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3 初戦



 解体を終えた後、無限鞄に素材を入れた。

 ゲーム開始時の初期装備だが、これだけはいつまでも使い続けている。

 恐らく現実となったこの世界では、どのような仕組みでできているのだろうか。


 素材の血は?匂いは?時間経過は?腐るのか?現実となったのならどこまで収納できるのか?

 疑問は尽き無いが、今はそれよりもダンジョンから出ることが優先だ。


 来た道を戻る為に振り返ると空きっぱなしになっていたボス部屋の扉が見えた。

 黒竜との邂逅が衝撃的過ぎて開けっ放しにしていたのだろう。


 開いた場所から隙間風がこちらへとやって来る。

 洞窟型ダンジョン特有の冷えるような空気と咽びかえる程の濃い血の匂い―――


「なんだ、これは」


 扉の先には、ゴブリンやオーク、ウルフといった獣系の魔物がぐちゃぐちゃに混ざっていた。

 全て死体となって。


 文字通り山のように積み上げられた死体からは、大量の血が流れており俺のつま先にまで辿り着いた。


 黒竜の解体をしていたから体中汚れている。

 今更靴が血に濡れたぐらいで気にすることなど無い。

 そもそも人の生き死にを日頃から見ている身としては、別に精神を病むことも無いな。

 それはそれとして血の匂いはきついが。


 折角なら素材にしてやろうと思ったが、<解体>が反応してくれない。

 素材となる部分が無いということなのだろうか。

 スキル頼りの俺からするとスキルが無ければ、何もすることはできない。

 これは気を付けた方がいいかもしれないな。


 死体の山を横目に来た道を戻っていく。

 上ったり下りたり道なき道を歩いたりしたが、一向に疲れる気配が無い。

 46Lvいや、上昇しているだろうから50Lvぐらいだろうか。

 その程度のレベルでこれほどの恩恵を受けることができるのなら一体、100Lvならどれほどの―――


「100Lv……プレイヤー。他にもこっちに来た奴が居るかもしれない。居てもおかしくない」


 思いつかなかったのか、あるいは考えたくなかったのか。

 俺だけがこの世界に迷い込んだのだと決めつけていた。


 だが、俺だけなんてあり得るのだろうか。

 調査しない限り安心することなどできない。

 

 仮に転移条件が、EBを直前までプレイすることだとしよう。

 俺が黒竜のところに到着した時の時間は、19時頃だった。

 ステータス画面の時刻表だから間違いない。

 その時間帯は、丁度業務も終わり帰宅している頃だ。


 つまりもっとも同時接続数が多くなるタイミング。

 となると先程の条件だとかなりのプレイヤー、それも100Lvという俺よりも強者がこの世界へ転移してきたことになる。


 転移した後、目覚めたタイミングも分からない。

 俺と同じ時間に目を覚ました奴も居るだろうし、先に目が覚めた奴も居るかもしれない。


 クソ親父の束縛から解放されたと思ったら次は、100Lvプレイヤーを警戒しなければならないとは。


 全くもって―――


「鬱だ……。ん?気配?」


 向かい側から複数の気配を感じた。

 ようやく魔物のお出ましかと思ったが、じっくりと観察してみると地面をしっかりと踏む鉄の足音だということが分かった。


 それも重厚な装備をしていそうな重たい足取りだ。

 近づくにつれ、まるで隊列を組んでいるかのような足音だということに気が付く。


 このままだといずれ鉢合わせだ。

 隊列の足音からするとここの地域を治めていた領主の私兵だと思う。

 それ以外にここまでの軍勢は考えられらない。

 もしくはプレイヤーによる大規模レイドだが……。

 まさか、魔物が兵隊のように軍事行動をするとは思えないからな。


 ゲームの時と地続きだと考えれば俺がギルドから派遣されて戻ってこないから領主自ら調査しに来た、といった感じだろうか。

 今回のクエストの依頼主が分からないから何とも言えないが。


 とにかく相手の正体が確定していない状態で鉢合わせるのはまずい。

 どこかに隠れる必要があるが……。


「隊長、いかがなさいましたか?」


「人間の気配がしたのだが……」


「人間ですか?まさか、この辺りには居ないでしょう」


「そうだな。俺の勘違いだったらしい。それよりも食料の確保に向かうぞ」


「了解です」


 俺の真下で甲冑を纏った者たちが会話している。

 天井に張り付く虫の気分を味わえた。

 何とも不思議な感じだが、どうにかバレなかったらしい。


 だが、それにしても真下の奴らは、身長が低い。

 ドワーフと同じか少し小さいぐらいだが、彼らよりも痩せ細っている。

 ハーフリングか?

 だが、そのような種族は見たことが無いが……。


 それに会話の内容も不穏だ。

 人間が周辺に生息していないような言い草だ。


 地上は、魔物に支配されているのか?

 魔物プレイヤーが関与しているならあり得る話ではあるな。


 複数のプレイヤーが協力していたら面倒どころか絶望的。

 普段、抑圧されている下級民が制限無しに暴れまくっていたら地上は現実のように焼野原だろうな。


 まぁ、敵対したらの話だ。

 上手く上級民であることを誤魔化すしかない。

 それ以上に出会わなければ良いだけだ。


 今は大人しく真下に居る奴らを躱す―――


「なんだこの血の足跡は!」


「血の跡がここから先で無くなっている……。まさか、天―――ッ!?」


「あー、俺って抜けてるところがあるからな。やっちまった……」


「貴様、よくも俺の部下を!」


 隊長と呼ばれていた奴が叫んでいるが、感傷に浸らせて欲しい。

 俺を探している風だったから反射的に殺してしまった。

 殺すつもりは無かったんだ、って言っても意味無いか。

 俺の足元に居る奴は、真っ二つになっているからな。


 うん?

 甲冑が剝がれた場所をよくよく見るとこいつゴブリンじゃないか。

 小さい体と大きな頭。

 鼻がやたらとデカく目が鋭く尖っている、あのゴブリンじゃないか。

 俺の真下に居る奴は、自分の血で濡れて良く見えないが。


 なら、よし!とはならないよなぁ。

 ゲームとは異なりこいつらは言葉を発している。

 何かしらの通信手段で外部と連絡を取られてしまった場合、援軍が送られてしまう。


 まだスキルを完璧に把握しきれていない状況でそれはまずい。

 マジックポイントのステータスバーが見えないからどこまで魔法やスキルが使えるのかも未知数だ。


 はぁ―――


「鬱だ……」


「人間!生きては帰さんぞ!」


 未来への不安は一旦置いて戦闘に集中しようか。

 心配したところで意味無いからな。


 相手は五体、一体減らしたから四体のフル装備だ。

 速度が乗っていたとはいえ、ただの振り下ろしで真っ二つにできたことから装備のレアリティはこちらの方が上だろう。

 武器は長槍だ。

 リーチは負けているが、そんなものレベル差でどうにでもなる。


 うん、負ける要素が見当たらないな。

 それならスキルを使わずに戦闘を―――


「くっ……。避けられないように囲め!」


「なんだこれ?……ゴホッ」


 ポケットサイズの麻袋を投げられた。

 野球のように剣でそれを切り裂くと中から変な粉のような物が溢れ出し、俺の顔に降り注いだ。


 これは、香辛料か……?

 まぁ、何にせよ目くらましには丁度良かったのだろう。

 気付けば四方を固められている。


 鏡合わせのように綺麗に俺目掛けて突きを放った。

 連携が上手いな。

 だが、翻弄される程じゃない。

 俺とこいつらとのレベル差はかなりあるらしい。


「シッ!」


 俺の後方に居る隊長は無視して目の前の三体から放たれた突きを剣で横なぎに振るって弾き返した。


 筋力差もかなりの物だ。

 弾き返されたゴブリンたちは槍を勢いよく上に押し上げられたからか、後ろへ体勢を崩していく。


 ギャグかよ。

 まぁ、見過ごすわけでも無いが。

 そのまま横なぎにした剣を左手で握り直し横に一閃。


「ぎゃぁあああああああ!!!」


 時間差でゴブリンたちのはらわたがパックリと開いていく。

 切れ先から血が雫のように床に落ちていたが、だんだんと腹が裂けていくうちに夥しい量の血が溢れ出した。


 つまりもうお前は助からない。

 一度は言ってみたいセリフ第7位だ。

 嘘、適当だ。


「はぁ、はぁ、かぁちゃん……」


「戻さなきゃ……」


「……」


 一体は母親に助けを求めている。

 ゴブリンにも親子意識があったのか。

 こいつらの言う母とは人間の女のことか?

 興味深いな。

 もう一体は、あまりの痛さに脳がバグったのか、出てきた内臓を腹に戻そうとして手間取っている。

 臭い。

 こいつは素材にしたくないな。

 最後の一体は既に物言わぬ体になっている。

 つまらん。


 うーん、残酷な景色だ。

 現実でもここまでの物は見た事が無いが、全く持って心が痛まない。

 元の性格からある程度耐性は持っているつもりだが……。

 明らかに以上だ。

 もしかするとゲームアバターに影響しているのか?


 だが、俺の種族は人間だ。

 それなら現実世界とは変わらないと思うが……。


「ん?」


「クソッ!お前は何なんだ!」


 自分自身について考えているといつの間にか槍で頭を突かれていたらしい。

 だが、当たらなかったらしく隊長は俺を得体の知れない化物を見たような目をしてくる。


 耐性スキルの<下級物理耐性>だろうか。

 上級は取得できていないからそれ以外あり得ないが、それにしてもレベル差があり過ぎではないだろうか。

 もしかするとこいつらは、20Lvも無いのかもしれない。

 まぁ、こいつらから情報を抜き取ってから考えるか。


「ひっ―――がっ!」


「色々と教えてもらおうか。まぁ、助からないのは分かっているだろうが一撃で殺してやる。どうする?」


「誰が、お前なん―――ぐふっ!」


「分かったか?」


「はぁ、はぁ。うるせぇ―――ぎゃっ!」


 はぁ、聞き分けの悪い奴だな。

 フルフェイスの間からこいつの血がタラタラと流れてくる。

 恐らく仮面の中は、ぐちゃぐちゃのシチューの状態かな?

 きたねぇな。


 面倒だが、情報を吐くまでやるとするかぁ。



★★★



「こ、ろし、て。ころし、て……」


「あぁ、お望み通りに」


 結局、あれから1時間はかかったのではないだろうか。

 魔物のくせに仲間意識が強く情報を吐き出させるのに苦労した。

 いや、魔物だからこそ仲間意識が高いのかも?

 人間よりも同族意識が強そうだし。


 まぁ、口は堅いが体は柔らかい。

 何度も体を切り落としては回復魔法で治癒させた。

 拷問の末、隊長の身体は右腕と左足が無くなってしまった。

 こいつも素材にはならないな。


 集めた情報をまとめるか。

 分かったことは、レベルやステータスの概念が無いこと。

 プレイヤーについては知らないが、超越者と呼ばれるとんでもない強さを持っている魔物や人間が居ること。

 他にもここら一帯は、ゴブリンの親玉が支配していることや少し離れたところに人間の国があること。


 これぐらいか?

 全く使えん奴だったな。

 うーん、どうするべきか。

 俺の人生目標によって取るべき行動が変わるが……。


 クソ親父から解放されたことでゲームの目的も無くなってしまったな。

 今が現実になってしまったせいで煩雑な仕事に追われることも無いし、跡取りとしてのプレッシャーも無い。

 まさしく自由だ。


 それなら人間の国で適当にのんびり暮らすのも良いかもしれない。

 逆に世界中を旅するのも面白そうだ。


 実質、全ての時間をゲームに充てられるこの状況ならレアリティの高いアイテムや武器等を集める。

 レベルをカンストさせる。

 これらも目指せそうだ。


・世界旅行

・アイテムコレクション

・レベルカンスト

 よしこれを目標にしようか。


 うんうん、未来は明るいな。

 そうと決まれば、こいつらの装備も集めとくか。

 記念すべき初めてのドロップアイテムだからな。


 俺が付けた剣の切り傷が残っているが、これも勲章として良い味だろう。

 だが、この血は要らないな。


「<ウォーター・ボール>」


 下級魔術師の<水弾>を使ってみたが、どうやら上手く行ったらしい。

 甲冑に付いていた血が綺麗に洗い流された。


 それにしても魔法か。

 俺の職業スキル構成は、剣士でソロプレイができることをコンセプトに組んでいるから魔法は下級までしか取れていない。


 この機会に上級まで取ってみるか?

 あ、そうだった。

 選択画面が選べないから新しくスキルが取れないのか……。

 ということは、レベルが上がるだけでスキルポイントを振ることができない……。

 はぁ、鬱だ。


 今は新しいアイテムが手に入ったことを喜ぼう……。

 うん、喜ぼう……。




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