8 大会
数分ぐらい歩いただろうか。
階段を上った後、馬車に乗ると思ったが、馬車に乗らずそのまま城の中を移動していた。
途中で芝生のようなところを通った。
今は、砂利道を歩いている。
「ここからは一人で行け」
「……分かった」
目隠しされたまま紐を離された。
ここからは一人か。
真っ直ぐ進めばいいのか?
壁伝いに歩いて行く。
おっとT字路か?
壁が途中で無くなっているのが分かった。
とりあえず、T字路なのか確認するために前へ進む。
だが、一向に壁にぶつからない。
どういうことだ?
うーん、分からん。
<索敵>使う―――
『レディース・アンド・ジェントルマン!今日は、奴隷闘技大会にお集まりいただき誠にありがとうございます!』
『うぉーーーーー!!!』
いきなりなんだ?
びっくりして肩が動いてしまった。
それにしても声が響いていたがマイクでもあるのか?
まぁ、それは置いておこう。
ひとまず何を言っているのかは理解できた。
どうやら俺は、今から奴隷闘技大会なるものに出場することになっているらしい。
『今回の参加人数は、な、な、なんと100名以上!大会史上、最大規模でございます!お集まりの皆さまは、誰に賭けたのかお間違いないようにお気を付けください!』
なるほど。
俺、じゃないか。
俺たちの成績を予想して賭けるらしい。
というか、今ここに奴隷が100人以上も居るのか。
捕虜にされ過ぎじゃないか?
それとも噂の戦争よりも前から人間の奴隷が居たのか?
EBでは、人間は種族レベルを振る必要が無いから多種多様な職業スキルにスキルポイントを割り振れた。
その影響で無限に等しいスキル構成を作ることができたのだ。
そのため上位のプレイヤーはほとんど人間の場合が多い。
その代わり、一番分厚い中堅層はスライムやゴブリンといった魔物種がほとんどだったが。
まぁ、何にせよ人間ってこんなに弱かったんだな。
他の人間プレイヤーが聞いたら情けなくて泣くんじゃないか?
俺はどうでも良いが。
本当に仲間意識が俺には無いんだな。
『それでは、スタートと言いたいところですが。ここで、何人かの参加者に意気込みを聞いてみましょう!』
エンターテイナーだな。
場を和ませる力を持っている。
それに、奴隷たちにインタビューすることで緊張をほぐしているのか。
「た、頼む。助けてくれ。そこに居るんだろう?なぁ、頼むよ。実家に寝たきりのお袋が居るんだ……頼む……助けてくれ……」
『うんうん、相変わらず何を言っているのか分かりませんね!彼ら人間は私たちのことを蛮族と呼ぶそうですが、ギャーギャー騒ぐだけの彼らの方が蛮族なのではないでしょうか!』
ちょっと待て。
こいつ、今何て言ったか?
……確かめよう。
『おっと!自分からアピールする愚か者が居るぞー!続いてはこの蛮族に聞いてみましょう!』
「さっきの賭けだが、俺自身にも賭けられるのか?」
『おーと、これは珍しい!ゴブリン語を習得している者が居るとは!惜しいですねー。女であれば数年は生きられるというのに。勿体ない……』
ゴブリン語だと……?
俺は今までゴブリン語を話していたのか?
いや、牢屋に居たお隣さんには言葉が通じていた。
俺は多言語理解を取っていないはずだ。
EBの世界観を考察するためだけに用意されていたお遊びスキルを取る余裕など無いからな。
ソロプレイの俺には。
ということは転移者特典のようなものか。
それ以外考えられない。
それにしてもこいつ、話が通じてないな。
俺は自分自身に賭けられるかを聞いたのだが。
突然惜しいだの、女であればだの言いやがって。
「おい、話を聞け。どうなんだ?」
『質問に答えよう!イエスだ!精々足掻いて見せろ!それではスタート!』
唐突に始まったな。
俺への賭けは成立してるんだろうな?
必ず取り立てるぞ。
とりあえずどうするか?
今の状態は、牢屋に居た時と同じなんだが。
『最初のギミックは、迫りくるフォレスト・ウルフだーッ!首に枷を外すための鍵が括られているぞ!奴隷どもは勇敢に立ち向かうのだ!』
どうやら鍵が向こうから来てくれるらしい。
だが、この状態で探すのは難しい。
目隠しされた状態だから五感が研ぎ澄まされ、といった感じでも無い。
いや、多少は聴覚が研ぎ澄まされている気がするが。
<索敵>を使っても意味は無いだろう。
人、というより観客のゴブリンが多すぎるからな。
<索敵>の範囲を変更できたらいいが、そんな技術は持っていない。
つまり聴覚と触覚を頼りにどこから現れるか分からないフォレスト・ウルフを警戒しなければならない。
難易度高すぎじゃないか?
……まぁ、全部脳筋で突破できそうだが。
「グルルゥ……」
前方からフォレスト・ウルフの唸り声が聞こえた。
あれこれと考えている内に距離を詰められていたらしい。
さてと、どうやって対処すべきか。
地面を強く蹴り上げる音が聞こえた。
恐らく俺目掛けて突進しているのだろう。
「グルォ!」
おっと。思ったより衝撃が来た。
身構えていたが、びっくりしてしまった。
だが、これで正確に攻撃することができる。
フォレスト・ウルフの首を手枷の鎖で括り付ける。
そして一気にバックドロップだ!
俺の後ろの地面に亀裂が入った音と衝撃が伝わった。
フォレスト・ウルフの反応は無い。
どうやら今の一撃で死んだらしい。
ふぅ、これで枷が外せるな。
確かフォレスト・ウルフの首に―――
「グロゥ!」
「ッ!」
伏兵か?
後ろから鋭い何かで襲撃された。
ダメージは無いが背中が寒い。
さっきの攻撃で服が破けてしまったらしい。
足に括りつけられている鉄球を力の限り振り切る。
風が張り裂ける音と共に肉が破裂した音が聞こえた。
無事に2体目のフォレスト・ウルフを殺せたらしい。
鉄球はそのまま勢いが衰えることなく、俺の背中にぶつかって粉々に砕けた。
はぁ、モーニングスターみたいな武器にしようと思ったんだけどなぁ……。
仕方ないか。
それにしても最初に殺したフォレスト・ウルフが陽動、後ろから攻撃してきた個体が本命、だったのだろうか。
そういえばEB時代でも複数で出現していたっけ?
序盤の魔物のイメージが強かったから忘れていた。
まぁ、何にしても殺すことには成功した。
死体をまさぐると確かに鍵があった。
上手くやりながら手枷を外した。
1日ぶりに手が自由になった。
何というか、今の俺なら転移直後よりも動ける気がする。
気がするだけでレベルは上がっていないが、多分。
目隠しも外せる。
眩しいな。
「というか、森か?ここ」
辺りを見渡すと森に囲われていたことが分かった。
全く気が付かなかった。
<索敵>を使ってみる。
俺を中心に生命反応が手に取るように分かる。
<索敵>範囲のギリギリに生命反応が密集している。
恐らく、奴隷闘技大会の観客だろう。
つまりここは森の中ではない。
森林に特化した闘技場なのか?
だが、そんなコアなジャンルのために用意するのか?
それとも今日のために木を植えたのだろうか?
だが、それだと木の成長スピードが異常すぎる。
もしや、木の成長を促す魔法でもあるのだろうか?
「グルルゥ……」
いつの間にか10頭のフォレスト・ウルフに囲まれてしまった。
先程の戦闘を見ていたのか、どいつも直ぐには攻撃してこない。
はぁ、武器があれば<空気斬>が使えるが……。
無手はなぁ。
拳士系スキルを取っておけば良かっただろうか。
ここで剣士特化にした弊害が出るとは……。
まぁ、レベル差でどうにでもなるだろうが。
さっきのフォレスト・ウルフと戦ってみた感じ大分、レベル差があるのは分かった。
こいつらのレベルがどれくらいか分からないが、さっきの奴らと変わらないだろう。
それにしても50Lv程度で既に敵無しなのだが、この世界のレベルは低いのだろうか。
ステータス表記があればレベル表示もできたのだが……。
「おっと」
考えている内に前方を塞いでいた2頭が咆哮しながら突っ込んで来た。
さっきの戦闘から推測すると恐らく陽動だ。
前に気を取られている内に後ろから攻撃する算段だろう。
実に良い連携だ。
この数に囲まれたらこの大会に参加しているほとんどの奴隷は死んでしまうのではないだろうか。
前方2頭との距離を鼻先まで引き付ける。
そして1頭に頭突きをお見舞いし、もう1頭に右ストレートをぶつけた。
どちらも地面が陥没する勢いで叩きつけた。
続けて後ろを見ずに回し蹴りをした。
複数の肉が抉れる感触があった。
確認すると3頭、これで残り5頭だ。
よし、次―――
「ガウゥ!」
「ッ!」
後ろから強い衝撃を受けてしまった。
振り返ると周りの個体よりも一回り大きいフォレスト・ウルフだ。
この群れのボスだろうか。
「グルォ!」
残りの4頭が後ろから四肢に噛みついてきた。
そしてボスが俺に向かって口を大きく裂けながら突進して来る。
だが、こいつらの快進撃もここまでだ。
右腕と左腕に噛みついてきたフォレスト・ウルフを逆に手で掴み二刀流のように持つ。
そしてボスに向けて左右から挟むように横に一閃。
そのまま少しジャンプし、両足に噛みついてきた2体の体を踏み潰した。
「ふぅ……」
ボス含めて群れ10体、合計で12体討伐完了、っと。
鍵も12本か。
ひとまず、集めておこうか。
もしかすると誰か助けるかもしれないからな。