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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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10話 非日常へ

 俺が目を覚まして三日、退院の許可が降りた。所長に何が起こったのかはざっくりと聞いた。俺には普通では無い何かがある。しかし、概要がまるで検討もつかない。

 そして今日、便利屋の追う「人の変異暴走事件」に、俺も大きく関わることになった。


「退院おめでとう。レイジ君、早速だが、始めようか」

「はい」


 事務所の会議室に行くと、美玲と所長がいた。


「まずは説明……かな、とりあえず魔石案件、つまり人の変異暴走事件についてかな。魔石についても教わったんだよね?」

「天然で既に魔力を有する石……ですよね」


 魔石、その名の通り魔力を天然で含んでいる石である。発生原因は不明であり、古くから存在することだけが確認されている。石自体が魔法を有していたり、火や水といった魔力の方向性をふくんでいたりと、ものによって効果が変わる。術式なし、魔石のみで魔力を現象化させることもできる。


「そう、天然の魔道具とも呼ばれている未だに謎の多い物質だ。そして、今回の事件ではあるタイプの魔石が関わっている」

「それは、通称進化の魔石と呼ばれている」

「進化の魔石……」


 所長によると、進化の魔石というのは古くから伝説のようなものとして、あらゆる所で伝えられてきたものだそうだ。いわく、生物の進化を促す……とのことだが、これまで発見された例もなく、架空の産物であるとされてきた。


 しかし、三ヶ月ほど前、とある小さな村にて異形の人型生物が確認された。人口が三桁に満たないとはいえ、一晩で村を壊滅させたそれは、たまたま村の心霊スポットを目指してやってきた一般人によって、肉塊(村人と思われる)を食べている場面を発見、通報され撃退される。遺体を調べた結果、人と思われる遺伝子、そして発達した魔力器官がみられた。


 中でも特徴的だったのは異常に発達した顎と、心臓部分に埋め込まれた進化の魔石だった。人を食らうことからマンイーターと名付けられた。


「まぁ進化、と言えば聞こえはいいけど、実質的には人が異形になる何らかの指向性を持った魔石ってことだね。さらに、異形の元は魔法適性のない人だったこともわかっている。そんな人間の心臓に魔石を埋め込んだところで扱いきれるわけもない。というか、生きた状態に埋め込む、という芸当自体が不可能に近いんだよ」

「で、この後も少しずつ同じような事件が発生したことでウチに依頼としてやってきたわけさ」


 とりあえずマンイーターに関しては理解したが、ひとつ疑問が浮かぶ。


「確かに、最近探偵的なことをしているとは言ってましたけど、便利屋ってそんな事件も追うものだったんですか? というか、依頼ってどこからの?」

「あー、それはね、みんなにも内緒にしていたんだが、もう隠す段階でもないかな。実は、私の元職場からでね」


 そう言いつつ、所長は少しためらっているようだ。少ししてから口を開いた。


「リエンドっていう魔道研究機関なんだけど」

「リエンド!?」


 俺が更なる疑問を発する前に美玲が反応した。


「世界一の研究機関じゃない! そんなとこからなんで所長なんかの所に依頼が!? 所属していたってだけでも確かにすごいけど所長が!?」

「綾崎、落ち着いて! なんかキャラがブレてる気がするよ! てか、やっぱり私の扱い酷くないかい!?」


 美玲が取り乱す程に有名な機関なのか、これまで生きてきて聞いたことがないのだが。


「レイジは事の重大さを理解していないようね。いいわ、私が説明するから」


 リエンド、世界一と呼ばれる魔道研究機関。最先端の研究はもちろん、様々な企業との提携により表社会への影響力も持っているが、魔道具などの普及による魔力の一般化に古くから反対している、いわゆる魔道秘匿派閥が強い権力を持った機関だそうだ。だから名前を知らなかったのか。


「魔道具って否定派もいるんだな。もっと全体が研究とかしてんのかと思ってたけど」

「そうね、魔道秘匿派閥は、言ってしまえば魔法至上主義、魔道とか言っちゃってるけど、実際は魔術も下にみてるわ。魔法という天賦の才を与えられた我々が得をするためには、魔術とかいう技術の普及は邪魔! ってことね」


 美玲はその体制が気に入らないらしい、言葉に怒りが少し感じられた。


「魔道も一枚岩じゃないんだな」

「でも、とにかくすごいところなのよ。そんなとこにいたなんて、末端でもそこらの魔道士とは年収の桁も違うでしょうに、なんで辞めたのよ」


 所長は少し困ったように笑うと、頬をかきながら答えた。


「うーん、なんというか、方向性の違い?」

「バンドかよ」


 反射でツッコんでしまったが、話す気はない、ということだろう。美玲もそれを察してか、これ以上深くは聞かなかった。


「とにかく、そこの古い知り合いからの依頼でね。彼女は魔石の汎用性の研究をしているんだが、綾崎が言ったような理由で立場が弱くてね。今回の事件の徹底研究に予算も通らないし、数回のマンイーター解剖で、これ以上の調査はするな、と釘を刺されてしまってね」


「警察に頼ろうにも、リエンド所属という肩書きが使えない以上、どうも真面目に取り組んでくれなかったらしく、そちらにもツテがある私に助けを求めてきたということだ」

「とりあえず事件についてはわかりました。他にもまだあるんですよね?」


 今日は話すことがたくさんあると事前に聞いている。正直もうお腹いっぱいだが、しっかり聞かなくては。


「じゃあ次はレイジ君、君についてだ」

「はい」


 聞いたところによれば、俺の記憶にないあの一瞬、俺が何かの魔法を発動させたらしい。何が原因が分かるのだろうか。


「君が発動させた魔法についてだが、正直に言えば、全くわからん!」

「はい?」

「綾崎が聞いたという、なにかの言葉、これは呪文のようなものかもしれないが、触れた物が灰になるというのも合わせて、どうにも引っかかる。まず、呪文っていうのは現代において、全くと言っていいほどに使われない廃れたものだ。そんなもの、唱えている間に他の魔法を発動できないって考えると、魔法がバリバリ戦闘で使われていた時代には不利すぎるだろう?」


 確かになくて発動できるようになったのなら要らない。


「イメージの強化に使える、みたいな利点もあるにはあるけど、唱えるだけで隙になりかねないからね。せめて安全が担保された状況じゃないと使えないかな」


「で、触れたものが灰になった。これが問題だ。直接的に相手の肉体に干渉している。魔法は魔力をそのまま放つか、魔力を何かに変換するものだ。しかし、綾崎はあの時魔眼でもその動きを感知できていない。つまりプロセスがすっ飛んでいる。ということだ」

「魔力から変換されたものがないのに、相手を灰にしてしまったということですか?」


「そう、魔力の放出は言ってしまえばただのエネルギーのぶつかり合い、それ以外の魔法はどんなものであれ、魔力→何か、そしてその何かで影響を与える。ものが灰になる過程を考えてみようか、例えば炎によって燃え尽きる、といったことがあるだろう? しかし、あの場では熱を感じたものの、相手の体を燃やす炎は発生していない。」


 魔法の変換過程がない……魔法を学んだ今なら、どんなにおかしい事か理解できる。


「だからできるのは推測程度、妄想の域を出ないものだが、恐らく小さく呟いていたものは呪文、呪文を扱う点からも古代に失われた魔法の可能性がある。なんでそれを知っているのか? とか、そういうのは推測できないがね」


 自分は普通では無い。それだけが事実として自分に残っている。これがどういった意味を持つのか分からない以上、どうにも先が見えない。


「で、君の今後の方針だが、現在分かっているトリガーが命の危機だと推測できるから、生きること最優先ってことかな。魔道の練習とかは、まぁ大丈夫だろう」

「そんなざっくりでいいんですか?」

「まぁ、全く危険性がないとも言いきれないけれど、元リエンドである所長が言うなら大丈夫なんじゃないかしら」

「なんか言い方にトゲがないかな!?」


 確かにすごいとこに所属していたらしいし、正直、これで前までの展望を諦めるかと言ったら、それは無いと思っていたからほっとした。


「じゃあ最後になるけど、これは君の意思で決めて貰って構わない話だ」

「君もこの事件を追うのに協力して欲しい。実は陽樹の仕事も彼の希望で最近はずっとこれなんだよね。」


 前にどんな依頼を受けているのか聞いた際にはぐらかされていたのはそのせいか。


「陽樹の戦闘センスと情報収集能力は何故かずば抜けていてね。今日も調査で出払っているんだよ」


 あいつの知らない面を知ると、普段の明るい様子とのギャップで風邪を引きそうだ。

 この事件はマンイーターの発生がおそらく人為的であること、さらには戦闘による危険が伴う以上、まだ自衛すらできるレベルに達していない自分には、これまで説明されてこなかったのだろう。

 そんな俺にも、協力して欲しいと言ってくれた事が嬉しい。返事は考えるまでもない。


「やります。そのためにも、俺、強くなりたいです」

「君ならそう言うんじゃないかと思っていたよ。じゃあよろしく頼むよ、レイジ君!」


 気合を入れていかなければ、そう思った矢先だった。会議室のドアが勢いよく開く。


「ああ! 遅れてごめんなさい! シャスティ・テリム! 魔石案件協力のため来ました! よろしくお願いします!」


 勢いよく入ってきたのは銀髪ボブにくりくりとした紺色の瞳の少女。元気いっぱいだが、彼女もうちのメンバーなのだろうか?


「ん……? あ……やべ、そういや来るって言ってたっけ……」


 所長が小さく呟く。


「所長? もしかしなくてもあなた……」


 美玲は所長に冷ややかな視線を送った。


「……あれ? 私何か間違えましたか?」


 所長の目が泳ぐ。


「あっと、ごめん、忘れてた」

「嘘でしょーー!?」


 彼女の声は事務所内に響き渡った。

・魔石……魔力を有する石、天然の産物であり、人工的には作り出せたことがない。魔道的効果を内包しており、魔力を流すことで効果を発動させることなどが可能。

・リエンド……魔道研究機関、最先端の設備を要する。様々な部門があるが、内部の派閥争いなどによって研究予算の増減が激しい。所長が辞めた要因の一つがその派閥争いであるらしい。

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