恋は……恐ろしい?
クラス1の美少女との誉も高い瞳ンと“女がぶっ壊れている”私は今、マックの二人席で向かい合わせに座って、お互いのスマホを二人のトレイの谷間に並べている。
“秘密のデーター”を瞳ンのスマホから私のスマホへWi-Fiで転送しているのだ。
こうしてる間も、瞳ンは「今日はお腹が空いてるんだ!」とのセリフを添えてビックマックをガブリ! とやって口角にくっ付いたオーロラソース? を舌でペロリと拭った。
それは“カノジョが天使を演じている”教室では絶対に見せない所作で……私と瞳ンの友情の証でもあるのだが……私はカノジョが時々分からなくなる。
瞳ンはあざとさ故に天使を演じているのか、それとも単なるサービス精神からなのか……入学式の時からトピックスになるくらいの見目麗しいこの“美少女戦士”は、ただそれだけの理由で学級委員に推され、そこから全力離脱する為に図書委員になり同じ図書委員の義兄さん(=悠耀くん)に恋してしまった。
ああ、それが無ければ……私は何のわだかまりも無く瞳ンと親友の契りを結べるのに!! 同じ人に恋してしまっている私の胸は、いつもどこかでチリリ! と痛い。
瞳ンは……あざとさも可愛さの一部になるくらいに愛らしいイイ子なのに……
「あ、コピーできたみたいだよ」って瞳ンの声に私は我に返る。
「あ、ありがと。で、なんの映画なの?」
って聞くと瞳ンはまさしく( *´艸`)な顔だ。
「なんだと思う?」
「……なんだろ? なんかヤバそうな雰囲気あるけど……」
「正解~! その『ヤバそう』なのを具体的に想像してみて!」
「ええ~!! 瞳ンがヤバいって言うから……どんな感じなのかな??」
「うん! ヤッバーい! のだよ」
「あ、分かった! カメラ男が取り締まるヤツでしょ?」
「カメラ男?」
「ほらっ!『NO MORE 映画泥棒』っていうの! 今、上映中の映画の不正データーだ!」
「ブ、ブーッ! ハズレでーす!」
「エーッ! 何? 分かんないよー!」
「フ・フ・フ! じゃあ、後で自分の目で確かめてみてね」
と言いながら瞳ンがチョイチョイと手招きするので顔を寄せたら
「これは二人だけの秘密だからね」と耳元で囁かれた。
◇◇◇◇◇◇
2.4Gもあったからガッツリ映画だろうと思って土曜の夜に観る事にした。
バイトから帰って、先にご飯食べてからゆっくりお風呂に入った後、スマホをドレッサーの上に置いてPLAYをタップすると……普通に高校生のカップルが揉めてるみたいで……そんなシーンはちょっとパスかなあってしばらく目を離してドライヤーを使っていた。
「ん?!」
ドライヤーの音の隙間から異質な声が聞こえて目をスマホに向けてみると……
「えっ? えっ? いたしてるの??!!」
慌ててボリュームを下げようとして却って上げてしまい、私はお布団へダイブして四苦八苦した。
ようやく画面を止めて、タイトル検索してレビューを見てみたら……どうやら《《エロい》》映画らしい。
私、大きくため息をつきながらドライヤーを再開したのだけど、制服のポケットからBluetoothのイヤホンを出して来て、結局、半分以上も観てしまった。
私、こういうの観るの初めてで……お布団に入ってもしばらくは心臓がバクバクして暗い天井をずっと見つめていた。
そして、この映画の夢をみてしまった。
更に悪い事に……私は夢の中でいつのまにか映画のヒロインになっていて……悠耀くんと抱き合っていた。
そのドキドキでガバッ! と目が覚めたら……寝汗だけじゃなくて……
下着が汚れていた。
ああ! ああ!! ああああ!!!!
私はやっぱり実母の子!!
淫乱なんだ!!!
穢れなんだ!!!
これがもし、義母や悠耀くんにバレたら!!
考えただけで青ざめ、ガタガタ震える。
「とにかく証拠隠滅を」と思ったけど……履いているのはこの間、義母と一緒に買った物だったから……
捨てるわけにはいかない!!
仕方なく私はパジャマから何から全部着替えて、使ったタオルもひとまとめにして用心しいしい洗濯機へ向かったのだけど、そこには先客が居た!
「奏ちゃん! どうしたの?」
「お義母さん!!」
一瞬の気まずさの後、私はとっ散らかった。
「あの! ごめんなさい! 私、失敗しちゃって! こぼ……」
ダメだ! このあいだ『重い』って義母に相談してたんだ。
このタイミングでこんな事を言ったら“生理不順”で義母に心配を掛けてしまう……
どうしよう!!
私、もうガタガタと震えてしまって……そんな私を義母はじっと見つめている。
「奏ちゃん」
「……はい」
「それ、頂戴! 一緒に洗うから」
震えが止まらない手で抱えている汚れ物を義母に渡す私はパニックだ。
『どうしよ?! どうしよ?!! どうしよ?!!!』
「寒いの?」
「……」
「お風呂、今、隼人さんが入ってるから……隼人さんが出たら湯船にも入れるよ」
私は無言のままブンブンと頭を振る。
「そっか、隼人さんの後はイヤか……」
義母の言葉に……我慢していた涙がじわっと染み出る。
「ココア入れてあげるから、いらっしゃい」
義母がそっと私の手を取ったので……私はリビングへ行かざるを得なくなった。
◇◇◇◇◇◇
ふんわりと湯気の立つマグカップが私の前に置かれた。
「まだ熱いし、よ~くかき混ぜてね」
と、義母は自分の分のスプーンを動かす。
「ありがとう……ございます」と言うのがやっとだった。
義母はスプーンをソーサーに置いてマグカップをフーフーと吹いたけど……口を付けず、私に語り掛けた。
「いつかは、キチンと話さなきゃって思っていた事を……今、話すね。奏ちゃんには……聞きたくない事かもしれないけど……」
私は……返事さえする事ができない……
「隼人さんとは……結婚前に随分話し合って決めたの……隼人さんには悠耀、私には奏ちゃん……お互いに新しい子供ができたのだから……もう、これ以上は望まないって」
私は微かに頷いた。
「奏ちゃんも、悠耀も……その時に愛があった結果としてこの世に生を受けたと言うのは……分かるよね」
私は今度は頷けないでいたから……義母はほんの少し悲し気だった。
義母はマグカップからココアを一口飲んで、話を続ける。
「でも、人はね、それが可能であるならば……例え子供を産む為では無くても愛し合えるし、そうするべきなの。もちろん節度を保ってだけど……」
「……」
「まあ、そうは言ってもね。 胸が切ないくらいに突然したくなる事もあるの。だから今日はエチケット違反しちゃった。ゴメンナサイ」
義母がテーブルにくっ付かんばかりに頭を下げるので、私は夢中で頭を振った。
「ありがとう、奏ちゃんは本当に優しいのね」
その言葉に私はまた頭を振る。
「違うんです! お義母さんとお父さんは素敵だけど……私はただの淫乱なんです!!」
そう言って……マグカップを抱えたまま泣き伏した私の背中に……ふんわりと柔らかく温かいものが触れて……私はぎゅっと抱き締められた。
「それは違うのよ。女の子も男の子も……胸の中に愛の芽が育つと……少しずつ準備を始めるの。最初は……無意識にね。奏ちゃんの中でそれが起こったの。淫乱とは違うのよ」
「でも!! でも…… だったら…… 恋って……怖い」
この私のつぶやきに義母は一瞬、息を呑んで私の事を更にギューッ! と抱き締めた。
私には義母が素肌の上にパジャマを羽織っているだけなのがはっきりと分かった。
そこに確かに命の育みがあった事も……
「大丈夫! 私が居るから! ずっとずっと居るから! 奏ちゃんの事、いつも必ず守ってあげる! あなたが悠耀を好きになっても……他の素敵な人を好きになっても……それは決して変わらないから! 安心しなさい」
背中に義母の声を聞いて……だだ泣きの私は訴えた。
「お義母さん! 抱っこして!」
こうして……柔らかな胸のふくらみを頬に、優しい温かさをからだいっぱいに感じながら私は願った。
今こそ、この母の胎内から生まれ出たいと。
お・し・ま・い ♡




