おすそ分け
今朝は家族4人、一緒の食卓で……献立はご飯に鯵の味醂干しと“簡単”だし巻き卵に野菜たっぷりのお味噌汁と純和風だ!
勿論、私もお義母さんのお手伝いで台所に立った(まあ、まだ“猫の手”レベルだけど……義兄さんより上手にはなりたいと精進している)。
家族バラバラの時は、コーヒーにトーストが多いのだけど……この“純和風”の香りもとても良い!
大袈裟かもしれないけど……いや、私にとっては大袈裟ではないな!
この香りにとても幸せを感じる!
しかも!!
私は大好きな人の隣で、大好きな人……(ま、お父さんも数に入れてあげよう)人達の為に朝ごはんの支度をしているのだから……
で、“報連相”を兼ねた団欒の中でお父さんが「今日のプレゼンはネクタイを締めてやってみようと思うんだ」なんて口走ったので、お義母さんの目がハート混じりでキラン!と光った。
「じゃあ!私が選んであげる!」
でも私は心の中で『お義母さんは……こんな中年オヤジにそこまで入れ込まなくてもいいのに!』とため息をつき、お義母さんの心を鷲掴みにしているお父さんに嫉妬してしまう。
そして不安になる。
義兄さんは、こんなお義母さんを見て心配にならないんだろうか?
最愛の母が他の男に傅いているのを見て不愉快にならないのだろうか??
そっと義兄さんの方を窺うと目が合ってしまって……義兄さんから肩を竦められてしまった。
もう私は!……泣きそうになるのをグッ!と堪えて笑顔を作り
「片付けは私がやるね」とお茶碗を下げた。
洗い物を終えて自分の部屋に戻り、スクバやトートーを抱えて出て来ても、まだお父さんはお義母さんの前に立っていてデレデレと“着せ替え人形”をして貰っている。
あ~あ!ネクタイを選んで貰っただけでなく、結んで貰って!!
堪らず私は口走る。
「ネクタイもロクに結べないのなら!義兄さんみたいにワンタッチネクタイで襟元にフック留めしたら!ホント!不器用なんだから」
何か言い返そうとするお父さんの胸に手を置いてお義母さんはにこやかに私を諭す。
「隼人さんはちゃんと結べるのよ。私が好きでやらせてもらっているの」
そんな事、私だって分かってる! でも“瑤子さん”はお父さんのお嫁さんである前に“悠耀くん”のお母さんなんだから!!
私が俯いてしまうとお義母さんは私の頭を撫でて謝った。
「ゴメンね。お父さんを取っちゃって」
『違うの!!そうじゃないの!!』
って心の中で叫んだけど、泣いてるのを見せられないから、ひと言呟いた。
「義兄さんが可哀想……」
そしたらお義母さんは俯いている私をそのまま抱きしめてくれた。
「そっか、そういう事なのね」
お義母さんの胸に顔を埋めている私には見えなかったけど、お間抜けなお父さんだけでなく義兄さんも傍に居たのだろう……
「悠耀! ワンタッチじゃないネクタイを持って来なさい!」
って声をお義母さんの胸で聞いている私は……また、皆を騒がせてしまったのね……
◇◇◇◇◇◇
私を横に立たせて見える様にして、お義母さんはゆっくりと義兄さんのネクタイを結び始めた
「……で、こうして輪に通して細い方……スモールチップと言うのだけど……を下に引きながら結び目が首元へ来るように整えるの。奏ちゃん、やってみる?」
お義母さんと“選手交代”した私は“悠耀くん”の首元へ結び目を寄せて言ったら、カレの喉仏がコクン!と動くのを指の背で感じた。
「きっとそのうち……役に立つから」
そう言いながら私の肩を抱いてくれるお義母さんから……
私は今日も幸せの“おすそ分け”をいただいた。