学シャツ
普通のサラリーマンの父が看護師をしている義母とどういう経緯で知り合ったのかは知らないけど、父の事情は推察できる。
鰥夫の父にとって一番煩わしかったのは私……つまり娘を男手でひとつ育てる事だったのだろう。
だから私は!
出て行った実母を私は恨んだ!!
今もだけど……
それは単に棄てられた寂しさからだけではない!
父は……実母の“仕打ち”のせいで長らく女性不振に陥っていた節がある。
そして父の心に差した影は私にも伝播していたのだと思う。
ほんの数年前まで……
私は子供から“明確な女と言う性”となる事に恐怖していたから。
言い訳にしてしまうが私の“女”がぶっ壊れているのはこう言った要因もあるのだと思う。
そんな私を……義母はどう思っているのだろう?
私は……
実は父が……
その……何と言うか
まあ、言ってしまうのだけど……
セフレ目的でマッチングアプリにアクセスして義母と出会ってしまったのかもしれないと考えていて……
だとしたらそれは
父にとって物凄い奇跡が起こったわけで
義母に見初められた父は果報者で私もその恩恵に預かっている。
私の事を不憫に思ったからかもしれないのだけど
義母はいつも優しい心を私に振り向けてくれる。
だから私も……本当におっかなびっくりではあるのだけど……義母に甘え始めている。
「私の事を……義母はどう思っているのかなあ……」
この言葉を頭に置くと甘酸っぱい切なさを胸の内に感じる。
それが男の子に振り向けられれば
きっと片想い……
そして義母には
悠耀くんという優しい息子が居て……
私はまんまと悠耀くんへの片想いを患ってしまった。
二、三日前から気になっている事がある。
学シャツが1枚足りないのだ。
ひょっとしたら義母が仕分けを間違えてしまったのかも……
でも、髪の毛ほども義母を傷付けたくは無いから……
悠耀くんと二人きりの夕食の時に思い切って訊ねてみた。
「ひょっとしてなんだけど……大木くんのところに私の学シャツが入ってないかな?」
「足りないの?」
「……うん」
「そっか!見てみる?」
「えっ?!」
「だから僕のクローゼットの中」
「じゃあ見に行ってくれる?」
「庄野さんに直接見てもらった方が分かるんじゃないかな。大丈夫だよ。見られて困る様な物はまだ置いてないし」
「え~! “まだ”なんだ!」
「そっ!今のところは置いていない」
こんな冗談で笑い合ったのだけど……『カレのクローゼットを覗く』なんて!
変な妄想に陥りそうだったから、頼んで学シャツを全部リビングに持って来てもらった。
ソファーの上に横たわらせた学シャツの前に二人並んで座り、チェックしてみると……
ちょうど袖を絡め合っている2枚の内の片っぽが私のだった。
「何だか……仲良しだね」
ってカレの言葉に胸の内はもうドキドキになってしまって……何とか冗談にしてしまおうと
「うん!私達みたいだね!」って返したら
カレは驚くほど自然に袖を絡めて来て私の手を握った。
私は……
カレの鼓動を確かめたくって……
自分の鼓動を伝えたくって……
そのままカレに体重を預け
寄り添った。