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朝ごはんと転校生

「えー、じゃあ次、健太!」


朝の教室に、友人・ユウヤの声が響く。俺――高校二年の佐倉健太は、ニヤリと笑ってユウヤを見た。ユウヤは俺の幼馴染だ。


俺の能力。それは、人を見ると「その人がその日の朝に食べたもの」が脳内に浮かび上がるという、なんとも奇妙なものだった。文字だったり、イメージだったり。最初は戸惑ったが、慣れると結構便利……というより、友人との他愛ないゲームにはもってこいだった。もちろん、この能力のことは、誰にも話していない。


「んー……ユウヤは、目玉焼きとベーコン、あと食パンだな!」

俺が自信満々に答えると、ユウヤは目を丸くして叫んだ。「うっそだろ!?なんで分かるんだよ健太!エスパーか!?」


ユウヤの驚きぶりに、クラスメイトのハルカとミキが笑う。この「朝ごはん当てゲーム」は、ユウヤが俺の勘の良さをからかうために始めたものだった。超常能力なんて、漫画やアニメの世界の話だ。俺たちの日常には、そんなもの存在しない。


ガチャリ、と教室のドアが開く音に、俺たちの笑い声が止まった。担任の先生が、一人の女子生徒を連れて入ってくる。


「今日からこのクラスに転入してきた、早瀬美月さんだ。みんな仲良くしてやってくれ」


すらりとした手足、サラサラの長い黒髪。透き通るような白い肌に、大きな瞳。早瀬美月は、まるで絵から抜け出してきたような美少女だった。そして、その表情からは快活で元気な印象を受ける。クラスメイトの視線が一斉に彼女に集まる。当然、俺も彼女に目を向けた。


先生が彼女の席を指定する。「早瀬さんの席は、佐倉君の隣だ」


早瀬美月は「はい」と元気よく返事をして、俺の横を通り過ぎる。その瞬間、俺は軽い気持ちで能力を使ってみた。


俺の脳裏に、くっきりと浮かび上がった文字に、俺は息を呑んだ。


「人差し指」


「は?なんだこれ……?」


朝ごはん?指?そんな馬鹿な。俺は混乱し、思わず伏し目になった。文字がバグったのかと、半ば現実逃避のように思った。


翌日、俺は早瀬美月を一目見るなり、思わず固まった。


俺の脳内に浮かんだ文字は、昨日とは違っていたが、やはり「食べ物」ではなかった。


「親指」


二日連続で「指」だと?人差し指に親指って、どういうことだ?早瀬美月は、俺たちの前を通り過ぎ、自分の席に着く。その背中を見つめながら、俺は困惑で頭がいっぱいだった。なんとなく、後ろの席から視線を感じる気がして、俺は身構えた。


二限目が終わり、休み時間になった。


「佐倉君、何か隠してること、ない?」


突然、後ろからかけられた声に、俺はビクッと体を震わせた。振り返ると、そこには早瀬美月が立っていた。俺をまっすぐに見つめる彼女の瞳は、何かを…いや、俺の心を全て見透かしているかのように感じられた。


「え、あ、いや、別に……」


しどろもどろになる俺を見て、早瀬美月はフッと微笑んだ。その笑顔は、どこか挑発的で、俺は心臓が大きく跳ねるのを感じた。


「おい健太、先生来るぞ!」


ユウヤの声に助けられ、俺たちは慌てて席に着いた。早瀬美月との会話は中断されたが、俺の胸には、拭いきれない戸惑いと、奇妙な予感が残った。


放課後。


「カラオケ行こうぜ!健太も行くよな?」


ユウヤがはしゃいだ声で俺を誘う。ハルカとミキも楽しそうに頷く。もちろん行く気満々で頷こうとした、その時だった。


「あの、私も行ってもいいかな?」


透き通るような声に、俺たちは一斉に振り返った。早瀬美月が、少しはにかんだように立っていた。


「お!いいじゃん!美月ちゃんも一緒に行こうぜ!」


ユウヤが屈託のない笑顔で歓迎し、俺たちは皆で駅へと向かった。カラオケでは、意外にも早瀬美月はノリが良く、歌も上手かった。みんなで盛り上がり、あっという間に時間が過ぎていった。


帰り道、駅でユウヤたちと別れた俺は、ふと隣に目をやった。同じ電車に乗っていたのは、早瀬美月だった。


「え、早瀬もこっちなんだ」

「うん。意外だよね」


隣に座って他愛のない会話が続く。今日のカラオケのこと、学校のこと、好きな音楽の話……。自然な流れで言葉を交わすうちに、彼女の横顔を盗み見て、説明のできない違和感の正体が気になっていた。


ふと、会話が途切れた隙に、早瀬美月がまっすぐ俺を見た。


「あのさ、佐倉君。やっぱり、何か隠してること、ない?」


二度目の問いかけ。まるで、俺の能力のことを見抜いているかのような、深淵な瞳。心臓がドクンと跳ねた。どうして彼女は、そんなことを聞くんだろう。直感的に、俺は彼女に能力を悟られたくない、と思った。


「隠してること?んー……強いて言えば、早瀬が俺の好みのタイプだったってこと、かな」


我ながら苦し紛れのごまかしだったが、他に思いつかなかった。早瀬美月は、キョトンとした顔で俺を見て、それから少しだけ驚いたように目を見開いた。


「え……?」


その表情を見て、俺は思わず焦った。変に勘違いさせたか?しまった、と後悔したが、彼女はすぐにフフッと笑った。


「そっか。じゃあ、LINE交換しない?」


俺は内心ホッとしながら、「もちろん!」と答えた。スマホを交換し、お互いのIDを登録する。


「じゃあ、佐倉君、また明日!」


同じ駅で降りて、元気よく別れの挨拶を交わす。俺が背を向けて歩き出したその時、ふと、俺は振り返った。早瀬美月は、まだそこに立っていた。そして、無言で自分のスマホを顎に当て、俺が遠ざかるのを見送っていた。その姿に、俺はまた、説明のできない違和感と、強い引力を感じた。


あの「指」以降、早瀬美月の朝ごはんは、普通の食べ物になっていた。


パンケーキ、フレンチトースト、卵焼き……。どれも彼女らしい、可愛らしい朝食ばかりで、俺はいつしか「見間違いだったのかもしれない」と思うようになっていた。それに、早瀬美月と話すうちに、彼女の明るさや、時折見せる大人っぽい表情に、俺はどんどん興味を惹かれていった。クラスにもすっかり馴染み、俺たちとの距離も縮まり、いつの間にか彼女は、俺にとってかけがえのない存在になっていた。早瀬はいつも通り活発で、クラスの中心となって盛り上げている。


ある朝。いつものように早瀬美月をなんとなく見てみた、その時だった。


俺の脳内に、またも「食べ物」ではないものが浮かび上がった。


「右目」


まさか。俺は驚きを隠すことができず、顔が引きつるのを感じた。しかし、早瀬美月は、そんな俺をイタズラっぽく微笑んで見つめていた。まるで、俺の反応を待っていたかのように。


昼休み。早瀬美月が、いつものように明るい声で提案した。


「みんなで『嘘を見抜くゲーム』しない?」


その言葉に、ユウヤもハルカもミキも、みんなが盛り上がった。もちろん、俺も加わった。いくつかの質問が飛び交い、誰が嘘をついているか当てる、というシンプルなゲームだった。


そして、俺の番が来た。早瀬美月が、俺をまっすぐに見つめて尋ねた。


「じゃあ、佐倉君。私に何か隠してること、ある?」


俺は一瞬、息を止めた。昨日までの俺なら、きっと適当なことを言ってごまかしただろう。だが、今朝の「右目」が、俺の心に重くのしかかっていた。俺は、早瀬美月の瞳を見つめ返して答えた。


「……ない、よ」


その言葉を聞いた早瀬美月は、ニッコリと笑顔を浮かべた。その笑顔は、いつもの可愛らしい笑顔とは違い、どこか冷たく、確信に満ちているように見えた。


「ダウト!」


その言葉が、俺の脳内に、雷のように響き渡った。やっぱり、何かおかしい。早瀬美月は、一体何を知っているんだろう? 俺の心には、得体の知れない不安と、謎が深まるばかりだった。

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