第二話 復学
崖の上に位置する魔法学園には、一応飛べない人のために通常のエレベーターがある。入学当初はお世話になったものだが、今ではエレベーターの使い方なんて覚えていない。
私は箒に横乗りをし、ふわりと上空へ舞い上がった。目の前には、昨日見たような城と似た形状だ。昔読んだ小説で想像したような魔法学園そのままの姿だ。
キンコンカンコンカンコンキンコン
おお懐かしい。学園名物爆速チャイム。音楽室から生中継らしいこの音声は、音楽の先生である精霊の機嫌によって長さが変わるらしい。時にはジャズ風になったり、ロック調になったりもする。
Aクラス、と書かれた教室の前に立ち止まる。髪の毛を今一度結いなおし、深呼吸をする。
大丈夫。もうあの頃とは何もかもが違う。クラスも、人も、……そして、きっと私も。
扉に手を掛け、ゆっくりと開ける。視線が一気に集まり、心臓が跳ねる。一気に気分が悪くなるが、ここで逃げるわけにはいかない。
「おはよー、おひさ」
そう声を掛けると、全員が興味を失ったかのように前を向いた。全員手の中にある本に集中しだしたようだ。
その様子を見て、心底ほっとする。ここ、Aクラスは魔法学園の中のトップクラスの集団だ。こんなこと程度でわーわー騒いだりはしない。
生徒数は約10人。少人数教室を作るまでもないくらいの人数だが、それもそのはずだ。
みんなの髪は赤、それとオレンジばかりだ。パッと見るだけで華やかな空間に、一つだけ異色な存在が紛れ込んでいた。
「おっ!ティーナじゃん!」
「え、クラス間違えたっけ」
青い髪に赤の目、激甘なグミのような色合いをした男子生徒だ。二年前、一瞬だけ同じクラスだったことがある。
けれど、ここのクラスに入れるわけがない。
「いやいや、正真正銘のAクラスだよ。ってか、なんだよその喋り方?前とは全然……」
「お前みたいな青髪赤目がAクラス?もしかして落ちこぼれたの?この学校」
そう言うと、視線が一気に集まる。ごめんて。忘れていた。魔法使いはみんなプライドがバーミリアス火山並みに高いんだった。
しかし____今の反応的に、やはり周りからしても彼は異質なのだろう。
この世界において、魔法の強さというのは髪の色と目の色によって決まるからだ。
髪の色は魔力量、瞳の色は操作力。
髪は魔力量が多い方から紫、赤、オレンジ、黄色、黄緑、水色、青、緑。
瞳はその逆。つまり、青髪に赤目というのは、かなり弱い方の部類に入るのだ。それなに、学園トップのAクラスにいる。
そんなことは2年前まであり得なかったため、首をかしげる。
「ま、どうでもいいか」
紫の髪に緑の瞳を持つ私は、席に座った。見渡してみると、意外と知らない顔が多い。一年ごとに編入生を受け入れ、退学者も割と多い学校だ。珍しいことではない。
しかしその中でも、目立つ存在がいる。教卓の一番近く、普通ならだれも座りたがらないような席を二人並んで座っている女子生徒。後ろ姿を見ただけで、おおよそ双子だろうことはわかる。
「……あなたが、ティーナ・エフェクターね?」
突然、赤髪の方が喋り始める。こちらを振り返ると、髪と同じ赤の瞳をしていた。魔力量は多いが、操作性は低い。何気に一番恐ろしいタイプだ。
「姉さま、突然は失礼なのでは……」
姉さま……と、いうことは妹なのであろう方は、青髪に青の瞳。こちらは姉とは真逆で、魔力量が少ない分操作力が高いのだろう。姉妹そろって美人だ。
「さぁ?別人じゃない?」
「嘘を仰らないで。紫の髪に緑の瞳……そんな方が、この学園……いいえ、国に二人といるわけありませんわ」
「お噂は聞いていたんです」
「へぇ、そりゃ光栄だね」
そう言うと、姉の方がわかりやすく顔をしかめた。姉妹で持て囃されて生きてきたんだろう。実際、赤い髪も青い目も、なかなか生まれるものではない。
しかし、私という存在が突然現れたことによって、自分の立場が脅かされることを気にしているのだろう。そういった向上心があるのはいいが、こっちからすればいい迷惑だ。
「__素敵な色ね」
姉の方に髪の毛を触られる。
「やめっ……」
嫌なことを思い出し、つい手を振り払う。背筋に汗が伝い、体の中が急激に冷えていくのを感じる。
落ち着け。こんなことで騒ぐために、私は戻ってきたわけではない。
「……そう?私にとっては生まれてからこれが普通だもん。特別に思ったことないよ」
髪を手櫛で整え、彼女をバカにするような笑みを徹底してほほ笑んだ。それを見た双子は、また眉間にしわを寄せながら、美しいカーテシーをしてきた。
「わたくしは、アリスティア・ローズ。以後、お見知りおきを」
「私はリュシアルカ・ローズです。よろしくお願いします」
「名前長いね。はじめまして、私はティーナ・エフェクター。昨日まで引きこもりしてましたが
元気でーす。よろしくね」
座りながらスカートをひらっとするだけのカーテシーをすると、姉が喋りはじめた。
「なぜ、二年間も?」
「え?気になっちゃう?ならお話しちゃおっかな?最強で天才故の孤独を__」
「……結構ですわ。失礼!」
一応授業時間やぞ。そうツッコミをいれる間もなく、二人のお嬢様は教室を出ていった。あのくらいの嫌味で顔真っ赤にしちゃって。お嬢様って嫌になっちゃうね。
__せっかく、ちょっとお話できたのにって思うところもあるけど……
私は私のために学園に戻ってきた。髪や目のことを持ち出して感情を露わにするような人たちはごめんだ。ため息をついて、私は鞄から本を取り出した。




