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7 奴隷



 宿屋の前で拘束されてから10分後、牢屋を荷車に乗せた馬車がやって来た。

 それまでの間、宿屋の主人を亡くした恨みだとか何とか言ってメスゴブリンが殴ってきた。

 だが、そいつの拳が壊れるだけで顔が返り血で汚れてしまった。

 全く、無駄な努力だと知れ。


「乗れ」


「衛兵さん……。主人の、主人の仇をどうか……」


「……出せ」


 やっと出発か。

 雌ゴブリンが殺意の籠った目で俺を睨みつけている。

 はぁ、どうしてそこまで激情に走れるかな。

 逆に関心できるわ。

 羨ましい。

 俺も親しい奴が殺されたらあんな感じになるのか?

 いや、無いな。

 現実世界でもそうだったし。


「それにしても遅ぇな」


 万全を期してか衛兵の歩くスピードに合わせて馬車が動いている。

 まるで来賓を迎え入れるかのようだ。

 俺の場合、全くの逆の立場だが。


 うーん、別に脱出するのは簡単だ。

 腕に枷と足に鎖付き鉄球があるが、こんなもの俺に意味は無い。

 武器と無限鞄は取り上げられているが、檻の鉄格子も握力で捻じ曲げれそうだ。


 まぁ、このまま城まで案内してくれるらしいからそのままにしておこう。

 きっと城には、レアアイテムがあるはずだ。

 ワクワクするなぁー。


「止まれ」


 おや?

 城門の前で止まったぞ。

 そのまま牢屋まで連行されるもんだと思ったけど……。

 ここでタクシーは終わりか?


 馬車を率いていたゴブリンが門兵と話している。

 遠くて会話が聞こえないが、衛兵の話を聞いた門兵のうちの1体がこちらを鬼の形相で見つめてきた。

 大股で俺に近づいてくる。

 何だ?やるのか?


「こいつの顔……間違いない。俺の親友と同じだ!誰だテメェ!」


「何を言ってるんだ?」


 どうやらゴブリンスーツの顔部分を担当した都市の門番ゴブリンの友達だったらしい。

 はぁ、流石に誤魔化しは効かないか。

 衛兵が俺の首辺りから皮膚を掴んでフェイスを脱がした。


「ふぅー、血生臭いな。やっと新鮮な空気が吸える」


「テメェ!」


「待て!」


「クソ、離せよ!」


 久しぶり、と言っても数時間ぶりの新鮮な空気を堪能していると門兵のゴブリンが俺に襲い掛かって来た。

 だが、衛兵に羽交い絞めにされ悔しそうに顔を歪めた。

 元から顔が歪んでたから逆に良くなったんじゃないか?


「貴様、人間か。詳しく聞かせてもらおうか」


「分かった」


 馬車に積まれた牢屋から出た後、衛兵に連れられて入城した。



★★★



 城に入った後、目隠しをされて地下室のような場所に連れられた。

 石レンガで囲まれた部屋。

 壁には、拷問道具と思わしきものや、手錠、足枷等様々ある。


 扉の前には、フル装備のゴブリンが2体入口を守っている。

 そして俺の目の前にも1体。

 こいつは、他のゴブリンとは違い貴族のような服を着ている。

 恐らく領主もしくはこの城の重鎮だろう。


「さて、尋問を開始しようか。早速だが、お前は人間の国の者だな?目的は何だ?」


 そんなこと言われても答えられない。

 人間の国に行ったことが無いからな。

 だが、何か言った方が良いだろう。

 何か自然な形で……。


「目的、だと?そんなもの決まってる。亡き同胞の無念を晴らすためだ!」


 最近、戦争があったらしいからその時に友を亡くした奴を演じてみたんだが……。

 少し棒読みだっただろうか。


「全く、人間とは愚かな生き物だ。そうやって何人もやってくるのだから」


 おっと。

 どうやら上手く誤魔化せたようだ。

 それに俺みたいな奴が何人も居るのか。

 なるほどね。

 どうやって川を乗り越えたのか疑問だが。

 <飛行>か?それとも船か?

 どっちにしても渡る手段があるらしい。


「まぁ、丁度良い。新しい剣奴を補充しようと思っていたところだ。そこで存分に殺し合うが良い」


 そう言うと豪華な服を着たゴブリン、面倒だから貴族ゴブリンとするか。

 そいつとドアマンのゴブリンが出て行き鍵を閉めた。


 独りぼっちになった。

 手枷と鉄球付き足鎖はそのままで。


 どうしようか。

 貴族ゴブリンは俺を剣奴にすると言っていたが、別に従う必要は無い。

 なんならこのまま脱出して城の中身を根こそぎ持ち帰るのも良い。


 うーん。

 まぁ、明日のことは明日の俺に任せよう。

 

 何しろ今日は色々あったからな。

 この世界にやってきてゴブリン部隊と相対して。

 人間の国に行こうと思ったら攻撃されるし。

 ゴブリン都市に入ったけど今、牢屋に居る。


 本当に1日とは思えない濃い内容だな。

 明日も楽しみだ。



★★★



「起きろ」


 どうやら朝になったようだ。

 牢屋の外からゴブリンの声が聞こえた。  

 いつの間にか眠っていたらしい。

 俺的には精神的疲労が少しあったぐらいで肉体的には疲れていなかったのだが。

 まぁ、およそ50Lvプレイヤーでも眠れることが分かったのは良いことだな。


 向こうからドアが開いた。

 俺が開けなかったから開けてくれたのか?

 優しいじゃないか。


 ゴブリンがお椀をドアの前に置いた。

 何これ?

 シチューみたいなものだけど。


「飯だ。食え」


「……いらん」


「ふん、そうか。好きにしろ」


 ドアを閉めて出て行った。

 おいおい。それだけか?

 てっきり剣奴として対戦するのかと思ったが……。

 暇だ。あまり待たせるとここを戦場にするぞ?


「なぁ、要らないなら俺にくれないか?」


「ん……?」


 おや?

 隣りの牢屋から男の声が聞こえた。

 どうやら隣にも住んでいる奴がいるらしい。

 ご近所付き合いは大事だからな。

 このシチューなのか分からない物を処理できるならそれで良い。


「あぁ、やるよ」


「ありがてぇ」


 隣りの鉄格子から手が出てきた。

 人間だ。

 ゴブリンみたいに緑色じゃない。

 ここは、人間用の牢屋なのか?


 お椀を隣りに居る人間に渡した。

 お隣さんは、受け取るとクチャクチャ音を立てながら食い始めた。

 はぁ、行儀がなってないな。


「ありがとう、助かった」


「そうか。それよりも聞きたいことがある。お前は、ここに来てどれくらいだ?」


「……分からない。恐らく60日は過ぎている」


「60日……?」


「そうだ」


 いや、そこじゃない。

 なんでこいつは、2か月と言わなかったんだ?

 EBプレイヤーが居るなら暦ぐらい輸入してるだろうと思うのだが。


 この世界には、信じられない程強い超越者と呼ばれる奴らが度々、現れるらしい。

 そいつらがプレイヤーだとすれば、過去にも転移したことは確実。


 うーん。過去と言ってもここ最近、現れ出したのか?

 だが、超越者は古くから居たらしい。

 分からなくなってきた。


「どうした?」


「いや、何でもない。ところで何でお前は捕まってるんだ?」


「……この前の戦争の捕虜だ」


 どうやらこいつは、噂の戦争に参加していたらしい。

 ということは人間の国について知っているということだ。

 ようやく情報源に出会えた。


「そうか。俺も似たようなものだ。昨日まで森の中に居たんだがな。見つかってしまった」


 うん、嘘ではない。

 ただ望んでここに来たという但し書きが付くが。


「森に?!」


 おい落ち着けよ。

 今、ガツンって大きな音が響いたぞ。

 こいつ、思いっきり鉄格子に頭を打ち付けたんじゃないか?


「静かにしろ!」


 ほら看守に注意された。

 はぁ、連帯責任でも負わされたらどうするつもりだ?


「まぁ、落ち着け。連帯責任にされたらたまったもんじゃないからな」


「あ、あぁ。すまない。……ところで森から来たというのは本当か?」


「あぁ、そうだ」


 そう言えば、俺が森から来たと聞いて大声を出した。

 そんなに驚くことなのか?


「森の中でアンナ……赤髪の少女を見なかったか?」


「すまんな。見てない」


「そうか……」


 そう悲しそうな声を出すなよ。

 まるで俺が悪いみたいじゃないか。

 というか誰なんだ?


「恋人か、何かか?」


「……そうだ」


 なるほど恋人ね。

 まぁ、死んでるだろうな。

 ここら辺はゴブリンが支配しているらしいからな。

 運よくゴブリンから逃げられても60日間もサバイバルできるのか?

 いや、この世界の人間ならできるか。

 なら希望はあるのかもな。


「アンナとは幼馴染なんだ」


「そうか」


 何か語り出したぞ。

 どうでも良い惚気話でも聞かされるのか?


「勝気の性格でいつも俺とぶつかって……。でもそうやって過ごす内にいつの間にか好きになったんだ」


 幼馴染か。

 俺にも似たような奴が居たがいつの間にか消えて行ったな。

 後から知ったが、どうやら俺に悪影響を及ぼすと考えて消されたらしい。

 その時は、クソ親父に殺意を抱いたが今となってはどうでもいい。

 思えばその時から感情が無くなって行った気がするな。


「―――傭兵として一緒にゴブリンとの戦争に参加した。俺たちが参加していた方面の戦いで負けてしまった。その時、アンナを逃がすために囮として捕虜になったんだ」


 いつの間にか話が終わっていた。

 すまん、半分以上聞いていなかった。

 だが、お隣さんが幼馴染を助け出したいという熱意は伝わった。

 まぁ、無理だろうが。


 よし、次は俺のターンだ。

 こいつから色々と人間の国について―――


「出ろ」


 これからというタイミングでゴブリンがやって来てドアを開けた。

 はぁ、それにしても早すぎやしないか?

 さっき飯を貰ったばかりだぞ。

 食べていたらどうするつもりなんだ?

 まぁ、こいつらには関係無いのかもしれないが。


 牢屋から出るとお隣さんも外に出ていた。

 腕を見た時は、気付かなかったが何日も飯を食べていないような貧相な体つきだ。

 牢屋に入れられてから満足に与えられなかったのだろう。


 何か喋ろうとした瞬間、お隣さんは目隠しをされて連れていかれた。

 あ、俺にも目隠しを付けてきた。

 それに手枷に紐を通された。


「付いて来い。……大人しく付いて来い!」


 ゴブリンが紐を引っ張っていることに気付かなかった。

 どうなっているか分からないが、ピクリとも動かなくて恐らく恥をかかされたとでも思ったのだろう。

 見たかったな。


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