表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
義兄のいる風景  作者: しろかえで
2/11

サバ缶の味噌汁

 今朝は悠耀(はるあき)くんと二人きりだから……


 トーストじゃなく炊き立てのご飯にしてあげたいなと

 早起きした。


 炊飯器から炊きあがるご飯の香りがして来ると、それに相応しい御味御付け(おみおつけ)……念のために言うけどお味噌汁の事だよ……を出してあげたくなった。


 冷蔵庫を開けると食材がキチンと並べられていて、義母(はは)の管理が行き届いているのが否応なしに分かる。


 前のが壊れてこの冷蔵庫がウチにきたのは私が中一の夏。

 でもリニューアルした冷蔵庫の中は

 冷蔵室はジュース以外は牛乳に麦茶とお豆腐、納豆くらい

 野菜室はせいぜいバナナが置いてあるのが関の山……

 冷凍室だけは私の煩悩の塊でアイスがギッシリ詰まっていた。


 ああ、それが今ではこんなに整然としていて……これが“家庭”を支える者の責任感?愛情?なんだなあ……


 もちろん、それを侵したくはないので、私は合わせ味噌のパックだけを冷蔵庫から取り出した。


 しかしどうしよう……ダシの取り方など知る由もない私だし、顆粒ダシのスティックのありかも知らない。

「あっ!」


 古い記憶の中から……サバ缶の味噌汁が出て来た。


 それは“不貞で忙しかったであろう”実母のレパートリー

 ()()()()とは露知らない当時の私は……慌ただしくサバ缶を開け雪平鍋に放り込んでいる実母の手際を尊敬の目で見ていたものだ。


 とにかく“そんなの”は脇へ追いやって、私は“本題”に取りかかる事にした。


『サバの水煮缶の中身を丸ごと』と『フリーズドライ具野菜いっぱい』をガサガサと鍋へ投入して水を張って火に掛ける。沸騰したら3分ほど煮てから合わせ味噌を溶かし入れて味を見る


 う~ん……味はそれなりにできたけど、ちょっと魚臭過ぎる!

 お店の「あら汁」の様には行かないな……

 チューブしょうがを入れてみようか


 冷蔵庫の方へ振り向き、ちょっと逡巡していると


「あ、美味しそうな匂い!」って悠耀くんの声がした。


「ひょっとして朝ごはん?」


「う、うん!」


「庄野さん凄いね!」


「……そんな事ないよ……」


「でも、学校の用意とか大丈夫?」


「あ、うん エプロン外してだらしなくリボン付けるだけ」


「えっ?!『だらしなく』はマズいんじゃない?」


「でも大木くんだってネクタイは緩めてるでしょ?」


 こんな話の流れで、御味御付けもそのまま出してまったけど……


 カレ、御味御付けもご飯もおかわりしてくれた上に

「さっ!庄野さんは“いい按配”にリボンを付けて来て」

 と洗い物を請け負ってくれた。


 このさり気ない優しさに……私はドンドン駄目になる。


 鏡に映るのは

 恋に浮かれたオンナの顔


 絶対違うはずなのに!!


『カレの優しさが私に向けられた好意の証』と

 思い込もうとする私。


「どうする?駅までは一緒に行く?」


 そう声を掛けられて

 鏡の中の()()()()()の顔はあからさまに輝く。


「うん!駅までならね!」


 思わず声を弾ませて廊下に出る。

 カレを見ると

 ()()()の他に巾着を持っている。


 悠耀くんのクラス、今日体育なんだ!

 お腹いっぱいになり過ぎて体育大丈夫なのかしら……

 私への気遣いで無理しちゃったのかな……


 カレと並んで歩きながら

 こんな風に色々と考えてしまうけど……

 何も聞けない。


 ああ

 もう駅だ!


 電車はカレとは別の車両に乗らなきゃ!


 同じ学校なのだから……校内では()()()()()()()()()を装う必要がある。


 つい、カレの方に引き寄せられてしまうこの視線を……同じ学校のコ達に知られてしまったら……

 “片想い”がバレてしまったら……

 カレに迷惑が掛かる。


 悠耀くんには悠耀くんの世界があるのだから……


 それは冷蔵庫の中と同じ様に……


 侵しちゃいけないんだ!




 瞳ちゃんに誘われてトイレへ行った帰りに汗と埃に塗れた悠耀くん達とすれ違った。


「5組の男子はサッカーだったんだ……」と私はぼやかして言う。


「大木くんって!」

 唐突に発せられた瞳ちゃんの言葉に私はドキッ!とする。


「えっ?!」


「いいよね……」


「いいって??」


「そっか……奏ちゃんは知らないか…… ヨソのクラスだしね……大木くんってすっごく気遣いができる人でさ!」


「えっ?! 大木くんって……同中のコ?」


「ううん!カレ、図書委員だから。時々一緒になるの……押し付けられるみたいにしてなった図書委員だけど、今は押し付けられて良かったなあって思えるくらいにカレと一緒の放課後が楽しみなんだ……あっ!これ!他の人には秘密だからね!」


 照れくさそうに頬を染める瞳ちゃんに向けた私の笑顔は

 引きつっていたのかもしれない。


 私の知らない悠耀くんの世界を共有する瞳ちゃんに

 私は嫉妬している。

 そして「なんで図書委員に立候補しなかったのだろう!!」と死ぬほど後悔している。


 ほんの数時間前に「悠耀くんの世界を侵しちゃいけないんだ!!」と

 心に誓ったばかりなのに










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 恋する乙女の心情は複雑ですよね。  女子力皆無な奏ちゃんの初恋は成就するのでしょうか。  楽しみですーーう。゜+.゜(´▽`人)゜+.゜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ