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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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11話 生贄

「えー、改めて、シャスティ・テリムさんです。リエンドの古い知り合いの弟子のようなものらしく、うちに協力したいとのことだ」

「所長さんに忘れられていたことは残念ですが、精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」


 なんというか、不憫そうな子だな。でも、なにか引っかかる。どこか本質的に。その違和感の正体がなんなのか、この時のレイジには分からなかった。


「とりあえず、現在うちで魔石案件を追っているのは私と、綾崎、陽樹それに加えて、レイジ君、テリムさんということになるね」

「私が入っても少数なんですね?」

「そもそもうちは人が多くないからね」

「リエンドが投げた依頼を受けるくらいだし、もっと人がいるのかと思ってました」


 シャスティは驚いた様子だ。確かにこの依頼に関わっている人間が極端に少ない。


「まぁ、うちは少数精鋭みたいな所あるからね!」

「そうね、人手は足りないけれど、実力に関しては皆疑う余地もないわ」


 所長の言うことに美玲も同調する。


「それではまず、今分かっている情報を共有しておこうと思う」

「まずは、被害者の共通点について」

「被害者はどれも魔法適正のない一般人だったということ。普通の会社員に、教師、農家など職業自体はバラバラだが、家系的に見ても、魔道とは縁のない人のみが狙われている」


「次に、遺体を解剖できたものによる情報だ。解剖できたものは数体のみだが、それぞれ、心臓に進化の魔石を埋め込まれている。その他変化した部分以外に異常はないそうだ。途中から費用が足りなくなって研究がストップしていたようだが、今少しずつ続きの解析を進めてもらっている」

「そして三日前、さらに強力な耐久性を持った新個体が現れた」


 ラーメン屋に現れたやつだ。異常な腕を持ち、制限があったとはいえ、美玲の攻撃も全くと言っていいほどに通っていなかった。


「今は陽樹がそれぞれの被害の発生場所の関係を探っている。それぞれ、個人に直接的な関係がないことは分かっているからね、そこで、新しい発見があればいいんだが」


 話をしていると会議室のドアが勢いよく開く。


「おーい! かつきー! 大発見だ!」


 ちょうどいいタイミングで陽樹が帰ってきた。何が重要な情報を見つけたらしい。


「この前の新しいやつが出た場所も含めて、もう一度その位置関係を詳しく調べたんだけど、これ!」


 陽樹が地図を取り出し机に広げた。そこにはこれまでの被害者の出現位置が記されている。そして、それぞれ離れた場所であるため、共通点は分かりづらい。


「新しいやつはこのラーメン屋らへんだよな?」

「そうね、間違いないわ」


 陽樹が地図に書き足した。すると所長がなにかに気づいた。


「なるほど……この点の配置、ベルディオの悪魔式か……」

「ベルディオの悪魔式……?」


 おっかない名前だな。悪魔とついているし、やばい代物のようだ。


「私が説明しましょう。ベルディオの悪魔式、召喚魔術の一種ね。召喚魔術というのは、術式によって魔力を強大なエネルギーに変換し、それによって空間に干渉して、その場に何かを呼び出す物」


「ベルディオの悪魔式は禁忌とされるもので、かつてベルディオと呼ばれた魔術師が、悪魔を呼び出そうとして災厄を起こしたとされる伝承からくるものね。その術式は魔導文字ではなく、位置関係と生贄によって構築されるわ。今回はそれぞれの被害者が現れた地点の配置がそれに類似している」


 空間に干渉……これまで聞いてきた魔道からするとイメージしにくい。


「召喚魔術はこの世界の外にあると言われる外界とのトンネルを開けると言われている魔術だね。正直、現代では召喚魔術を扱えるものは少ない。犯人がかなり絞りこめるぞ」

「生贄を扱う魔術はあまり詳しくないのですが、生贄として使う人間はただの魔道士ではいけないんでしょうか?」


 シャスティが質問する。


「いい質問だ。そこがベルディオの悪魔式の肝でね。ここで言う生贄は魔道に関わりがない人間に限るんだ。一説では無関係の人間を使うことによる業が、悪魔召喚の縁を繋げると言われている。なぜ、魔石を埋め込んだ異形であるのかはまだ分からないけどね」

「しかし、それぞれの生贄が同時期の発生ではない点も気になる。」


 たしかに、魔術の発動時に生贄が全部揃っていなければ意味は無いのではないか。


「それは気にしなくてもいいんじゃないかしら」


 美玲は何もおかしいことはないと言う。


「位置関係と生贄が必要なのは確定だとして、私が前に読んだ文献では、術式には生贄の血が必要だと記されていたわ」

「時間差で生贄を用意することで、術式の判明に時間がかかることを狙ったのではないかしら」


 生贄自体に鮮度的なのは関係ないらしい。それに言うことも理解できる。だがひとつ疑問があった。


「この前のマンイーターが出現したのは確かにラーメン屋だけどさ、ここで生贄とされたかは分からないんじゃね?」


「そうね、確かに、さらに言えば魔術は正確さが大切。実際に存在した術式かは定かでなくても、その位置関係にはルールが存在するはず……生贄として血を取るために作り出したとして、ラーメン屋のマンイーターは移動している。それが術式に影響を与える可能性もある。正直、ベルディオの悪魔式を行おうとしたのかどうか、分からないわね」


「うぇー! 結構な発見だと思ったんだけどなぁー!」


 陽樹はとても残念そうに肩を落とす。


「いや……やっぱりベルディオの悪魔式なんじゃないですか?」


 シャスティが地図を見つめながら言う。


「美玲さんの言う通り、生贄を作り出す時期の差による術式の隠蔽はあると思います。レイジさんの言うこともわかります。生贄の位置が重要とのことですが、ラーメン屋さんで発見された時、たしかに直前まで人間だったかは分かりません……この図のラーメン屋さん以外の位置って、何を基準とした位置なんですか?」


「え? えっと、確か討伐された場所だな。発生位置は分からねぇけど発見された場所から動かなかったらしいから、発見位置=討伐位置ってことになるな……」


「あぁ、そういう事か、わかったぞ」


 所長は納得いったようだ。


「私はマンイーターへと変化させられたことが生贄という条件に当てはまると思っていたが、マンイーターが殺される。つまり、魔道に関係の無い者が魔道によって殺されることの方を生贄としていた。ということか」

「……つまり、私も術に関与させられたってわけかしら」


 美玲に怒りが見えた。たしかに、こんな趣味の悪いことをやらされたなんて最悪だ。


「でもよー、意図的に殺させる場所を決めることなんてできるのか?」

「これまでのはその場に肉塊が大量にあったらしいし、そういう狙いがあったのかもしれないけどさ、レイジ達のいたラーメン屋と、近くの空き地には特に何も無かったんだよな?」


「そうね、もしも、私達の行動が読まれていたのだとしたら気持ち悪いわね」


 美玲が近くの空き地までマンイーターを誘導、そこで討伐という流れを完全に読み切ることなどできるだろうか。正直無理だと思う。未来でも見えていなければ不可能だろう。


「これ以上は考察しようがない。とりあえず、ベルディオの悪魔式と仮定してあの空き地やラーメン屋を調べてみるといいかもしれない。役割を振ろうか」


 正直、ほとんどのことは分からなかったが、この事件の裏にいる人間はロクでもない奴ということだけはハッキリと確信した。


・ベルディオの悪魔式……ベルディオ・コンラインという魔術師が生み出したとされる禁忌の術。現代では『ベルディオの黒い悪魔』という伝承として伝わっているが、術式の詳細な描写など、現実にあったものであるという説が主説となっている。しかし、一般では確証に至ってはいない。

・召喚魔術……扱える魔術師がいるが、詳細な原理が解明されていない謎の多い魔術のひとつ。

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