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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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17話 秘策

 俺だけ追い出された!俺が外に出たあと、屋敷が動き出し、地面から壁が生えてきた。無機質な壁が、俺を除いて覆い隠すような形へと変貌した。まずい、所長の作戦がこのままでは上手くいかない。

 俺が選ばれた理由を思い出す。所長はこう言っていた。


「君は正直戦闘に参加できる程の実力をまだ見に付けていない。しかし、今回ある秘策があってね」


 そう言うと、所長は球状の物を渡してきた。


「これは、空間中の魔力に干渉しジャミングすることが出来る魔道具でね。発動し、投げることで周辺の術式含めて無効化できる……依頼主が黒幕かは分からないが、確実に厄介な相手だ。そして悪魔式の完成を狙っているということは、魔術師だろう。戦闘になったらこれを使うんだ」

「空き地で綾崎に魔道具を投げて渡したというのを聞いてね……君のコントロールがいいなら今回はこの魔道具を使おうと思ったんだ……それに、君の異質な魔法……相手はそれについて知っているかもしれない。そうすると相手は君を一番警戒する。そこで、魔法ではなく魔道具をぶん投げる! どうだい。いい作戦じゃないか?」


 俺によって、相手の無力化の難易度が変わる。重要な役割だ。幸い投げることには自信がある。


「本当は、君を戦闘に参加させたくはない。しかし、依頼解決したのが君な以上、まず屋敷の中に入らなくてはならない。戦闘になった場合、巻き込まれることは必然だ」

「それに、なんとなくだが、君は自分のできることを全力でやろうとするところがある。止めても聞かないだろう」


 所長は俺のことを見透かしたような目で言っていた。実際何もかもお見通しなのかもしれない。力がなくとも役に立ちたいという俺の気持ちなんて筒抜けだったのかも。

 そんな感じで重要な魔道具を持っているのだが、如何せん中に入れそうにない。どうしたものか……


 すると、辺りから人形が現れる。地面からはい出るもの、壁からヌルッと出てくるものなど、ざっと二十体。戦闘できる実力は今の俺にはない。まずい……!


「やっぱり、君のことを一番に警戒しているようだね。あの魔術師は」


 抜けてるようで頼りになりそうな、そんな印象のあるこの声は……


「所長!」


 すたすたと後ろから所長が歩いてくる。しかし、俺は屋敷から追い出されたとはいえ、さっき確認した時は敷地内外の出入りは出来なさそうだったが、どうやって入ってきたのだろう。


「すまないね、本当は陽樹達とともに待機していたかったんだが、少し調べ物があったんだ」

「とりあえず、私の術式もしっかり発動しているようでよかった」

「はい! 吹き飛ばされたのに、全然痛くないです!」


 所長が俺の服に施した術式は服自体の強度や魔力への耐性を高めるものだと聞いていたが、すごい勢いで吹き飛ばされても、全く痛みを感じないレベルの術式がどれほど難しいのか、勉強は頑張ってきたつもりだが、検討もつかない。


「諸事情で、魔法は使えないが、この程度の人形なら私が対処しよう。その隙にレイジ君はこれを」


 そう言って所長は箱状の魔道具を渡してきた。前に美玲が使っていたものだ。


「今の君なら結界の設定ができるはずだ。魔力よりも物理的な比率を多めで頼めるかい? 八割くらいかな」

「分かりました」


 箱に触れ、魔力を込める。その際に魔法の魔力含有率を調整するようなイメージ……所長考案のトレーニングを陽樹と行っていたおかげで、かなりスムーズにできる。そのまま発動する。


「展開」


 周囲を魔力でできた壁が覆う。敷地全体を覆い尽くしたそれは、大抵の攻撃なら守ることができるだろう。所長は小さな杖のような魔道具で純粋な魔力を放出して人形を術式ごと破壊している。

 かなり圧縮されているようで、ビー玉程度の魔力の玉を放っているだけにもかかわらず、人形に触れた瞬間、車が全速力で突っ込んできたのかと思うほどの衝撃を与えている。魔力の物質化だけでここまで威力を出すことも出来るのか。


「お、いいね、よく出来てる。あとはテリムさんのお手並み拝見かな」

「……そういえば、シャスティにはこの作戦伝えてないんですよね? なんでですか?」


 実は俺の魔道具で術式を無効化するという作戦はシャスティには伝えられていない。シャスティ以外のメンバーに個別で話したと聞いている。


「そうだね、今私たちにできることはないし、彼らの実力なら大抵の敵は大丈夫だろう。今のうちに話しておこうか。理由はいくつかあるけど、まずは素性が信用できないってことかな」


 信用出来ない?リエンドの古い知り合いの弟子的なものと言っていた気がするが。


「実際リエンドの知り合いから紹介されたんだが、タイミングが妙でね。君達が異常個体のマンイーターに襲われた日、その日のうちに連絡が来たんだ」

「偶然にしてもタイミングが良すぎる。これまで誰も応援なんてよこしてこなかったんだよ? おかしいじゃないか」

「じゃあ、敵の可能性もあるんじゃ……!」


 依頼主は俺のことを知っているようだった。もし敵からの刺客だったら今の美玲と陽樹の状況はかなりまずいのではないか。


「それに関しては大丈夫だろう。紹介してきた知り合いに関してはこの前調査していた時にシロを証明済みだからね」


 一人でそんなことをしていたのか。普段からどこに行っているか分からなかったが、ちゃんと仕事してるんだな。


「問題はシャスティ・テリムという人間は存在しないということだ」

「存在しない……?」

「彼女に関する個人情報、その一切が嘘だった。この時点で怪しいだろう? 我々の敵でないにしろ、味方であるとも限らない。別の目的があってこの事件を追っている可能性もあるからね」


 別の目的……


「もしかしたら、事件の黒幕を知っていて、そいつに用があるとかですかね?」

「そう、その可能性があると考えたから、正体を炙りだそうと思ったんだ」

「何かあったら魔道具で彼女も無効化できるからね」

 渡されたジャミングの魔道具は二つ。一度使うと効力が無くなると聞いていたが、予備としての役割の他に、第三勢力を想定したものだった。

 事前に聞いた彼女の戦闘スタイル自体は、すぐに変えようがない以上、嘘ではないと思うが、もしもの事もある。


「彼女の件についてはこれくらいにして……今の私じゃこの壁は壊せそうにないね。困ったな」

「待ってるしかないんですか」


 この壁が魔力だけでなく通信も阻害しているらしく、中と連絡が取れない。音だけは辛うじて聞こえるため、戦闘中だとは思うのだが、心配だ。


「うーん、この壁は少し想定外だな。こんな強固な術式は現代では滅多に見ない。計画は随分と前から練られていたのかもしれない。ここで魔道具を使いたくはないし……」


 その時だった。爆発音とともに、魔力で作られたであろうビームが壁を突き破り、結界をも突き破って空へと飛んで行った。


「……うそだろ? ここまでの技が使えるのか、彼女は」

「え、結界壊れた?」


 結界だけではない。屋敷を囲っていた壁の一部が破壊されると同時に、辺りの壁も壊れていく。何か術式の根幹にダメージを与えたのかもしれない。


「っ! 三人ともいます!」

「まて、レイジ君」


 三人の方へ向かおうとすると、所長が制止、瓦礫の陰に身を潜める。わけも分からず隠れていると、あたりの空気が変化する。重々しい、何か大きな存在を予感させる空気だった。


「……なるほど、彼がいたのか。これはまずいな」

「何が起こって……!」


 依頼主の体には大きな穴が空いているが、なにかボヤけて、ハッキリと輪郭が分からない。ゲームがバグったみたいだ。


 すると、たくさんの人形が崩れ落ち、依頼主の姿は似ても似つかないものへと変貌している。


「誰だ、あれ?」

「ゼダ・カルプス……まずいな。三人には荷が重い。仕方ない、奇襲を仕掛ける」

「君はまだ出てくるな。私が合図したら魔道具を使うんだ。あの様子を見ると、テリムさんはとりあえず敵では無い。あの男だけは止めるんだ」


 所長のいつにも増して緊張感漂う様子につられ、事の重大さを理解する。


「おそらく現界には制限があるはずだ。私は時間を稼ぐ。わかったね」

「はい!」


 所長の指示通り、どこかで隠れていよう。俺の役割を成功させるために。

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