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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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16話 あんたはぶっ飛ばす!

 レイジが追い出された。残ったのは綾崎と稲垣と私だけ。戦力的には役立たずだけど、あいつも作戦に必要らしいから困る。


「彼は王核持ちだからね、分断させてもらった。すまないが、君たち三人で私に挑んでみたまえ」


 王核?何言ってんのよこいつ。自分から攻撃する気はないらしい。かんっぜんになめられてるわ。

 とりあえずみんなで固まっているけど、どうしたものか。すると、美玲が耳打ちしてきた。


「外からの魔力の流れが切れてるわ。完全に密室になってる。陽樹が先陣をきる。合わせて無力化するわよ」


 彼女の魔眼とやらの力だろう。少し見ただけでそんなことが分かるなんて、すこい力だ。

 作戦立案の際に決めた戦闘の役割は、陽樹を前衛に据え、私が中衛、美玲が後衛でサポート兼レイジの護衛だ。

 レイジはある作戦のための魔道具を発動する係らしい。正直なんでアイツが、主軸なのか分からないけど、あの有能らしい所長の配役だから何かあるのだろう。


 とりあえずこちらが行動を起こさなくてはならない。陽樹が先陣を切る。彼は身体強化に長けた魔法使いらしい。

 魔力を外付けの筋繊維のように体にまとい、筋肉と同調させる。体の動きと連動させ、その能力を高める。割と繊細な魔法だが、彼は感覚でやっている、天才といえる技だ。


「うら! うら!」


 身体強化で、元々の運動能力の高さを底上げし、素早く依頼主の懐へ潜り込む。そして、右、左とパンチを繰り出した。直前に拳全体に魔力を纏わせることで、魔力を節約しつつ、フェイントも入れながら、圧倒していく。


「おっと、割と痛いね」


 依頼主は魔道具を身につけていたらしく、ダメージをかなり軽減したようだ。そして、壁から出現した人形を二体、陽樹を挟み込む形で突撃させる。


 陽樹が素早く後ろへ避けると、上からも人形が降ってくる。この屋敷、至る所に人形が隠れるスペースがある!私は魔力を光に変換しそれを矢の形に整え、人形に向けて放つ。矢は人形を粉砕、美玲が即座に陽樹や人形の間に弾丸を放つ。


 弾丸は依頼主の背後から現れた人形たちが、依頼主の身を覆い隠すように防いだ。


「ふむ、今の弾丸は興味があるな。もう一発構わないかな」


 美玲の攻撃にはビクともしていないようだ。


「随分とよくしゃべるわね。舌噛むわよ?」


 しかし、依頼主の行動が単調すぎる。単に人形を操る精度が悪いのか、もしくはまだ実力をまるで見せていないか。慢心があるなら今が叩き時!


「稲垣さん! 綾崎さん! ちょっと時間貰えますか!」

「わかった! シャスティ! なんか頼むぜ!」

「了解したわ」


 陽樹はさらに加速し、依頼主を猛攻を仕掛ける。依頼主も流石に人形の突進では捌ききれなかったのか、本人も素手で応戦している。

 美玲は陽樹の死角から襲い来る人形を恐ろしい精度で全て撃ち落としながら、こちらの人形にも先駆けて対応している。

 依頼主は、簡単な指令しかないにしても、体術で陽樹の攻撃を耐えながら人形を操っている。相当な技量だ。


「よし、集中……」


 二人が時間を稼いでいる間に、魔力を綿密に練り、装置を構築する……魔力で砲身を形成、固定の為に台も……私が得意なのは、魔力による物質の形成とその操作。

 咄嗟に出せるものは大した威力にならないが、ゆっくり時間をかけることが出来れば……


「いい感じ……二人とも!」


 私の声で二人が距離をとる。そして、私が練り上げた魔力の矢は一部を電気に変換、その性質を受け継ぐ……!電気系はあんま得意じゃないけど、頑張って作った電気魔力砲!流石にこれは防げないでしょ!


「……! あなた、それだいぶ威力でるわよね!? 周りへの影響はどうするの!」

「しらない! あいつをぶっ飛ばす!」

「シャスティ!? なんかキャラがちげぇ!」


 舐めプされてイライラしてたのよね。あんだけ言ったんだし、死なないでしょ!


「っだあ! 食らえ! 人形遊び野郎!」

「なんと!」


 高速で放たれた矢が依頼主を貫く。風穴は空いているが、完全に真っ二つにしてやるつもりだったのに……!狙いが外れて少し軌道がそれたことで家を貫通し、空に放たれたようだ。


「なんて威力……!」

「あっぶ! かするとこだったぞ!」

「やっば、殺しちゃった……!」


 あ……まずい、殺すつもりで撃っちゃった!無力化って言ってたのに!しかも素がでてる!やばい……


「は?」


 かすれた声が漏れた。


「全く、現在の便利屋にここまでの火力を出せる人間がいたとは、おかげさまで貴重な魔術師タイプの人形が破損してしまった」


 風穴の空いた依頼主の口が動く。しかし、生命を感じない。まわりに転がる人形と同じものを感じる。


「は……あんたすら人形……やっぱり……」


 確信した。こいつは私の獲物!


「ゼダ! お前だろ! 姿を現せ!」

「……なるほど、そういうことか。理解した。そもそも私を追ってきたのか。君は」


 辺りが振動する。術式だ。空気が重くなる。人形が周囲を囲む、輪を作り、手を繋いだと思いきや一斉に崩れ落ち、辺りが静まり返る。


 すると、目の前の依頼主の姿がボヤけて別人へと変化する。黒と白で左右中央を分かたれた長髪、切れ長な目、モデルを思わせる長身、人形のようだが、これまでの無機質な人形とは違い、高級感のあるフィギュアのようだ。


「いい演出だろう? 人形遣いとして、常日頃からどうあるべきか考えている時に思いついたんだ」


 ハッキリと姿が切り替わった男が言う。


「自己紹介しておこう。ゼダ・カルプスだ。覚えておきたまえ」


 そう言うとゼダは不敵な笑みをうかべた。

・魔術師タイプの人間……ゼダ・カルプスが用いる魔術で動く人形、レイジの依頼主であり、普通に暮らしていた。元は生きた魔術師であり、その頃の身分などを利用しているため、捜査に引っかからなかった。

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