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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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13話 仕掛け

 役割分担の結果、俺は美玲と組むことになった。陽樹は魔法以外の直近の事件について聞き込みを行うらしい。俺たちは魔力の視点から続けて調べることにした。


「ベルディオの悪魔式に必要な点は後三つ、つまり生贄があと三人必要ということね。その被害を出さない為にもここでけりをつけないと」

「了解。でも、何調べんだ?」

「魔力の跡、もしくは術式か何かが仕掛けられていないかを調べましょう。色々あって後回しだったけれど、何かあると思うわ」


 先にラーメン屋を調べることにした。店主に調べる許可を取りにいくと、俺らを覚えていた。


「お前たちはあの時の! すまねぇ、大人だってのに、俺はなんも出来なかった……!」

「いえ! 謝らないでください! それよりもあなたもお店も無事で良かったです」

「だがなぁ、魔法なんかは正直さっぱりなんだが、それでも子供に任せていいものか」

「いいんだよ親父さん、俺らなんともないだろ?」

「兄ちゃんが戻ってった時はビビっちまったがな!」


 背中をどんどん叩かれる。痛い。


「それはすいません……」

「まぁいいだろう! 元気そうだしな。今日はどうした、定休日だが、ラーメンならサービスするぞ」


 サービスと聞いて美玲が反応する。お前仕事中だぞ。さすがに大丈夫だよな。


「……是非食べたいです。でも、今日はちょっと調べたいことがありまして、お店と周辺を調べて回ってもいいですか?」

「なんだ、そういうことか。なら遠慮なく調べてくれ。あの気持ち悪い腕のやつについてだろ?」

「はい、ありがとうございます。その、厨房って入れますか?」

「大丈夫だ。ほら、こっちだ」





 厨房内を調べるのには理由があった。それは、マンイーターが現れた際、厨房へ押し入ろうとしていたからである。マンイーターはその名の通り、人を喰らうものだが、魔力に引かれているのでは?という意見があった。もしかしたら、厨房内にマンイーターを引き寄せる魔力を帯びた何かがあるのかもしれない。


「ただの魔道具とかが帯びた魔力とかに反応しているようじゃ今回のようにはならないから、明らかに不自然なものがあるか調べるわよ」

「うす」


 厨房内をくまなく調べるが、これといって不自然なものは見つからない。ラーメンの材料や軽い魔道具は見つかったが、どれも調理道具でおかしな点もない。


「特にないわね」

「そうだな」


 美玲と魔力を帯びたものを見合っていると、店主が戻ってきた。


「どうよ? なんかみつかったか?」

「いえ、これといって何も、すいません、次は外を調べてもいいですか」

「いいぞ、そこに勝手口があるからそっから出な」


 店の周辺を調べる。魔力や術式をくまなく探すが、何も見つからなかった。


「ここには何も無いのかしら……」

「空き地の方調べるか」

「そうね……」


 店主さんに改めてお礼を行ってから、俺たちはあの空き地へと向かった。





 空き地にも特に変なところは見当たらなかった。


「うーん……手がかりなしとはね」

「なにか見落としてたりしねぇかな」


 と言っても、土地全体を調べたが、術式だのなんだのは一切出てこなかった。


「発生場所がここでないのなら、一体何を目印に移動してきたのかしら……まさか、たまたま?」


 目印、特に思いつかない。一旦考えをリセットするべきかもしれない。


「ちょっとさ、一旦あの日の俺らの行動を思い出してみねぇか?」

「どうして?」

「いや、何か見落としてるかもしれねえじゃん。犯人がなんか証拠残してても、あの後回収したとか、あるかもしれないし」

「そうね、わかったわ」


 そうして二人であの日を思い出す。あの日はまず、俺の依頼があった。空調の術式の不調を直して、美玲がついでに、別の術式を修正。その後ラーメン屋に移動、食事中にマンイーター襲撃、美玲は空き地で対応、レイジは客を誘導後、ラーメン屋に戻り、魔道具を持って美玲の元へ戻る。そして撃退……


「特になんもなさそうかな」

「不自然なことは何もないわね」


 一日を振り返った時、一つなんでもない事を思い出した。


「そういや、依頼の時、魔道具に頭打たれたな。地味に痛かったんだよなあれ。今でもコブが残ってるし、ほら」

「そんな事もあったわね……ん、そのコブ見せてもらえる?」


 美玲に頭を固定される。美玲はコブをじっくりと見るとなにかに気づいたようだ。


「これは……! あなたコブのところに術式が付与されてるじゃない!」

「え!?」


 美玲が魔道具箱から、ピンセットを取り出す。そして、慎重に術式をコブから切り取った。


「ここまで小さく魔力を感じない術式、見たことない。内容は……」

「引き寄せる、匂い、魔力……まさか」

「なんの術式かわかったのか?」

「これはおそらくマンイーターを引き寄せる術式……こんなものを用意できるのは、マンイーターの創造主だけ……!」


 それってつまり……


「あの依頼主か!」


 その依頼主の印象と言えば、ものぐさで世間から離れたような感じだった。ボサボサの髪の毛に、散乱した部屋。こんな感じなら、術式の管理なんて考えもしないだろうと思ったものだ。喋り方もやたら強烈だった。なんというか腹話術で喋る人形みたいな、声が別のところから発せられているような。


「魔道具の暴走を装ってレイジにこの術式を貼り付けた?」

「なぜ、わざわざ? たまたまか、狙ってか……分からないけれど、とにかくあの依頼主はクロとみて良さそうね。」

「じゃあ依頼主のとこに行くか?」


 俺がそう提案すると、美玲はいや、と首を振る。


「……いや、一旦戻って他と共有してからにしましょう。確定させる材料は多い方がいいわ」


 こうして、依頼主が怪しいという情報を得た俺たちは、ひとまず事務所に戻ることにした。

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