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最弱パーティのナイト・ガイ  作者: フランジュ
エターナル・マザー編
97/250

初戦の相手


ナイトガイの朝は早かった。

向かう先は闘技場だ。


他のパーティたちは多くの試合を勝ち抜くことで、ようやく本戦への出場が叶うわけだが、彼らはそうでなかった。

"たった一度の戦闘"と"不戦勝"によって本戦へと駒を進めることができたのだ。


だが、そんな特別が許されたのはナイトガイだけではなかった。


謎の赤髪の男のパーティ。

このパーティはたった2人だけのチームだったが、圧倒的な波動の力によって相手チームをじ伏せ、多くの負傷者を出したことによっての本戦出場を果たす。


S級冒険者がいるナイトガイ。

最強クラスの波動を使う赤髪の男のパーティ。


この2チームはシードとしてトーナメント表の両端に追いやられた。

大会の盛り上がりを期待してのものだということは出場者だけでなく、今日から数日間にわたって訪れる観客席たちにも理解できた。


____________



闘技場



選手と観客では入り口が異なり、選手は一階、観客は二階へと上がる。


ナイトガイのメンバーは一階、広い石造りの一室に選手たちは集まっていた。

数にして40人ほどか。

待合室とも言うべきこの部屋は直接に試合会場である闘技場中央へと繋がる場所だ。


この部屋の壁には大きくトーナメン表が張り出されており、選手たちはそれを凝視する。


そして視線はナイトガイの方へと移り、鋭い眼光を向けられたガイとローラは息を呑んだ。


「かなり敵視されてるわね……」


「ああ……」


本戦出場は14チーム。

ナイトガイと赤髪の男のパーティは両端シードで3回勝てば優勝だ。


「あのトーナメン表だと勝ち抜けば決勝で赤髪のチームと当たるのか」


「そうね。恐らく決勝は赤髪の男が大将をやると思うから、私たちはそれに合わせて組み合わせを決める必要があるわ」


本戦ともなれば不戦勝ということはまずあり得ない。

勝ち抜けば必ず3回戦うことになる。

そうなるとナイトガイは不利だった。


「今の俺は大将ができないから、ローラとエリザが交互に大将をやるしかないな」


「そうなるわよね……」


ローラの表情は固かった。

この大会のルール上、戦う順番は前試合と同じように構成することはできない。

必然的に大将は入れ替えになる。

現状、カトリーヌの指輪の影響で波動が使えないガイは大将戦に出ることはできないのだ。


「一度はローラも先鋒か中堅で出なきゃならないぞ」


「え、ええ。そうね……」


今、考えられる組み合わせはこうだ。


一回戦・ローラ、ガイ、エリザヴェート

二回戦・ガイ、エリザヴェート、ローラ

三回戦・ローラ、ガイ、エリザヴェート


一回戦目のローラとガイは先鋒と中堅どちらでもいい。

三回戦目は赤髪の男のチームが勝ち抜いてきたことを前提としての組み合わせ。

赤髪のチームは2人だけなのでローラは不戦勝となってガイとエリザヴェートだけが戦う構成だ。

ガイとエリザヴェートを逆にしてもいいが、万が一に備えてこの組み合わせを考えた。

もし初戦のローラが勝てたとしても、可能性は低いが、もし中堅で出たエリザヴェートが負けた場合、大将戦はガイが出ることになり、敗北が確定してしまうからだった。


「あ、あたしが一回戦目、先鋒で出てやろうじゃないの!!」


「わかった。ならこの組み合わせで最後までいくぞ」


「え、ええ、よくってよ!そうと決まったら、相手チームの観戦に行くわよ!」


「そうだな。どんな相手なのか見ておかないと」


ローラは鼻息荒く歩き出そうとした時だ。

闘技場内に大きくアナウンスが響き渡った。


『一回戦、第一試合終了。勝利チーム・"ダークナイツ"!』


そのアナウンスを聞いたローラは開いた口が塞がらなかった。

先ほど始まったばかりの試合が、もう終わってしまった。


「はぁ!?どう考えたって、早すぎるでしょ!!」


「"ダークナイツ"ってパーティ、かなり強いんじゃないか?」


「聞いたことないわよ、そんなパーティ!」


ローラの叫びが再び他のパーティの視線を集めるが、それも一瞬だった。

大きな笑い声と共に、今の試合で勝利したチームが他のパーティを掻き分けてやってきたのだ。


「わーはっはっはっは。余裕、余裕!!この波動数値12万のルガーラ・ルザールが通った後には塵すら残らん!!」


「あんた戦ってないでしょ」


「……」


大きな漆黒の鎧に身を包み、赤いマントを羽織る黒髪に少し銀が混ざった男。

背中には大きな剣を背負っていた。

そしてその背後にいる露出度の高い民族衣装を着た褐色肌の美しい女性は呆れ顔で歩く。

女性の隣には黒の鎧の男より体格のいい優しそうな表情をした男がいた。


「あれは確か……」


ローラがそう言うと、黒い鎧の男がスタスタと小走りで近づいてきた。


「おお、君、私のこと知ってるのかね?」


「いや……人違いかもしれないです」


巻き込まれたくない……その一心だった。

ローラは、"これは間違いなく面倒ごとになる"と思った。

だが、その言葉も虚しく、黒い鎧の男の後ろにいた女性が顔を出すと笑顔で口を開く。


「あら、あなた、アダン・ダルで会ったわね」


「げ……覚えてたの?」


「あなた達のパーティメンバーはみんな印象的だから。あの"黒髪の男性"は特にね」


"黒髪の男性"というのはクロードであるとすぐに判断できた。

それを聞いた黒い鎧の男、ルガーラはニヤリと笑って口を開く。


「なるほど。ミレーヌと面識があったのか。もしかして君たちが"ナイトガイ"?」


「え、ええ。そうよ」


「リーダーは君か?」


ルガーラはローラから視線をずらした。

その先はガイがいた。


「あ、ああ」


「そうか。見るからにかなりの手練れだな。凄まじい"闘気"を感じる」


「え?」


「戦うのが待ち遠しいねぇ。では私たちはこれで失礼するよ。あーはっはっはっはっ!!」


ダークナイツのメンバー達はルガーラの高笑いと共にその場を去った。

ミレーヌと呼ばれた褐色肌の女性は苦笑いしながら手を振り、優しそうな大男は笑顔で頭を下げていった。


「なんなんだよ、あれ」


「……最初っから厄介な相手かもしれないわね」


「どこがだよ。全く強そうに見えないけど」


ガイは呆れ顔でルガーラたちが去るのを目で追っていた。

だがローラは違っていた。


「"闘気を感じる"なんてありえないもの」


「なんだよそれ」


「昔、ゼニアお姉様が言っていたのよ。闘気を感じれる人間はごく稀にいて、それは戦闘の天才だと。お姉様の近くでは第一騎士団長しかいなかったみたい。さらにその上の"闘気が見える人間"は存在しないって言われてる」


「……」


「それに今の彼らの話だと、あのルガーラってやつは試合をしてない。大将だったのよ」


「それがどうかしたのか?」


ローラは深くため息をついた。


「次にルガーラがやるのは先鋒か中堅。こちらは私とあなたが先鋒と中堅で出るのよ。最悪の場合、二連敗して初戦敗退よ」


ガイはローラが言いたいことをようやく理解できた。

もしガイがルガーラと当たった場合、勝てるかどうかの問題だったのだ。

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