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オルトレイジ  作者: 立木ヌエ
第一章「始まり――魔道のある日常」

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9話 信用と不安

 病院へ来てすぐに、レイジは魔道部門の方へと連れていかれた。ここでも所長の顔の広さが役に立っている。腕利きの医者が容態を確認している。正直この人について分からないことだらけだが、とりあえず頼りになる。


 すると話に行っていた所長が戻ってきた。


「とりあえず大丈夫だそうだ。今は意識を失っているだけらしい」

「そう……よかった……」


 異常事態だった。しかも、拘束したと油断した。大失敗だ。


「たまたまこっちにいたから良かったよ。綾崎もよく無事でいてくれた」


 避難したお客さんの一人が事務所に連絡をくれたらしい。そしてたまたま近くで用事があった所長が急いで駆けつけたそうだ。


「綾崎、なにがあった」


 事の一部始終を話すと、所長は考えるように顎に手を当てる。


「直前まで感知できない通常よりも妙に硬いマンイーター、通信障害に、レイジ君の異常な魔法……なんだか、事態が動き出したような気もするね」

「とりあえず今考えても仕方ない。今日はもう帰りなさい。送っていこう」

「……はい」





 あの日から二日所長が気をつかって休みにしてくれた。まだ休んでいろと言われたものの、気持ちを切り替えていかなければと、無理やり仕事をいれてもらった。

 今日は補佐として、依頼に向かった。少しパフォーマンスが悪かったけれど、思ったよりやれそうだ。

 依頼が終わったのは昼過ぎで、なにか食べようかと思ったが、今日もお見舞いに行っておこうと考え、フルーツなどを買いに行く。今日含め三日間お見舞いに行っているが、レイジは目を覚ます気配がない。


「今日は何買っていこうかしら……」


 レイジがあんなことになってしまったのは自分のせいだろう。あの時、油断せずに無力化したことを確認していれば、その前にもっと早くマンイーターに気づいていれば、いや、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……


 いけない、ここ最近は私らしくもないマイナス思考が多い。ここまで参ってしまうなんて、私はまだまだ心が弱いのだろうか。こんなことでは、目標には到底届かない。


 ふと、電話がなる。スマホの扱いもレイジによって生活に支障がない程度まで成長していた。

 ……そういえば、レイジにも陽樹にもスマホについて笑われたけれど、買ったばかりだったのだからしょうがないと思う。

 その時はイラッときたこともあったが、ちょっと前の出来事なのに懐かしく感じる。そうだ、電話に出なくては。


「もしもし?」

「もしもし!? 美玲!? レイジが起きたぞ!!!」

「……ぇ」


 陽樹からの電話を受け、思考するより先に体が動いた。





 その後の私は今までにない程の急ぎようだったと思う。買い物を放って一目散に病室へ向かった。病室に着いた頃には目を覚ましたレイジと陽樹、所長が話をしていた。


「美玲……ごめん、心配かけたよな、多分」

「……ぁ」


 身体中から力が抜けて、その場に座り込んでしまった。良かった。私のせいでこんな世界に、私が、魔法が使えるからと連れてきてしまったせいで、死んでしまうのではないかと、医者の言う大丈夫を疑っていた訳ではない。


 ただ、この事態に引きずり込んでしまったのは間違いなく私なのだ。


 でも、生きていてくれた。それどころか開口一番に謝ってくる程のお人好し。このひと月で私にとっても大切なこの場所を、仲間として彼も大切に思ってくれているのかもしれない。そう思うと、安心してしまったのだ。


 それはそれとして、しっかりしなくては、言いたいことだってある。改めて立ち上がる。


「良かった、生きてて」

「あぁ」

「それと、ごめんなさい。今回のことは私の不注意が原因だもの」


 そう言うと、彼は何を言っているのか分からないと言うように顔をしかめた。


「謝るのは俺の方だよ。ごめん、言われたこと守れなかった」

「でも、私が」

「いや、俺が」

「はい! ストップ! 俺らがいるの忘れてるのかっての! なぁかつき!」


 陽樹が割って入ると、所長も続けた。


「とりあえず、どちらが悪いとかは無い。二人ともその場でできることを頑張った結果だ。強いて言うなら、レイジ君は自分の命をもう少し大事にするべきかもね? 美玲は分かっているだろうけど、確認不足、注意すれば防げたことかもしれない」


 わかっていることだが、改めて言われると自分の不甲斐なさを痛感する。


「はい、ごめんなさい」


 そう言って、レイジは唇を噛み、俯いた。


「その通りです」


 私も、反論できることも、する気もなく、肯定しかできない。


「反省しているならよろしい! 体に異常はないようだから、数日すれば退院できるようなので、それまでは安静にすること」

「早く退院しろよ!」

「陽樹、無茶言わない」


 そうして、二人が出ていく。


「……まぁ、とりあえず椅子、座るか?」

「……えぇ」


 少し気まずい。謝ることは出来たけれど、正直言っていない事がまだある。どう切り出したものか。


「あの……」

「なんだ?」

「まだ、言いたいことがあるのだけれど」

「遠慮なく言ってくれ」


 ここで言わなきゃどこで言う。これだけは伝えておかなければ。息を深く吸う。


「じゃあ……さっきも所長が言っていたように、自分の命を大切にして」

「まだ攻撃も防御もままならないのに、あんな危ないところに戻ってくるなんて正気なの……!」


 あの時の怒りをぶつけた。確かに魔道具を持ってきて貰えたことで、戦闘の決め手を得ることは出来た。


 しかし、マンイーターが私に注意を向けている間は、被害は出なかった。もう少し耐えていれば、所長も到着していた。結果論になってしまうが、あそこで戻って来たことが許せない。


「そう……だな、ごめん。どうしても役に立ちたかった。あのまま美玲だけに任せてしまうのは、違うと思ったんだ。その時に戦えなくてもやれることがないかって、少しでも自分に意味が欲しかった」

「美玲が強いのは見たらなんとなく分かった、けど、やっぱり心配だったんだよ」


 私が医者に感じていたものと近いかもしれない。信用していても不安が消えることは無いのだ。


「そうね、うん、私も改めてごめんなさい。不注意なんて、事前にどうにでも出来たミスよ」

「……よし、じゃあ今回の事はこれで一旦チャラ……ってどうすかね?」

「いいわ、チャラってことで」


 心がスッキリした気がする。


「じゃあ話変わるんだけどさ」

「マンイーター、あと魔石だっけ、軽く所長に聞いたんだけどそれに関しては退院後に説明するって言われたんだけど」


 そう、今回の事件はこれで終わりではない。むしろ本格的に始まったのだ。


「そうね、それに関してあなたにはもっと先に話すと思っていたのだけれど、巻き込まれてしまったからには引き返せないわ」

「最初に事務所に来た日に所長が言っていたこと、おぼえてる?」


 少し考えるように上を向いてから、レイジは思い出したようだ。

「魔道犯罪について……?」


 確信がないのか、レイジが首を傾げる。


「そう、今回のこれこそがその魔法犯罪、そしてウチが最近追っている案件」

「魔石による人の変異暴走事件よ」

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