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義兄のいる風景  作者: しろかえで
3/11

サバ缶の味噌汁をもう一度

 悠耀(はるあき)くんには()()()()()()()()()()が原因で昨日の夜から体調が悪い。


 あ、誤解しないでよ!

 私は実母とは違う!

 あんな事はしない!!

 私は悠耀くん一筋なんだから!!

 片想いで真っ黒けに焦げ付く覚悟でいるのだから……


 つまり悠耀くんに言えないのは……心配されるのも恥ずかしいからなんだ!


 例によって、

 この一言で察して欲しい。


『暑さ寒さも彼岸まで』なんて言われるけど

 9月20日になってもとんでもなく寝苦しい夜で……

 でもお腹は温めなきゃで……

 私は汗だくのミノムシ状態!!


 痛いのと吐き気でまどろむ位しか出来なかった私は、とうとう音を上げてタイマーで切れていたエアコンのスイッチを入れた。

 カーテンの合わせを緩めて窓の外を見てみると、夜は僅かに明けていて……アサガオがその色を闇に溶けさせながらも花開いていた。


 でも私の頭の中は……

『そう言えば……』

 と全然違う事を考えている。


『サバがいいって聞いた事がある。今朝の朝ごはんはサバ缶の御味御付け(おみおつけ)にしよう』


 正直なところ動き回るのは辛いけど、どのみち悠耀くんには気取られたくは無いのだから……私はサバ缶の御味御付けに舌鼓を打ってくれたカレの笑顔を思い浮かべながらエプロンを付けた。



 --------------------------------------------------------------------


 ダイニングに慌ただしく入って来た悠耀くんにちょっとだけ驚いたら、カレは少しきまり悪そうな顔でキッチンの私の脇に立った。


「今更だけど、何か手伝える事ない?」


「えっ?! いいよ! 別に私が勝手にやってる事だし、大木くんは座ってて」


「なんだか母さんの代わりを庄野さんにしてもらっているみたいで申し訳ないし……何より、庄野さん!昨日の夜から具合悪そうだし……今も青ざめてない?」


「それは……きっと明りのせいだよ。」


 悠耀くんの心配を杞憂として打ち消したくて努めて事も無げに言葉を返し、身を翻したらカレの体に肩をコツン!とぶつけてしまった。


「ごめん!邪魔だったね」


 これだけで胸が早鐘を打ってしまう私は

「そうそう!だから座ってて!」とカレを上擦った声で押しやってしまい、カレの目を伏せさせてしまった。


 ああ、色んな意味で涙が出そう……

 でもそんな訳には行かないから!

 私は冷蔵庫から生姜チューブを取り出し、雪平鍋の中へけっこう派手に絞り入れた。



 --------------------------------------------------------------------


 ちょっと目を離すとすぐに食器などを洗おうとする悠耀くんを何とか説き伏せて先に送り出し、私はしばらくベッドに横になっていた。


 ふと目覚まし時計を見るとかなり時間が押していたので、私は大急ぎでスクバから巾着袋を取り出しトイレに駆け込んだ。


 電車に乗っている最中に何度か着信音が鳴っていたが、揺られながらスマホを見るなんてできそうもなかったので、教室の席に着いてからようやくスマホを立ち上げた。


 悠耀くんからのメッセは5件も入っていて、すべて私を気遣ってくれる内容だった。


 その最後は……


『バイト行く前に掃除しておくから心配しないで』

 と言う内容で……


 私はうっかり“新妻”みたいな心境になって……♡付きの“お礼スタンプ”を送ってしまい、ニヘラと笑ってスマホを抱きしめた。


 午後になってだいぶ良くなって来たのでメッセで義母(はは)と相談し、晩御飯は私ご自慢?の豚しゃぶサラダにする事にした。


 駅前のスーパーで、スクバを下段に突っ込んたカートを押して“そぞろ歩き”する。


「あ、この“チョコまみれ”のクッキー! このあいだ悠耀くんが美味しい!って言ってたよなあ」なんて手に取る。

「うん!これは掃除を代わってくれたご褒美!!」

 そう独り言ちながら手に持った“チョコまみれクッキー”をカゴに入れてしまう。

 きっと悠耀くんの事だから……しっかり掃除してくれるのだろう……それこそトイレ掃除までも!!

 ……ん?

 トイレ掃除?!


 私、ザワザワとして大急ぎで豚肉たちをカゴに放り込みレジに向かった。



 --------------------------------------------------------------------


 ドアを閉めてそのままトイレに直行した。


 トイレマットの上には塵1つ無く、予備のトイレットペーパーも棚の上へ綺麗に積み上げられている。


 ただ一か所だけ

 奥の壁際に据え置かれた小さなゴミ箱だけは

 スイングする蓋が僅かに開口していた。


 私、恐る恐る蓋を持ち上げて、ゴミ箱を覗き込んだら

 ()()()は手を付けられてはいなかった。


 悠耀くんは……中を見てしまったのだろうか??


 でもカレは“母”と言う名の女性とずっと暮らして来たのだから……

 このゴミ箱は……端から“不可侵”にしてくれたのではないだろうか??


 では、蓋に出来ていた僅かな隙間は??


 それは……私が朝、急いでいたから……

 そんな“始末”になってしまったのではないだろうか??


 こう考えるのが自然だ!!


 自分にそう言い聞かせながらも

 鼻の奥に微かに血のニオイを感じて


 私は耳まで赤くなって

 ゴミ箱の蓋を抱えたまま

 トイレマットの上に座り込んでいた。


 そして今はもう

 バイト先に居る

 悠耀くんに

 どうしようもなく男の子を感じて

 今朝よりももっと激しい鼓動で

 まるで地震が起こったみたいに!!

 私の体を心を

 激しく揺らしていた。




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― 新着の感想 ―
 年頃の男の子と上手く付き合うのは大変なのに、恋と云う一大事をはらんでの生活。  気遣いのでき過ぎる男の子に気を遣いながら、成長していく恋。  キラキラしていてまぶしいお話ですね。  アオハル、いいで…
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