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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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21話 戻る平穏

 目を覚ます。この天井は前にも見た事がある。確か、マンイーターに襲われたあとに運び込まれた病院だ。意識がハッキリしてきた……しかし違和感がある。


「……目…………」


 視界に異常がない。左目のあたりを触ってみる。なにも変わらない。自分の目がしっかりと付いている。貫かれたように思ったが、そうではなかったのだろうか。


「目を覚ましたねぇ、よかったよかった」


 間延びした喋り方の男が言う。


「……アルトさん……?」

「そぉ、アルトさん。ギリギリ防御の魔法が間に合って良かった。凝縮された魔力の衝撃で、脳が揺れたっぽいねぇ」


 脳震とうを起こしたってことか、なんにせよ目がついてて良かった……


「そうですか……って! それより、皆は! 天使は!」


 そうだ、天使の消失はこの目で見ていない……!俺を庇ったみんなは、周りへの被害は、一体どうなっている。


「大丈夫、君への一撃が最後の力だったらしくてね、あの後すぐにいなくなったよ。みんなも特に怪我もない。一般人もリエンドが治療、記憶処理を行った」

「良かった……!」


 力が抜けていく。起き上がった体がばたりとベットに倒れ込む。


「それで、ちょうどよく起きてくれたし、話がしたいんだけどぉ、いいかな?」


 話……?一体なにを?アルトはこれまでと違って真剣な顔をしている。少し声音が低い。


「今のうちに君の魔法……その源泉、王核について、話しておかなくちゃね。おそらく先輩はそのことを隠しているだろうし」


 王……核、ゼダが言っていたような気がする。


「実は君の魔法はボクもちょーっと監視してたんだ。先輩は多分、隠しておきたいんだろうけど、君の力だからね、知っておくべきだ。あと、ウチへのスカウトも兼ねたサービス!」

「スカウト……?」

「そう、とりあえず王核について説明してもいーかな? 他の人が来たら面倒だ」


 アルトは椅子に座ってから語り始めた。


「王核とは、始まりの七人と呼ばれる、魔道の祖……神と崇められることもある伝説上の人物の遺物だ。現在確認されているものは三つ、魔法士トリト、神人ギルシュ、結界師シルバの三人のもので、彼らの魔力核のことを王核と呼ぶ」


 魔力核は魔法使いの心臓的なものだ。心臓近くに位置する魔力器官で、魔力の体内循環、魔力回路の構築などを担う重要器官だ。


「君のが残りの誰のものか、確定はできないが、君の使った触れたものを灰にする異質な魔法、それは王核に宿る力だろう」

「異質な魔法、君の魔力量、これは王核だとみて間違いないね。魔力量だけなら違うかもしれないけど、あの魔法はどう考えても普通じゃない」


 魔眼があると言っていたから後で俺の魔法について聞いてみようとは思っていたが、現実感のない話だと思った。


 本当に俺に王核とやらがあるとして、なぜ、俺がそんな得体の知れないものを持っているんだろう。これまでの人生では特に変わったこともなく、魔道にも関わって来なかったはずだ。それに、所長はなぜ隠しているのだろう。頭が混乱する。


「王核を持っていると、外部にバレたらそりゃあもう大変だからね。この話は口外しちゃだめだよ?」


 とりあえず大変になるようだし、それを避けたかったのかもしれない。あまり疑いたくもないし、今はそういうことにしておこう。

 話を終えると、アルトは普段通りのゆるい雰囲気へと戻った。


「で、スカウトっていうのはぁ……」

「結構です」

「え? うそぉ、即答? 話だけでもきかなーい?」

「話はいいですけど、俺の居場所は便利屋です、そこは変わりません」


 リエンドの特務班……そこに勧誘しようとしているのだろう。正直に言ってやだ。明らかに怪しいし、便利屋の方がいい。


「そっかー、じゃあいいやぁ、人員補充したかったけどぉ」

「ただ、俺の体について、話してくれてありがとうございます」


 アルトは感謝されると思っていなかったのか、目を見開いている。しかし、すぐにいつもの顔にもどった。


「いいよ、知っておくべきだって言ったでしょ? ボク自身、自分について分からないことだらけの時期があったからね、同じようなもののよしみさ」


 そう言うと、アルトは立ち上がる。


「んじゃあ、そろそろ先輩達も来るだろうし、ボクはこれで。後でまた会うだろうけど、ボクが来ていたことは内緒ね」

「あと、先輩は良い人だけど、信用しすぎるなよぉ? あの人はあれで案外隠し事が多いからねぇ」


 アルトは窓を開け、飛び出して行った。すぐに外を見たが、その姿はもうどこにもなかった。





「……! レイジ君! 良かった……!」


 アルトが出てすぐ、所長達がドアを開けて入ってきた。

 所長は俺の様子を見てすぐに普段の様子に戻った。それと、今回は美玲に叱られなかった。互いにできることをやりきったからだろうか、なんにせよ、この前のように負い目を感じている様子もないから安心した。

 陽樹は変わらずハイテンションだったお土産とか言ってお菓子類を大量に買い込んできたらしい、嬉しいが、お見舞いとしてはどうなのか。

 そして……


「……良かったです。何ともなさそうで……」


 シャスティがどうかと言えば、一番重症に見える。特務班の基地に案内するときから、ずっとどこか曇った表情だ。後で話すと言っていた真実に関係あるのだろうが、なんとも痛々しい。


「気にすんなよ、シャスティ。……それよりも所長、なんで俺は攻撃されたんですか?」


 今一番の疑問を所長にぶつける。制御できないとは聞いていたが、悪魔がいなくなった途端に召喚者を攻撃するとは、どういうことなのか。


「おそらく、魔力量だな。悪魔がいればそちらに攻撃が集中するが、悪魔がいない場合、天使は魔力量の多いものから無差別に攻撃するのだろう。天使伝承の一つにはそう記されていた」


 悪魔だの天使だの言ってはいるが、イメージとは程遠く、どちらも人に悪影響を及ぼすため、邪悪な存在に思える。災害の一種のようだ。


「それはそれとして、今回の事件は一旦解決ということになった。ゼダならば、魔石による人間のマンイーター化も可能であることが分かったし、そのゼダに関しても、依代の人形を壊したことでしばらく現界出来ないはずだからね、依頼主も今回の件でマンイーター研究に予算が出たようだ」

「ということで、質問会、黙っていたことを話そうの会を事務所で行おうと思う! アルトもしっかり来させるからな! もちろん、私も隠していたことがあるし、正直に話そう」


 謎が多すぎて何が知りたかったのかも完璧には思い出せない気がするが……シャスティに関して、それだけは何となく知っておきたい。


「体に異常ないし、医者に今日は大事をとって入院してもらうが、明日以降退院しても構わないとの許可も得た! 前より成長したんじゃないか!」


 ラーメン屋のマンイーターに襲われた時は三日寝てたんだっけ……そう考えると一日寝てない時点で成長とも言えるか。あの異質な魔法を使った訳じゃないから比較できるとも言えないが。


「そうね、今回は無茶した訳でもない……ことも無いけれど、作戦のうちだったもの。よくやったと思うわ」


 正直美玲にはもっと怒られると思っていたが、素直に褒められて少し照れくさい。


「まぁ今日は安静にな! 明日は事務所で質問攻めの会兼無事に事件解決しておめでとうの会だあ!」


 病院内でうるさいこいつ!すかさず美玲にげんこつを食らっている。

 でも、このワチャワチャ感がいいんだよな…………。

・始まりの七人……はるか昔に存在したとされる魔道の祖、その七人伝承の内容は現代魔道で再現できないものも多く、創作の神話と見る声もあるが、魔道界の一部の人間のみが知る、王核という遺物が存在することからも、確実な存在であるといえる。

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