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5 都市



 川での出来事から体感で3時間ぐらいだろうか。


 完全に日が暮れた。

 今日は月が出ていないため明かりが一切なく、手元も良く見えない。

 一寸先は闇とはこのことだろう。


 現在地が全く分からない。

 とにかく川から逆サイドに歩いていたつもりだが……。

 迷子になったようだ。 

 時々、<索敵>を掛けて生命反応を確認したが、何も反応は無―――


「ある。大量の反応が。隊長が言ってたゴブリンの集落か?」


 <索敵>に夢中になっているといつの間にか3,4メートルぐらいの立派な壁と対面した。

 この中から大量の生命反応がある。

 これまでの情報から察するにゴブリンの集落、いや生命反応の多さ的に都市といったところだろうか。


 スルーするつもりだったけど人間の国に入れなかったからな。

 少しお邪魔するか。

 不法侵入してもいいが、何もやましいことは無いから正面から行くか。


 壁伝いに歩いて行ったら入口に辿り着くだろう。

 お、噂をすれば何とやら。

 2体のゴブリンが門の入口を仁王立ちしていた。

 恐らく門兵だろう。

 それにしてもEBとは異なり、ゴブリンに社会性が生まれるとは。

 絶対、プレイヤーが関与してるだろ。


 はぁ、まぁいいや。

 宿屋に案内してもら―――


「おい、人間が逃げてるぞ!」


「まじか、バレたら殺される……。食べるか……」


「おっと」


 ゴブリンたちは何か呟いた後、俺に向けて剣を振り下ろしてきた。

 いきなり人に剣を向けるとは。

 親の顔が見たいな。

 

 それにしても一体どうしたのだろうか。

 ゴブリンと人間は敵対関係にあるのか?


 確かにゲームの時、狩りまくっていたけど……。

 はぁ、隊長に聞けば良かったなぁ。


「<斬撃>!」


「ッ!」


 危ないな。

 下級剣士スキルの<斬撃>か。

 どうせダメージ無しだろうけど受けてやる道理はないな。


 それにしてもこのゴブリンも弱い。

 やはり脅威なのは、プレイヤーと思わしき超越者と一部の高レベルの魔物だけだな。

 あとはこの世界独自の魔法や道具、未知の技術……。

 意外とあるな……。


 まぁ、ひとまずこの戦闘においては大丈夫だろう。


「この人間、武器を持ってやがる。それに中々戦闘ができるぞ。もしかして野良の人間か?」


「それなら生け捕りに変更だ。領主様に献上するぞ」


 攻撃の手が増えてきた。

 だが、その攻撃には先程のような殺意が込められておらず、ただ戦闘不能にしてやろうという意志を感じた。


 うん?待てよ。

 冷静に考えると何で俺は戦闘をしてるんだ?

 俺は宿屋を探しに来ただけだ。

 こいつらと戦闘する理由が無い。


「おい、俺は宿屋を―――」


「大人しく捕まっとけ!」


 俺の説得に対する答えは鉄の塊だった。

 補正スキルでも使ったのか、今までで一番動きの切れが良い。

 はぁ、何で話を聞いてくれないのかな。


「鬱だ……」


「うぎゃぁああああ!!!」


「お、おまえぇええええ!!!」


 こいつらは、俺を挟んで前後で剣を振り下ろしたんだ。

 だから俺が避ければこいつらが自滅するのは自明の理。

 ゴブリンたちは互いに左腕を斬り合った。

 剣が錆びていたのか、綺麗に切れ落とすことができず左腕が千切れていない。

 

 まぁ、何でもいいや。

 大人しくさせよう。


 こいつらの頭を切り落とし静かにさせた。

 だが、既に叫んだ後だ。

 他のゴブリンが来るのも時間の問題だ。


 その前にゴブリン都市で暮らすために必要なことを準備しよう。



★★★



「うっ、何だこれは……」


「……先輩、こっちの死体は顔がありません」


「他の魔物に襲われたのか……。俺たちを食うならトロールか……?とにかく門の警戒レベルを上げろ!」


「了解!」


 10体ほどが門から外に向かった。

 指示を受けたゴブリンが都市の奥、ここからも見える城のような建物へ走り出した。


 ふぅ、とりあえずバレなかったな。

 後は上手く行くかどうかだが……。


 バレたらその時だ。

 堂々と道を歩いてみるか。


「おい、あいつ」


「あぁ、デケェ。あれだと腕前も確かだろうな」


 通行人の何人かに恐怖の目を向けられたがバレなかった。

 ギリースーツならぬゴブリンスーツは成功したらしい。

 血抜きが完璧じゃないから血生臭いが、魔物を狩って来たという設定にしておこうか。


 うーん、それにしてもゴブリンだらけだ。

 あっちもゴブリン。

 こっちもゴブリン。

 こいつら狩り尽くしたらどれくらい換金できるのだろうか。

 気になるなぁ。


「お兄さん!休憩して行かない?」


「……離せ」


「きゃ……もぅ……」


 雌のゴブリンが俺の腕を胸に押し付けながら甘い言葉を囁いてきたが、一切ぐらりとも来なかった。

 それもそうだろう。

 こいつらは、雌といえどもゴブリンだ。

 醜くアンバランスな顔立ちに甘い言葉を囁かれたところで揺らぐはずも無い。

 雄のゴブリンが他種族を襲う理由が分かる気がする。


 それよりも天使の存在が気がかりだ。

 18禁の行動を取った場合に運営から派兵される天使たち。

 この世界ではどういった立ち位置なのか知らないが、天使は公式チートであり勝つことはまず不可能だ。

 そんな存在に襲撃されれば、100Lvプレイヤーどころの話じゃない。


 ゴブリン部隊を殺した後びくびくしていたが、一向に天使は降臨しない。

 この時点でグロ方面は大丈夫だと分かった。

 後の18禁行為はエロ路線だが……。

 先程の感覚的にしないようだ。


 つまりこの世界には天使は居ない、もしくは何らかの原因により降臨できない。

 そう願いたい。

 そうじゃなきゃ、対策できないからな。

 うん、これ以上考えるのは止めよう。


 おっと着いたな。

 ここが武器屋か。

 剣の看板が立って居る。

 他の建物よりも頑丈に作られており、外から中の様子が伺えない。

 ひとまず、入ってみようか。


 おぉ、いろんな武器が置いてある。

 剣に始まり斧、槍、弓。

 これはブーメランか?

 面白い武器だな。

 こいつは、二刀流用の短剣だ。

 ククリナイフもあるぞ!


 EBでは定石の武器から見たことが無い武器まで様々だ。

 ブーメランで剣士スキルを使ったらどうなるのだろうか。

 気になる。

 気になるぞ!


「おぅ、兄ちゃん。えらくガタイが良いがトロールの血でも混じってんのか?」


 武器を見ながら悶絶していると後ろからゴブリンが話かけてきた。

 職人用のエプロンを着ている。

 店主だろうか?


「あぁ、よく言われる。ところでこの店で一番良い武器を見せてもらいたい」


「それは良いが……。兄ちゃん、高すぎて多分買えないぜ?それに買っても武器に殺されるかもしれねぇぞ?」


「金は大丈夫だ。それに俺を他のゴブリンたちと同じにしないでくれ」


「お、おう。分かった。少し待っとれ」


 払えなかったら後日、改めて来るから大丈夫だ。

 勿論、強盗にだが。


 それにしても武器に殺される、か。

 呪われているのか?

 EBには無かった武器も出てきたし、あり得る話だ。


 数分経ってようやく店主が戻って来た。

 デカい木箱を携えて。


「こいつが俺の店どころかこの国で最もやべぇ武器だ」


 木箱の中には、一振りのデカい大剣があった。

 全身が黒一色で塗られたかのような大剣だ。

 装飾など一切無く一見するとただの鉄の塊に見える。

 やはり、ステータス画面が無いのは不便だな。


「これのどこが危険なんだ?」


「あぁ、それを今から説明する……見ていてくれ」


 店主が店の奥から錆びた武器を持ってきた。

 親指と人差し指の2本で持ち直ぐに手から外せるように持っている。

 一体何をするつもり―――


「ッ!これは……」


「あぁ、見ての通りだ」


 この武器、店主が持っていた剣を食べやがった。

 刃渡りの半分辺りが急に動き出し、真っ二つになったかと思うと切れたところから無数の尖った牙を生やして剣をむしゃむしゃ食った。

 

 鉄を咀嚼するとこんな耳障りな音がするのか。

 いや、そこじゃない。

 なんだこれ?

 生きているのか?


「生きているのか?」


「あぁ、自立し捕食する武器。銘を魔剣ベルゼビュートと言う。誰が作ったのか、誰が持っていたのか分からない。正体不明の武器だ。俺の親父から武器屋を受け継いだ時に初めてこれを知ったんだ。だから前の持ち主も分からない」


「そうか、試しに持ってみようか」


「お、おい……!」


 店主が何か言っているが無視だ。

 この武器、EBで言えば絶対レジェンダリー級の武器だろう。

 それを前にして待つなどできるはずも無い。

 そもそも俺の邪魔をする権利はお前に無い。


 俺を止める為か、店主は俺を羽交い絞めにして止めた。

 はぁ、面倒だな。

 だが、この武器を紹介してくれたんだ。

 一度は見逃すとしよう。


 脇の下から入れられた腕を掴む。

 そしてお辞儀をするように一気にしゃがんだ。


「う、ぐはっ」


「あ」


 吹き飛ばされた店主が剣棚にぶつかるとそこに並んでいた剣が店主の体に突き刺さった。

 まるで針山みたいだ。

 実際に見た事が無いから合っているか分からないが。


「あー、すまん」


 とりあえず言い訳をしたい。

 俺は殺すつもりは無かったんだ。

 体に張り付いたこいつを振り解きたかっただけだ。


 その後については知らない。

 こいつが勝手に剣棚にぶつかっただけだ。

 だから俺は悪くない。


 よし、言い訳終わり。

 いつまでも自分に時間を掛けられるのは店主も不本意だろう。

 生前、持ち主が現れないことを悩んでいたお前の無念、俺が晴らしてやる。


「ッ!……駄目か」


 ベルゼビュートの柄を握ろうとしたが、先程みたいに口を広げてきた。

 どうやら俺自身を捕食対象と見ているらしい。

 うーん、何とかして持ち帰りたい。

 どうすべきか……。


「あ、上手く行った」


 試しに無限鞄に木箱ごと入れてみた。

 生物は入らないから弾かれると思ったが、どうやら武器として認識したらしい。

 それなら悩む必要無かったな。


 はぁ、それにしてもこの大剣。

 コレクションとしてはありだけど武器として使えないなぁ。

 魔物使いの職業スキルがあれば、調教できたのだろうか?

 新たにスキルポイント振りができないの辛いな。


 まぁ、今は新しいコレクションが手に入ったことを喜ぼうか。


「店主、は死んでたか。しょうがない。剥ぎ取りだけやるか」


 お礼を伝えたかったが、既に息は無い。

 それなら供養の意味も込めて素材を剥ぎ取らせてもらおう。

 うーん、これで何体目だっけ?

 一文無しだから早く人間の国で換金したいな。


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