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第四話 光の子

「えっ……もしかして、ホタル?」


 氷の粒のほとんどを避けたらしいその女子生徒には見覚えがあった。切り傷が一筋だけ手のひらにできてしまったらしいが、彼女はそこを握るだけで治してしまう。


 金髪に青い瞳__高い治癒能力を持ち、一部では信仰対象にもなる、通称「光の子」。


 その美しい見た目を、学園で見ることはそうそうない。


「久しぶり、ティナ!」


 私のことを短縮形で呼ぶ数少ない友人、ホタル・ホワイト。


 二年前、Cクラスに在籍していたころに仲良くなった、同性では唯一くらいの大事な友人だ。


「ごめん!いきなり攻撃なんてして……」


「いいよ、私もこそこそ付け回したりしたから。それに、これで恩もできたよね?」


 その言葉に、一瞬固まる。そして二人して噴出した。そういえば彼女はこういう性格だった。全く善人なんかではない。


 にやりと悪そうな笑みを顔に広げる彼女を見て、私も釣られそうになる。けれど、私はそっと口角を下げた。


「で、私に何をしてほしいの?」


「実は私、今はヒーラーとして時々任務をしてるんだけど……国王陛下直轄の第三騎士団がつい昨日帰還してきたの。一部の人たちの大きい怪我を治しに行かないと行けなくなっちゃって」


 治癒魔法を扱える人は極稀だ。炎、水、風、大地、光、闇と呼ばれる6属性とはまた話が変わり、大地魔法の派生で更にはイメージも難しい。


 もちろん文献なんかも存在はしているが、古代文字が使われていたり、そもそも宗教染みていてどこまでを参考にするべきかわからないようなものばかりだ。


 そんな難しい魔法だから、ヒーラーというのは本当に数が少ない。いても切り傷や擦り傷とか軽い怪我を治せる程度。


 光の子はそもそも俗世に出てこないため、ホタルのような腕の良いヒーラーは学生だとしても引っ張り出さないといけないくらい人が足りていないのだろう。


「私も治癒魔法は大して使えないよ。多分、王宮にいるヒーラーよりちょっとできるくらい。ホタル一人の方が早いと思うけど」


「そうじゃなくて、小さめな傷の人たちはもう王宮のヒーラーが治してるんだけど、今回第三騎士団が行った場所っていうのが厄介でね」


「治癒魔法じゃ治せない何か、ってこと?」


「そうみたい。治したのに痛みで叫び回ったり、幽霊がいる!って泣き出したりするらしくて」


 大の大人が苦しんでいる様子を想像して、鳥肌が立つ。騎士団は国でも花形と言われているが、実際は怪我以外のことでの苦しみが多いと聞いたことがある。


 まぁ、そりゃそうだ。どんな人間だって、やりたくないことを命令されたり、怖い場所にいたりしたらおかしくなるのが当たり前だ。


「ってことは、おおよそ……ノックスの森?」


「うん。どんな魔法が通じるのかとかもわかんないし、正直王宮の人たちって当てにならないでしょ?

視点が欲しいから暇なら来てほしいんだよね」


「なるほどね。いいよ、一緒に行く」


「ほんと?」


「ま、王家からのご依頼なら……たっぷりもらえそうだしね」


「……ティナ、変わったね」


 ドキン、と心臓が跳ねる。ここまで何も言わずそのまま接してくれていたが、さすがに変だったか。折角ホタルと久しぶりに会えたのに。


「……そう?」


「うん、まぁ実は聞いてたんだけどね」


「えっ」


「『あの女神のようなティーナが悪魔に乗っ取られた!』って」


 はは、と乾いた笑いが漏れる。騒ぎになってしまうだろうとは思っていたが、復学二日目での想定はしていなかった。暇なものだな、魔法学園というのは……


「まぁ私はどうでもいいけどね。ティナのことは大事な友だちだと思ってるけど、正直わーわー言うくらい面白いキャラ変じゃないし」


「それはそれでなんかショック」


「じゃあまず一人称は吾輩にしていこうか。二人称はそなたね」


「勘弁してー……」


 やっぱり、ホタルには敵わない。


 彼女は私の右手を掴み、廊下をずんずん歩き始めた。見た目とは裏腹に適当で大胆不敵。出会ったときでさえ、そういう風格があった。




「今日からCクラスに編入してきました、ティーナ・エフェクターです!」


 そう自己紹介すると、クラス中から拍手が巻き起こった。異例の編入だったから、受け入れてもらえるかとても心配だった私にとってはすごくありがたかった。


 それに、これでようやく条件を達成できたんだ。


 一気に力が抜けて、今にも倒れてしまいそうだ。案内された席に向かう途中で、私は生まれて初めて、天使というものを見た。


 この学園には、天使までもが在籍しているのかとワクワクしたものだ。


「凄く綺麗……もしかして、天使ですか?」


 綺麗な白肌に、柔らかそうな金髪、深海のような深い色の碧眼。天使にしては少しも温かみのない、微笑みすらないような真顔。そしてとんでもない美人。


 ついそう話しかけると、数秒の後に彼女は小さく吹き出した。


「ううん、私は人間。確かに天使みたいに美人かもしれないけど」


 今思えば、彼女も彼女だが、私も私だ。


 当時の私には、あまり髪や目の色に思い入れはなかった。だからこそ、彼女の色を見てそんな風に言えたが、今ならきっと言えなかっただろう。


 金髪に青い瞳。光の子ではあるが、力を言うのならば強い方ではない。それを紫の髪と緑の瞳を持つ私に綺麗と言われたら、嫌味だと受け取られてもおかしくない。


 それなのに、彼女は笑い飛ばしてくれた。彼女には敵わない、と同時に、大事な人だとも思っている。そんな彼女に頼まれたのだから、行くしかない。



「じゃ、行こうか。王宮に……」

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