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9 殺合


 ステージの中央に向かう。

 道中、景色がほとんど変わらない。

 地面も緩急が無くずっと平だ。

 やはり、人工的に作った森だな。


 あれ以降、フォレスト・ウルフにも出会っていない。

 意図的に出現するタイミングを計られているかのようだ。

 魔物支配系スキルを持っているゴブリンでも居るのだろう。


 魔物が支配する魔物か……。

 人間が支配するよりも効率的に扱えそうだ。


「お、おい。無事だったんだな」


「ん?お前は……」


 後ろから話掛けられたので振り返ってみると牢屋で出会った男が居た。

 その姿は、既に満身創痍だ。

 左手首から下が無くなっており、回復魔法を使った跡が残っている。

 他にも顔に引っ搔き傷が斜めに入っていた。


 つまり、彼はフォレスト・ウルフと同格レベルということになる。


 それにしても酷い傷だ。

 四肢欠損レベルの回復となると上級、いや聖者でないと厳しいだろう。

 となると最低でも25Lvかつ僧侶系特化の職業構成じゃないと難しい。

 だが、スキルポイント振りができないこの世界では難易度が高いはずだ。

 それにたとえ、聖者を解放できたとしてだ。

 その後に聖者の<回復魔法>を解放するには、何ポイント必要になることやら。


「生きていたんだな。それにしても酷い傷だ」


「あぁ、囲まれてしまってな。お前は無事そうだが……」


 男が俺に疑いの目を向けてきた。

 俺が無傷なことが不思議らしい。


「運が良かっただけだ」


「そうか……」


 どうやら納得いかなかったらしい。

 相変わらず疑いの目を向けてきている。

 バレていないと思っているのか?

 

『経った今、全ての奴隷が解放されました!それでは、次のギミックに移りましょう!』


 大会実況者が丁度良く次のギミックを教えてくれるらしい。

 それにしてもさっきまで一切、声が無かったがステージ内では聞こえないようにしていたのだろうか。


『皆様お待ちかねのサバイバルフェーズに突入でございます!ルールは簡単、最後の5人になるまで殺し合うだけ!』


 ここからが本番か。

 今、何人生き残っているのか分からないがこれは少し時間がかかりそうだ。

 未だに目の前の男意外に遭遇したことは無いからな。


 まぁ、のんびりと行こうか。

 ひとまず、<索敵>をつか―――


「ん?これは……」


 生命反応がステージを囲うように現れた。

 それが徐々に縮小している。

 そのスピードは人が歩くよりも少し遅いぐらいだ。

 

 なるほど。

 強制的にステージ中央に集めようとしているのか。

 殺し合いを促すために。


「……協力しないか?」


「協力?」


 男が話しかけてきた。協力か。

 別にする必要は無いが、いつでも処理できる肉壁が手に入ったと思えば良いのか?

 だが、それぐらいしかメリットが思いつかないな。


「メリットが無い。俺は一人でも生き残れる」


「……国に帰る方法がある、と言ったら?」


「なに?」


 国に帰る方法か。

 船があるのか?それとも別の手段か?

 まぁ、何にせよこいつの存在価値が上がった。


「良いだろう。だが、先に教えろ」


「……分かった」


 男は素直に教えてくれた。

 どうやら捕虜になる前に軍と連絡することができる通信機を川に隠しているらしい。


 それにしても通信機か。

 EBには、そんな要素は無かったはずだ。

 そもそもチャット機能があったからな。

 ということは、この世界独自の技術か。


 まぁ、何にせよメリットを提示してくれたんだ。

 殺すのは止めておこうか。


「分かった。それなら協力しよう。それで、これからどうする?」


「そう、だな。ひとまず、森を脱出しよう」


 森を脱出?

 何を言って―――あぁ、そうか。

 こいつは、ここがステージ上だということを知らないのか。

 つまり<索敵>を持っていないということか。 

 下級冒険者のスキルなのだが、持っていないとは珍しい。


 まぁ、いいか。

 こいつに情報を渡す必要も無い。

 一緒に行動するだけでこいつにとってはメリットだろう。


「先頭を頼む……」


「了解した」


 男の指示に従い前を歩く。

 まだ信頼も信用もしていない相手に背中を預けるなど油断大敵かもしれない。

 だが、こいつの現状を客観的に判断すると俺以下のレベルであることが分かる。


 まぁ、つまり。

 警戒する必要は無いということだ。






 数分間歩いたが、特に異常は―――


「……待て」


「どうした?」


 俺が足を止めると男も足を止めた。

 男が俺に対して訝しむような目を向けた。


 はぁ、お前を思って足を止めたというのに。


「おい、いい加減―――」


「死ね!」


 男の後ろから別の男が飛び出してきた。

 そのまま別の男―――ややこしいから敵Aとしよう。

 敵Aは男に向けて剣を上段から振り下ろした。


 このまま行けば、男は無事に真っ二つになってこの世と別れることになる。

 男を見ると完全に不意打ちだったことが分かる表情をしており、反射的に腕を顔の前にクロスして守ろうとしていた。


 はぁ、戦力の充てにしていなかったが、ここまで足手まといとは。

 正直、このまま見捨てた方が楽だ。

 だが、生かすと決めたのならそうしよう。


 瞬きの瞬間で考えながら敵Aの上段からの攻撃を剣、ではなくそこら辺に落ちていた木の棒で受け止めた。


 驚く敵Aと男。

 それもそうだろう。

 ただの木の棒と剣で鍔迫り合いができているという摩訶不思議な状態だからな。

 それに敵は、勢いが乗った振り下ろしだ。

 敵Aの驚愕は尋常じゃないだろう。


 だが、安心して欲しい。

 木の棒は何処まで行っても木の棒だ。

 一瞬は耐えられてもその後は無理だ。

 ほら、木の棒が相手の剣に押し負けて折れそうになっている。


 敵Aも驚愕していたが木の棒を改めて見た後、嘲笑した。


 まぁ、それが命取りになるんだがな。


「ぐがっ……」


 敵Aが嘲笑したタイミングで拳を握り一気に間合いを詰める。

 そしてねじ込むように鳩尾をぶん殴った。


 敵Aは口から吐瀉物を撒き散らしながら大木にぶつかった。

 近づいてみると当たり所が悪かったのか、頭から血を流しながら地面を眺めていた。


 俺が近づいても一切、反応が無い。

 恐らく、気絶状態に近いのだろう。

 腹を貫通させる勢いでやったのだが、上手く行かなかったな。

 やはり、格闘系の職業を取っていないからだろう。


「うっ……ぐ、ぅ……っ!」


 こいつ、生きていたのか。

 呻き声を発したかと思えば、いきなり血が混じった吐瀉物を地面にグシャリと落とした。


 汚ね……。

 ゴブリン部隊の隊長みたいに拷問しようと思ったが、近付きたくないな。

 このままにしても生き残ったフォレスト・ウルフの餌になるだろう。


 問題無いか。


「さて、行くぞ」


「あ、あぁ……」


 男が怯えながら頷いた。

 はぁ、お前のために動いたのにドン引きするのか。

 全く―――


「鬱だ……」



★★★



「っ!これは……」


 森から脱出しようとしていた俺たちは、現在、茂みに隠れてとある場所を観察していた。

 統一された防具とロングソード。

 まるで軍隊かのように整列しながら森を囲うように展開している彼ら―――ゴブリンを。


 どうやら<索敵>で判明した謎の生命反応は、ゴブリン軍による包囲だったらしい。

 ゴブリン軍は一歩一歩少しずつだが、森の中を進行している。


 男を見ると話が違うと言いたげな表情をしていた。

 このままこいつの絶望に付き合うのも良いが、それだと大規模戦闘は避けられないだろう。

 別に俺は問題無いが、こいつは死ぬだろうな。

 さて、どうしたものか。


「森の中へ帰ろう……」


「いいのか?」


「良くない……が、仕方が無いだろう」


 中央に戻るのか。

 それもありだが、もっと良い方法があるな。


「その前に少しあいつらを観察してみろ」


「観察?それをして一体何が―――」


「良いからやってみろ」


 ゴブリン軍を観察するように伝えたが、男は恐怖に溺れ視線を彷徨わせていた。

 はぁ、何やってるんだか。

 面倒だから教えるか。


「もういい。あいつらは一定の速度で行進している。つまり、あいつらに追いつかれず森を移動すれば、実質、前方のみを警戒すれば良いことになる」


「な、なるほど……」


 男は納得がいったかのような表情をした。

 そしてゆっくりと森の中を再び移動し始めた。






 ゴブリン軍に追いつかれずに、だが他の奴隷に見つからずに森の中を慎重に移動していると宝箱のような物を見つけた。

 宝箱は、木に括り付けられており3つの錠前が付けられていた。


「お、おい」


 俺が宝箱に触れようとしたら男が止めてきた。

 以前にも似たような経験があるな。

 その時は、咄嗟に体から引き離したがそれが原因で死んでしまった―――いや、俺は悪くないな。


 とりあえず、男を無視して宝箱に触れる。

 普通の木でできた宝箱だ。

 それにしても鍵か……。

 もしかするとフォレスト・ウルフに括り付けられていた鍵だったのだろうか。


 それならまだあるぞ。

 12本もあるから邪魔だが、この時のために準備していたんだ!

 ……まぁ、嘘だ。


 鍵を3本用意して錠前に入れ鍵を開け―――


「開かない……。この2つ、違うのか」


 1つは問題無く開いた。

 だが、残りの2つは鍵が入らなかった。

 宝箱を前にして開けられないとは……。


 RPGの主人公であれば諦めるのだろうが、俺は違う。

 立ち上がり勢いよく宝箱に向けて踏みつける。

 木の宝箱は、炸裂音と共にバラバラに砕け散った。


 中には、ロングソードがあった。

 西洋剣だ。

 さっき襲って来た敵Aの武器と同じだ。


 なるほど。

 疑問に思っていたが、どうやらあいつは宝箱から手に入れたらしい。


 これで2本か。

 1本は連れに渡しているからこれで両方とも武器有りだ。

 これはかなりリードしているのではないだろうか。


「待たせたな」


「い、いや、いい。それにしても……」


「なんだ?」


「……何でもない……」


 男が何か言いたげにしていたが無視する。

 どうせ化物だの言ってドン引きするのだろう。


 俺からすれば、お前たちの弱さにドン引きなんだがな。

 別にバトルジャンキーとかではないが、互角な戦いをしてみたいものだ。

 今のところ、雑魚に無双しているだけで張り合いが無い。

 まぁ、あまり高望みはしないでおこう。






 同じペースでステージを歩いて行く。

 さっき襲撃してきた敵A以来、一度も人間と遭遇していない。

 それにフォレスト・ウルフもだ。


 既にゴブリン軍による包囲は、俺の<索敵>に円状に表示されるぐらいまで縮まっていた。

 つまり、この範囲内に全ての奴隷が居るということになる。

 これから5人に絞られるまで殺し合いをするのだろう。


 後ろに居る男は、さっきから表情が悪い。

 ブツブツと呟いては、剣を見て俺を見ている。

 正直言って気持ち悪いな。

 極限の状態で精神が病んでしまったのかもしれない。


 まぁ、どうでも―――


「おっと」


 頭上から3本の矢が飛んできた。

 それらは、真っ直ぐに俺たち、というよりも俺へと飛んでくるが、途中で1本だけ軌道がズレ剣の間合いから微かに外れた。


 上手い。

 下級弓士の<連狙撃>で対応させる矢の数を増やし、<軌道補正>で本命を狙ったな。

 だが、これはEBで何度も経験済みだ。


「<空気斬>」


 剣から不可視の斬撃が飛ぶと刃となって矢を粉々に粉砕した。

 <空気斬>は、上級剣士のスキルであり剣士系職業での数少ない遠距離攻撃だ。

 火力良し、射程距離良しの優れものだが、魔力消費量が大きいことが玉に瑕だ。

 まぁ、それでも数十発は連発できるが。

 魔法と比べて剣士のスキルは必要魔力が少ないからな。


「ちっ……」


 俺の近くの木から人影が移動する音が聞こえた。

 そこを見ると誰も居ない。

 恐らく、木から木へと忍者みたいに移動しているのだろう。


 <索敵>を使ってみると凄い勢いで距離を離しているのが分かる。

 恐らく、奴隷の前は優秀な斥候だったのだろう。

 まぁ、俺もやろうと思えばレベルの暴力でできる。

 木が耐えられることが前提だが。


 まぁ、何にせよ。


「<空気斬>」


 これで終わりだ。

 正確無比な<空気斬>が弓士に当たった。

 次の木へと渡るタイミングだったのだろう。

 胴体が二つに分かれて尚、空中を飛んでいる。


 二つに分かれた体からは血や臓器といった物が雨のように降り注ぐ。

 

 いくら優秀な斥候であろうとレベル差があれば意味は無い。

 現に俺の<空気斬>を避けることができなかった。

 悲しい現実だ。


『そこまで!奴隷諸君、興奮をありがとう!君たちのおかげで会場は大盛り上がりだ!』


「くそ……。どうせ俺たちを馬鹿にしてるんだろ……」


 後ろにいた男がそう呟いた。

 そういえば、こいつらとゴブリンの言語は違うのだったな。


 おや?

 そうするとあれか?

 何故、俺が人間を殺しているのか分からないということか?

 つまり、こいつ目線で言うと俺は仲間殺しの大罪人なのかもしれない。


 いや、でも俺から襲ったわけでは無いからな。

 ……これ、俺が悪いか?


『次が最後のギミックだ!奴隷ども、これを乗り越えれば自由だぞ!』


 どうやら次で最後のギミックらしい。

 だが、それを理解できるのも俺だけだろう。

 連れの男は、どこからともなく響く声に警戒しながら剣を構えていた。


 それにしても俺とこいつ含め、5人しか居ないのか。

 一体、最後のギミックとやらは何な―――


『先の人間との戦争における英雄!ゴングの登場だぁああああ!!!』


『うぉおおおおおお!!!』


 英雄ゴング?

 聞いたこと無い名だが、ゴブリンたちの反応的にとんでもない奴なのだろう。

 実況が英雄と言っていたし。


「おい、何かとんでもない奴が現れ―――」


 俺が連れの男に話しかけた瞬間、上空から何かが飛来し地面を揺らした。

 地面に激突した時の衝撃波により木々が揺れる。

 着地点と俺たちの距離は、離れているとは言わないがそれでも距離は有った。

 なのにここまでその衝撃波が来た。


「掛かって来い、人間ども」


 小さな声、だが確実にこの場に居る者達を震え上がらせる程の圧力だ。

 後ろに居る連れの男がビクビクしながら頭を抱え地面に伏せている。


「おい、大丈夫か?」


「あ、あいつだ。あの声だ……。あいつが来てから戦場がおかしくなったんだ……」


 パニック状態じゃないか。

 支離滅裂だったが、何とか聞き取れた情報によるとこいつが先の戦争大敗の原因らしい。


「……出てこないのか。それならこちらから攻撃させて貰うぞ」


「ッ!避けろ!」


「<風衝拳>」


 先程とは比べものにならない規模の衝撃が襲って来た。

 辺りを見渡すと木々の中央が丸い何かで抉られたような跡があった。


 <風衝拳>か。

 上級拳士のスキルだ。

 上級剣士の<空気斬>に対応するスキルだが、俺はあんな風に高威力を出せない。

 これはスキルの特徴的に仕方が無いだろう。


 俺の<空気斬>は、早さと鋭さが武器だ。

 一方の<風衝拳>は火力と規模だ。

 だからこそ見てから避けることができた。


「出てこい。強き者よ」


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