序章 あるエピローグ、あるいはプロローグ
火の海と化した大地は、実に赤く、その町を形作った人を、歴史を、自然を、亡きものにした。
誰もが知ることは無い、あまりに悲しく、そして美しい光景だと其は思う。
この身にそんな感情が残っていたことにも驚いた。だが何より、この光景を忘却せぬように、この目に焼き付けることが必要だと、そう考えた。
ーーとある記憶より
街が燃える。私達の育った街が、なんの前触れもなく、跡形もなく燃え尽き消えていく。彼はこの結末をどう感じただろう。どうして?なぜ自分がこんな目に?そんな疑問を浮かべたかもしれない。これが地獄だと、自分は矮小な存在なのだと、悟りを開いたかもしれない。
私の場合、どう思うのかと聞かれたら、「まぁこんなもんか」と思った。としか言えない。これまで生きてきて楽しいことも、辛いことも、どちらもたくさんあった。個人的には楽しい思い出がいっぱいなのがうれしい。
でも、これまでのそんな人生がこんな呆気なく終わってしまう。常に全力で生きてきたつもりだし、後悔はない。だから、「こんなもんか」としか思わなかった。
ただ、人が死ぬ間際にどう思うかなんて知らないから、私がおかしいかどうかは分からないけれど、もう少し生きていたいと最初に思わなかったのはどうかなって……
あぁ、でも、ひとつだけ、これは私の未練と言えるのか。彼がこの結末にどう感じたかはどうでもいいけど、たったひとつでいいからこれだけは叶えたかったかな。
「ごめんね……約束、守れなくて」
ちょっと、泣かないでよ。せっかくひとつだけ絞り出した言葉なのに、珍しく私から謝ってあげたんだから。
正直、なんでこう考えるかは分からないけれど、彼はきっと生き延びる。そして、私のことは忘れて幸せになれる。不思議と確信できる。
だから……
「あなたの時間を……大切にね」
やればできるものね……二言目が出たわ。ひとつだけの言葉が薄まってしまったかしら。これが呪いとなってもいい、むしろそうあって欲しい。私を忘れても、私の呪いは彼に残ってほしい。
「――――――」
彼が何を言っているのかもう私の耳には届かない。生憎と読唇術は修めていない。なんなら目だってボヤけてきてるし、もう意識を保つのが難しい。あぁ、死ぬのは怖くないけど、生きてはいたかったな。
少女の鼓動はもう聞こえない。星のように綺麗な瞳も、彼に向けたあの眩しい笑顔も、からかうような言動も、全てが輝きを失い彼女のその生涯は幕を下ろした。
少年はこの先、この終わりと始まりの日を思い出すことはあるのだろうか。ただ言えることは彼女の呪いだけは心に残り続けたということだ。
思いついた時に書き始めるので不定期です。