! バカ!」
「ご、ごめんって! こいつの前じゃ隠し事できねぇんだよ!」
陽樹は基本隠し事を出来ないだろう……口を物理的に封じておくべきだった。
しかし、どうしたものか、アルトは特に外部に正体がバレたらマズそうな気もするが、
「んー、まぁいいんじゃなぁい?」
どうなってんだこの人。
「どっちみち君たちはこれから口外封じの契約をする必要があるしね。一人くらいなら、なんとかなるし、他にも手段はあるし、まぁいいでしょぉ」
「それに……君、陽樹君にくっついて入ってきたでしょ。いやぁ、すごい技量だねぇ、その技術と度胸に免じてあげようと思ってね」
「……ふぅん、最初はあえて見逃したってこと? ちょーっと、くやしいけど、話聞けるんならよし!」
こいつら雑すぎる。相性が良いんだか、悪いんだか……
「……とりあえず、隠していたことについて話してもらってもいいかしら?」
「まずは、シャスティから」
「……はい」
その前に疑問に思ったことがある。
「なぁ、なんでシャスティだけ、縄がないんだ?」
「そうね、なんか見ていると可哀想だというのと、どうせこの悪い大人がなにかやらかしているからよ」
美玲はそう言って大人二人を睨みつけた。
「えぇ? ボク別に悪いことはしてないよぉ? 決めつけはよくないなぁ」
「え、私も悪い大人扱いなの?」
大人たちが口々に言うのを美玲は全て無視した。
「うぅ、綾崎さん……!」
「いいから話しなさい」
こうして、彼女は自分のついた嘘について話し始めた。




